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プロフィール
1949年、長野県生まれ。横浜国立大学卒業後、大和証券に入社。大和総研アメリカ
調査部長・チーフアナリスト、大和総研
企業調査第二部長を経て、1997年、ドイツ証券に入社。調査部長兼チーフ・ストラテジストを経て、2005年、副会長兼CIO就任。
2009年、株式会社
武者リサーチ 設立。
主な著書
『新帝国主義論―この繁栄はいつまで続くか』
武者 陵司 (著) 東洋経済新報社
2007年
『アメリカ 蘇生する資本主義―日本の活性化に何が必要か』
武者 陵司 (著)
東洋経済新報社 1993年
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片岡:
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今月の右脳インタビューは、武者陵司さんです。本日はご多忙の中、有難うございます。それではご足跡等お伺いしながらインタビューを始めたいと思います。
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武者:
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大学を卒業後、大和証券でミクロのアナリストを10年、その後米国勤務などを経て、1997年にドイツ証券(注1)に入りました。アナリストとして生きてきましたが、私のものの見方は最低でも10年、長ければ50年といったもので、短期的な事象にはあまりフォーカスしていません。大学時代に経済史を学んだ影響もありますし、昔から歴史が好きで、背後にある因果関係の糸を手繰り、例えば、あれだけの繁栄をしていた平家が落ちぶれたのはなぜか。結局、平家の経営はバランスを欠き、目先の利益を追い求めるあまり宋との貿易にばかり力を入れ、生産の基盤である農民や農村社会を支配するメカニズムをきちんと作り上げていなかったのではないか…と。私がものを考えるアプローチはここにあります。
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片岡:
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アンバランスさは、現代もそうかわっていないかもしれません。
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武者:
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将来を予測する人間は、理屈ではなく、現実の経済や歴史が織り成す因果関係に忠実でなければならないと思っています。資本主義経済において何が大切かというような根本も含めて現実や歴史や経済を動かしている大きな枠組みを念頭におきながら、なぜこうなったのだろう、多分こういうことがあるからだ…と個別分析をします。それらをもとに全体像を組み上げて仮説を作り、その仮説に基づいて再び現実を分析し、全体像を再構築する。そして仮説を念頭に予測を行い、間違えていたら仮説を修正する。ただ単に世間の人が8割強気になったら売り、3割ならば買いだ…というのでは仮説がありません。8割ではなくて9割ならば…というような自省はできれも、そこから得られる仮説の説明力はあまりに小さい。大きな説明力のある仮説を創っては壊す。その繰り返しがアナリストの成長だと思っています。実は、ここは一番面白くて、興味深くて、そして競争のないところです。5年もやれば、ものすごく競争力のあるモデルができます。普通、時間的な余裕もありませんし、悠長なことを言っていても、明日上がる株を予想できなければ、クビになる。仮説を主張しながら、同時に目先をしのぐテクニックや条件がないと生き残れません。それはハードワークであったり、ひらめきであったり…。
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片岡:
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武者さんの場合は?
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武者:
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仮説や長期にわたるリサーチが可能なチャンスを最大限活用しました。例えば『日本の自己資本比率が低いのはなぜか』というテーマが与えられた時、自動車産業を100年近く振り返り、国際分析を連日徹夜で行いました。こうすると自動車産業の大きなピクチャーが見えてきて、日本と米国のどこが違うのか、企業ごとの行動様式の違いは、それぞれの段階に相応しい企業金融のあり方は…など、理屈ではない事実が分かります。米国の自動車会社は1930年から1980〜90年頃まで、成長の初期段階を除いて基本的に自己ファイナンス、キャッシュフローの中で設備投資を行ってきました。それに対して日本は借金による規模の拡大です。このような事実から、金融論が…という前に、米国の産業が100年の間、どのような金融をしてきたのかを推し測ることができます。こうしたことを繰り返していると、仮説を作るうえでの重要な柱が出来てきます。また勃興期の日本の住宅産業の分析を行ったこともありますが、これは今のサブプライムの問題に応用できます。住宅の需要や購買は、住宅ストックのリプレイスと新規の需要(世帯増等)、所得と借入金利と住宅価格などで決まります。米国の住宅はストックで1億戸あります。100年に一度建替わるとすると100万戸の建替需要が発生し、また人口増加が300万人だとすると100万世帯が増加するので、ベースラインの需要は200万戸あっても不思議ではない。今の米国の住宅需要は新設住宅で100万戸です。そうであるならば今の住宅の過剰感は割合と短期的に解消されるはずです。こうした事実を知らないと200万戸あった住宅需要が100万戸まで落ち込み、この先どうなるだろうと慌てて…。
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片岡:
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米国駐在時は如何でしたか。
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武者:
