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プロフィール
1953年、米国テネシー州生まれ。
イエール大学で経済学/日本研究の学士号を取得、マサチューセッツ工科大学(MIT)で経済学博士号を取得。ニューヨーク連邦準備銀行、チェース・マンハッタン銀行、国際通貨基金(IMF)、ソロモン・ブラザーズ・アジア証券等を経て、モルガン・スタンレー証券会社(現:モルガン・スタンレー証券株式会社)に入社。
その間、1970 年にAFS
交換留学生として初来日。野村総合研究所(1973〜74
年)、および日本銀行(1981〜82 年)で研究に従事。
主な著書
「日本の金融市場:財政赤字、ジレンマ、および規制緩和」
(MIT プレス、1986 年)
「日本の衰弱」(東洋経済新報社、1996 年)
「日本の再起」(東洋経済新報社、2001 年)
「構造改革の先を読む」(東洋経済新報社、2005 年)
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片岡:
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今月の右脳インタビューはRobert Alan
Feldmanさんです。それでは、ご足跡などお伺いしながらインタビューを始めさせて戴きます。
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RF:
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私が最初に日本に来たのは1970年です。次は1973年。3回目は1981年、そして今回は1989年からです。それぞれ、ぜんぜん違う国のようでした。1970年は日本が高度成長期が終焉を迎えていましたが、まだ根性と向上心がかなり残っていて、『元気を出して成長しよう』という意識がありました。次は石油危機、当初は日本中が完全に自信を失いパニック状態でしたが、やがて『コツコツとものづくりなど自分の強いところをやればなんとかなる』と考えるようになりました。その後はバブル。私たちから見れば『え?』という感じでしたが、『自分たちは本当に凄いんだ』という自信に溢れ、そしてそれが弾けた後でも『これだけ頑張ってきたのだから金持ちになるのが当然』という感覚で、あったはずの失敗も認めたがりません。それでも金融問題、不良債権処理の問題等、『村社会で、みんなで救いあいましょう』というある種共産主義的な意見だけではなく、『ダメなやつはダメだ』とはっきりいう人も結構いました。共産主義的な傾向は、どちらかというと政府機関や大企業に強く、それによって得をするということだと思います。結局、90年代は資本主義対共産主義の戦い、そして問題を人のせいにするという人間の弱さが表れていました。
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片岡:
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そして今はM&Aの本格化にアレルギー反応が出ています。そのM&Aについての考え方や、今後、日本のM&A市場の方向性等お聞きしたいと思います。
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RF:
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モルガン・スタンレー証券(注1)のビジネスは経済合理性を高めるためにアドバイスや取引をすることで、M&Aはその手法の一つです。ですからSpin
offやM&Aを行うことで効率が上がったり、株主の評価を得て資産価値が増えること、それが案件を考える際の基本的な理念です。勿論、現実は非常に複雑です。いわゆる『Trusted
Advisor
(信頼されたアドバイザー)』という関係を築き、長い付き合いを通して数値化できない強み弱みをリサーチした上で判断をします。合併してうまくいく企業はそれほど多くありません。非常に危ない。だからこそ信頼関係が大切で、飛び込み的な依頼は基本的には受けません。
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片岡:
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直接案件にかかわることもあるのでしょうか。
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RF:
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ファイアーウォールがあって、私のようにリサーチにいる人間がかかわることはありません。例えば、この業界は再編成すべきだということは言っても、この企業とこの企業が一緒になるべきだとは一切言いません。そうしないと、いわゆるput
in playになってしまいます。もしIBD(Investment Banking
Division)がアナリストの知恵が欲しいときには、調査部長の了承を得てミーティングを持ちます。その際、『この業界はどう思いますか。A社、B社、C社、D社…の強いところ、弱いところは…』と一般的な話はしますが、特定の会社は示唆することもありません。それでも、もし『A社とB社…』と言ってしまった時は、リサーチの人間はover
the
wallとなり、A社とB社については刊行物を一切出しません。そうなるとカバレッジが急に減ってしましますので、クライアントにティッピングしないために色々と言わなくてはいけなくなります。またクライアントから『我々はXXXの企業の買収を…』といった話を聞くこともあります。この場合、すぐコンプライアンスに『実は…』と電話します。そうすると『そういうことに関して一切レポートに触れてはいけない。そして案件はリストに載せます…』と。その後6ヶ月経って、何もなかったら、コンプライアンスから『リストから外します』といった連絡が入ります。とても面倒ですが、信頼を得るには絶対に必要なことです。
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片岡:
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M&Aの方向性については如何ですか。またどういった研究をなさっているのでしょうか。
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RF:
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何もしない場合に社会がどうなるかを考えて下さい。利益率が上がらず、結局、年金生活者を支えることができなくなります。経済効率を上げるためにも進めて行ければ、何とか高齢化社会に間に合うかもしれない。それに尽きるのではないでしょうか。また私の研究でM&Aが話題となったのは2,3年前からで、どの業界に再編が必要か、どのように(数字から)企業を見ればいいのかといったことを考察しました。事業法人の場合は企業の効率、つまり営業利益率、投資家はバランスシート効率、ROE(Return
On
Equity:自己資本利益率)を主に見ます。考え方がぜんぜん違います。そこで、この二つの軸を書き、プロットしていくと、業界全体の状態を俯瞰することができます。例えば、日本の食品メーカーは大きいところで60社あり、平均的に利益率が低い。なかなかコスト高を物価に転嫁できません。また製粉会社は90社もあり、小さいところが多くて稼働率が悪い。再編です。
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片岡:
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マーケットの評価と言いますか、M&Aの前後での企業価値の変化は、欧米企業と比べると如何でしょうか。