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6年程おりましたが日米比較ばかりです。例えば1990年当時、米国にある一番新しい高炉は1950年代にできたものでした。一方日本のものは1970年代後半にできたものです。同じ高炉でも30年近い差があれば競争にならない…というような仮説を創る上で重要な事実を常に追求してきました。こうしたことに自信があれば、仮説が外れることに臆することなく主張ができます。時には直感的に、自分がまだ理解していない何かがあり、間違いそうだと感じても、論理の整合性のために主張し続けることも必要です。当てるために自分の仮説を作り変えてしまっては話にならず、顧客も望んでいません。ですからモデルに自信がないということは言っても、仮説を変えることはありません。勿論、ついてくる顧客、そうでない顧客がありますが、仕方のないことです。すべてのニーズに応えるような商品、リサーチはあり得ません。私の場合、ある仮説に基づいて、どのようなことを考えるかを知りたいという人などにはマッチしますが、今、世間の何割が強気で、何割が弱気、いつ転換するかを知りたい、という人には何も提供できません。
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片岡:
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御社にとっては如何でしょうか。
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武者:
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あくまでも私の意見はone of
themで、私の分析のように今後日本株は上がるだろうから資源配分をしようということがあったとしても、それは個人ベース、採否はすべて個人の判断です。誰か一人が専制君主で意見を決めていたら、あまりにリスクが大き過ぎます。それに金融ビジネスはサイクルが短く、私はそうした短期的なものに対して競争力のある仮説を持っていません。ポジションが積み上がっているから売りだ…とか、そういう事は、私よりもっと詳しい人がいます。勿論、長い目で見れば、大きなトレンドはだいたい予測してきているので、的中率に対する信頼はあります。
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片岡: |
世界経済の潮流についてお聞かせ下さい。
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武者:
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新興国の生産性の飛躍的向上と強権的体制による超低賃金労働力の供給(cheap labor
gift)の活用により、先進国多国籍企業は国際分業体制を進め超過利潤を獲るという現象が広がっています。私はこのトレンド、『新帝国主義論(注2)』を提唱していますが、そこから出てくる結論を簡単に言うと、チャンスはグローバリゼイションにありということで、グローバル化に対応したセットアップをするということが成長と収益拡大の条件です。
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片岡:
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国際分業をM&Aの観点からみるとどうなるのでしょうか。
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武者:
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グローバリゼイションのために、ディストリビューションや生産拠点など欠けている経営要素を揃えるという観点で、M&Aは手っ取り早く有効です。今のような柔軟な市場経済の下ではM&Aによって大変な飛躍も可能ですし、また反対に相手に足元を切り崩されることもあり、金融面でのスタンド・ポイントが益々重要になっています。日本企業は開発や製造といった面では強いのですが、金融資本としてリターンを追求し、それを株主、資本の提供者にきちんとデリバリーするという点において弱点があります。そういう弱点を見透かされ、割安な株を購入して研究開発や製造の能力を手にしようという事が十分にあり得ます。
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片岡:
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金融を強くするにはどのようにしたら良いのでしょうか。
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武者:
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今回の新帝国主義論を書いて一番わからなかった点がそこです。つまり日本にとって何が望ましいのか見えてこない。日本の最大の強みは製造業にあります。そして、その背後にある日本的な摺り合せやチームプレイが日本の技術力を支えているケースがあります。ところがこの日本的なチームプレイが機能しない金融の分野において、日本はものすごく弱い。日本的なチームプレイを維持することによって製造業のアドバンテージを保ち、金融業を捨ててしまっていいのか。逆に金融的な強さを持たず、チームプレイだけで日本の製造業の強よさを維持できるのか。この点に関して答えを持っていません。ですから日本や日本企業にこういった方向に進むべきだという議論にも迫力がありません。といって金融を強くするために、性急にすべて自由にしろというと、日本の強みが削がれてしまいます。
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片岡:
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ドイツも日本と同じような体質を持っているものと思います。御社のミッション・ステートメントは株主への貢献を特に強調していますね。
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武者:
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それはDeutsche Bank(注3)がジャーマン・コーポラティブから離れているということです。ドイツも日本もある意味で会社本位主義です。Deutsche
Bankは産業を支配する金融資本で、ベンツの株主であるなど、いわばその総本山でしたが、それを完全に捨ててアングロサクソン的な金融業へ大転換しました。ホールセールバンクに関してグローバルに完全に一つになっていて、国内で一番大きいと言ってみたところで無意味、ベンツの株も従来のコーポラティズムの世界では大切でしたが新しい時代では意味がない。Deutsche
Bankは論理的に従来のビジネスモデルがもう維持できなくなったということをいち早く察知し、事実上のヘッドクオーターをLondonに移し、経営陣を含め、すべて外国人に渡しました。そしてベンツの株を売って、その利益を証券ビジネスに投入しました。未曾有のリストラクチャリングです。1995年頃にはビジネスモデルも整い、『札束で人を集めている』と揶揄されながらも沢山の人材を集めました。今の幹部も殆どMerrill
LynchやGoldman Sachs、Morgan
Stanley等から来ており、完全なアングロサクソン型の投資銀行となっています。
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片岡:
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日本は、如何ですか。
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武者:
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弊社(ドイツ証券)は会長の橋本(元富士銀行頭取 元全国銀行協会連合会会長)や私のイメージもあり、幾分バタ臭さも少ないのですが、実質的には外国人の日本法人社長、副社長の2名を中心とし、またセクション毎の本社からの直接統制があり、いわゆる外資系企業です。
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片岡:
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貴重なお話を有難うございました。
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(敬称略) |
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−完− |
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インタビュー後記
事実と論理性を追求し、常識に囚われることなく展開される武者さんの仮説の切れ味の鋭さは秀逸です。理論には、それ自身の正しさよりも、その強弱や影響力が問われる側面もあります。『新帝国主義論』には、そうしたことも含めて、実戦的な迫力の積み増しもまた必要ではないでしょうか。
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聞き手
片岡 秀太郎
1970年 長崎県生まれ。東京大学工学部卒、大学院修士課程修了。博士課程に在学中、アメリカズカップ・ニッポンチャレンジチームのプロジェクトへの参加を経て、海を愛する夢多き起業家や企業買収家と出会い、その大航海魂に魅せられ起業家を志し、知財問屋 片岡秀太郎商店を設立。 |
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脚注
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注1 |
ドイツ証券株式会社
http://www.db.com/japan/
資本 1,274億5,300万円
(資本金:637億2,800万円、資本準備金:637億2,500万円)
総資産 6兆8,303億5千万円
総負債 6兆6,981億2千200万円
主要株主: ドイチェ・セキュリティーズ・リミテッド (DSL-HK) 100%
(DSL-HKはドイツ銀行AGの100%子会社)
代表者 代表取締役社長兼CEO デイビッド・ハット
従業員数 1,105名(2007年12月31日)
事業内容
世界最大級の金融機関であるドイツ銀行の在日証券業務拠点。東京・大阪の証券取引所正会員。株式、債券のセールス/トレーディング、資金調達、M&Aなど、ホールセール(事業法人・機関投資家等)向けの幅広い証券ビジネスを展開。ドイツ銀行グループの世界的な投資銀行業務強化策にともない、1990年代半ばより営業基盤を大幅に拡張。
所在地 〒100-6171 東京都千代田区永田町2丁目11番1号 山王パークタワー
連絡先 Tel: 03-5156-6000 Fax: 03-5156-6001
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注2 |
『新帝国主義論―この繁栄はいつまで続くか』 武者 陵司 (著) 東洋経済新報社 2007年
目次
第1章 新しい経済的現実、言葉を失う経済学
第2章 21世紀初頭の経済革命、「地球帝国」の成立と恩恵
第3章 地球を覆う相互依存の分業体制
第4章 「地球帝国]循環の成立とドル体制
第5章 「地球帝国」の経済学
第6章 日本の危機を救った「地球帝国」の成立と利潤率の回復
第7章 「地球帝国」経済の展望とリスク
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注3 |
Deutsche Bank
Aktiengesellschaft
所在地 : Taunusanlage 12 D-60262 Frankfurt am Main *
設立 : 1870年
ウェブサイト : http://www.db.com/
取締役会会長兼グループ経営執行委員会会長 : ヨゼフ・アッカーマン
監査役会会長 : クレメンス・ベルジッヒ
従業員数 : 7万8,291人(2007年12月31日現在)
拠点数 : 世界76カ国1,889支店
その他、参照
http://ja.wikipedia.org/wiki/ドイツ銀行 (Wikipedia)
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(敬称略)
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片岡秀太郎の右脳インタビューへ |