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RF:
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はっきりとは分かりませんが、本来は日本の方が欧米に比べると高いと思います。なぜかというと日本企業は非効率が大きいからです。合併して節約できるところ、戦略が良くなる点など、沢山あるはずです。勿論、現実では、経営陣の相性が合わなかったり…、また防衛合併の場合、戦略合併の場合など…色々あります。面白いことに、M&Aをしますと発表をした場合、買う方、買われる方の株価の動きが若干異なります。買う側の会社の株価が上がれば凄いことです。
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片岡: |
下がることが多いようですが、当然、予想しているわけですね。
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RF:
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勿論そうです。どうなるかわからない面もありますが、長期的に見れば価値が上がることを前提にして案件を進めています。結局、M&Aでは戦略が大切で、特に大きな技術革新があり、業界構造が大きく変わる時などには、自分の持っている資産をできるだけ有効に配分し、動員することが必要です。例えば、あっという間にフィルムからデジタルへ移行したカメラ業界などがそうでした。
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片岡:
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M&Aそのものを本業にしている企業についてはどのようにお考えですか。
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RF:
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もともと資本の効率化が目的です。ですから、持ち株会社の社長が子会社の社長も兼任するケースがありますが、これは良くないことが多いと思います。事業会社の責任者をやっていると、やはり相当に大きな負担です。本来の子会社同士の資本や労働力の使い方が最適かどうかを決める事が仕事よりも、どうしてもそちらに多くの時間を割いてしまいます。また持ち株会社が子会社を沢山持っているということが、資本や労働の効率を上げることに貢献するならば、非常に良いのですが、縦割りを守るということであれば、むしろ逆効果です。
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片岡:
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そうした体制保持の体質が、M&Aを用いた経済効率の改善の足かせとなっているのですね。ところでフェルドマンさんがエコノミストの道を選んだきっかけは何だったのでしょうか。
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RF:
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当初は経済学にそれほど興味はありませんでしたが、大学で勉強してみると非常に論理的で、数学や人文科学も使います。私の持っているものすべてが経済学に関連しているうえ、お金持ちになる人は戦争しないので経済発展への貢献は大切なことだと思いました。また一見合理的に見えないこと、どんなに小さいこと、例えば、牛乳パックの形にでも経済的な合理性が潜んでいます。そうしたものを引き出す事に面白さを感じます。ところで普通の会社ではエコノミストは債券部に所属し、マクロ指標を重視する傾向が強いのですが、モルガンだけは株式調査部にあるため、どうしても企業レベルからのアプローチになります。
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片岡:
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なぜ御社だけなのでしょうか。例えば、コストの問題があるとか。
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RF:
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企業レベルからのアプローチは、物凄くコストがかかります。どうしても人件費が高く、労働集約的で、データベースを沢山作らないとレポートが書けません。先日部長が私のところにきて、『エコノミストたちがいっぱいデータを使うのは分かるのですが平均の10倍以上ですよ』と。でも私の判断は『まだ少なすぎる』です。クライアントは、いくらお金を掛けているかどうかは関係なく、とにかく良いレポートが欲しい、それだけです。ですからナンバーワンでなくてはいけません。大西洋を最初に渡ったのはリンドバークですが、2番目は誰も知りません。
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片岡:
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有難うございました。
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(敬称略) |
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−完− |
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インタビュー後記
フェルドマンさんはTVや講演会、政府の諮問委員会など引っ張りだこで、益々注目を集めています。こうした背後には、卓越した能力を持つ個人をシステマティックに支え、より一層活用する組織構造があります。日本人がCBSやABCに連日登場し、米国の在り方を論じ、影響力を持つ。そしてそれをしっかりとサポートし、活用する日本企業。そうした企業が日本にも必要ではないでしょうか。
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聞き手
片岡 秀太郎
1970年 長崎県生まれ。東京大学工学部卒、大学院修士課程修了。博士課程に在学中、アメリカズカップ・ニッポンチャレンジチームのプロジェクトへの参加を経て、海を愛する夢多き起業家や企業買収家と出会い、その大航海魂に魅せられ起業家を志し、知財問屋
片岡秀太郎商店を設立。 |
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脚注
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注1 |
モルガン・スタンレー証券株式会社
http://www.morganstanley.co.jp/aboutms/overview-japan/msjs.html
〒150-6008 東京都渋谷区恵比寿4-20-3 恵比寿ガーデンプレイスタワー
電話: 03-5424-5000 / 03-5723-5000
設立: 1984年3月6日
資本金: 99,299,731,330円 (2007年9月22日現在)
主要業務: 金融商品取引業
会長 福田 眞
代表取締役社長 ジョナサン B. キンドレッド
代表取締役 中村 春雄
代表取締役 茂成 吉彦
モルガン・スタンレー
http://www.morganstanley.com/ (世界)
http://www.morganstanley.co.jp/ (日本)
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(敬称略)
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片岡秀太郎の右脳インタビューへ |