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第32回  『 右脳インタビュー 』 
2008年7月1日

桝田 淳二さん
国際弁護士 MASUDA INTERNATIONAL 代表 
 
 

  プロフィール

1943年 東京都生まれ
1966年 東京大学法学部卒
1968年 弁護士登録
1977年 桝田江尻法律事務所(あさひ・狛法律事務所の前身)創立
1991年 New York州弁護士登録
1992年 Masuda & Ejiri(New York)開設 (日本人弁護士による米国最初の法律事務所)
2007年 Masuda International (桝田国際法律事務所)(New York)としてあさひ法律事務所から独立。
2007年 長島・大野・常松法律事務所と提携
Columbia大学Law School修士。
Columbia大学Law School Board of Visitorsメンバー(1993年)
M&A専門誌『M&A Review』 Advisory Board メンバー
New York銀杏会理事長、東京大学学友会副会長
東京大学経営協議会 学外委員
 
主な著書
『国際弁護士 〜アメリカへの逆上陸の軌跡〜 』 日本経済新聞社 2010年
 
 

片岡:

今月の右脳インタビューは、New Yorkを拠点に(注1)国際弁護士としてご活躍の桝田淳二さんです。それではM&Aについてお話をお伺いしながらインタビューを始めたいと思います。宜しくお願いします。
 

桝田

日本の司法は、米国の25〜30年後を追いかけているとよくいうのですが、M&Aについても同じです。今は企業が自ら率先して売りに出ていますが、20年ほど前に講演を行った時には『日本企業に売れるところがあるわけがない…』というような反応でした。この頃、ブリジストンが米国のファイアストンを買収しましたが、その最中にピレリという会社が参入し、競合ビットとなりました。この時のやり取りはSEC(注2)の関係で、何月何日に誰々から最初にレターが来て…と、すべてディスクローズされています。その資料を見ると、公開企業は『あなたの会社を買いたい』といわれると後に引けないのだな…。CEOは株主の利益の最大化に尽すために、きちんと検討し、回答しなくてはならず、無視すれば責任問題になります。当時は『え、そんなふうにして公開企業を買えるの?』という感じでした。またミネベア(高橋高見会長)と三協精機製作所との買収騒動ではディフェンス側についていました。高橋会長の日本最初のTOB(Takeover bit)も辞さないという強い姿勢にメディアは大変な騒動でしたが、その最中にトラファルガーという米の会社がそのミネベアをTOBすると発表します。まさに驚天動地です。トラファルガーの副社長とはその時の縁で今も付き合いがあります。あれはブラッフィングだったのだろ?とよく聞いてみるのですが、ただニヤニヤしています。結局あの時は、野村企業情報の後藤光男氏の助力もあり新日鉄が出てきて、手を握ったのですが、最後の方は泥仕合になっていて、個人攻撃まで行って揺さぶりを掛けてきていました。きれいごとではありません。寧ろ、法的にやれればきれいでいい。
 

片岡:

よく敵対的、友好的と区別しますが…。
 

桝田

本当の意味でフレンドリーというのは少なく、最後の最後に友好的であれば友好的買収となります。米国流に言えば“bear hug”、羽交い締めにして売らざるをえない状況にしてしまうわけですから、敵対的以上かもしれません。また日本企業から欧州企業と作った合弁企業を何としても買取りたいという依頼を受けたこともあります。そもそも合弁会社は壊れないように作ります。その契約書を壊すということは大変なことで、最後はデッドロック状態を作って、出血しながらやるしかありません。理屈じゃなく、ただ時間をかけて観念させるしかありませんでした。その他にも、ホテルの買収では組んだ相手が悪く、スパイされたり恫喝を受けたり…、米国のある上場企業を買収した際には、最後はホテルに詰めて、ターゲットの社外取締役と50セントの攻防をしたり…いろいろなことがありました。
 

片岡:

買収価格はその後の経営を左右しますね。
 

桝田

元々買収請負人であって、その後の経営請負人ではありません。それでも、勿論、ジャスコ(現イオン)のTalbots買収のように、その後もうまくいっていると嬉しいですが、古河電工による米ルーセントテクノロジーの光ファイバー部門買収のようにマーケットの激変で暴落した時などは残念でした。ところで、この買収戦には世界の超大型企業もこぞって参戦し、古河電工が成功した時、メディアは大変な持て囃しようでしたが、暴落すると一転、高値を掴んだのではないかと…。しかし、実際には一番低い価格でビットしていました。それはある重要な契約の存在にいち早く気づき、その解決に取り組んだからで、それをやらないところは軒並み脱落していきました。
 

片岡:

買収を実現させるために危機管理会社を活用するケースもありますね。
 

桝田

私の場合は調査目的が主です。変なところと繋がっていないか…。オーナーの関係などは見えませんからね。また調査の結果、実際は経営難ということもありました。非常に高価なサービスですが、調査に金を惜しんではいけません。後で分かった時には桁違いの損害です。こうしたことも含めて、元請け業的なサービスをしています。例えば、日本企業の場合でも、日本にいながら電話やメールでM&Aを進めていくことができます。ある企業は、最初の一回とクロージングの時に来ただけということもありました。一番楽しいのは信頼関係ができて、会社の重要な事をどんどん任せてくれる時で、弁護士冥利に尽きます。
 

片岡:

そうした元請け業には、ビジネスセンスと人脈が重要ですね。
 

桝田

Lex Mundi(注3)でエグゼクティブ・コミッティーのメンバーを務めるなど、若い時から努力して時間とエネルギーとお金を使って、ネットワークを作ってきましたので、多国籍企業を買収するという時にも電話一本でライトパーソンに相談できます。これは大切なことで大手事務所でも出来ていません。弁護士は自分で囲ってしまう傾向があり、大きな事務所であっても仲間に相談するということはあまりありません。私はファウンダーでしたから、自分で開拓し、みんなに回さないと育ちませんでした。だからこそ、New Yorkでもやってこられました。
 

片岡: 米国の弁護士事務所は如何でしょうか。
 

桝田

歴史があって、サイズも大きく海外進出にもなれています。また米国の大会社は自分たちの顧問事務所をしっかり持っていて、何から何まで世界中のことを相談し、わかり合っています。その事務所がおおもとをがっちり押さえ、各国のローカルファームを使っています。しかし、日本の企業と法律事務所はそこまでの関係になりきっていません。特に国際関係まで掴んでいる事務所はないのではないでしょうか。少し前までは違いが鮮明で、日本企業は紛争がある時しか弁護士に頼みませんでしたが、最近では日本でも行政から司法への転換が進み、弁護士に相談するケースも格段に増えています。しかしながら、ビジネスの感覚をしっかりと持った弁護士が少ないこともあり、M&Aのようなマネジメントと弁護士が直結し、相談しないといけない場合でも、トップ層と弁護士が必要な話を十分にできている企業は極めて稀だと思います。日本企業が失敗するのは、慌てて変なところに頼んでしまって…。最初にボタンをかけ違うと、戻すだけでも多大な時間をロスし、失敗の原因となります。だからこそ電話一本で連絡できることが重要です。警察でいうと初動捜査が肝心、的確な対応ができないと大変なことになります。米国では雁字搦めに規制が厳しいということもありますが、CEOは、それこそ何でもかんでも弁護士に相談しますし、司法制度もサービス業に近い。今の時代、『如何に顧客の役に立つのか』を考えないといけません。
 

片岡:

日本でも、米国の弁護士事務所の躍進が続いていますね。
 

桝田

今ではかなり解放されていて、彼らは日本の若い弁護士を取り込んで資格をクリヤーすることで、日本のリーガルマーケットに深く食い込もうとしていています。それに国際性のある人は益々日本の欧米系の事務所を選ぶ傾向があります。これも競争ですから、日本の法律事務所も努力と工夫をしないといけません。元々、欧米の弁護士事務所とは、歴史、人員、資本力、ネットワークどれをとっても天地の差があります。一気にそれを解消できるわけがありません。一歩一歩、時間をかけてやる。その一歩が重い。なんとか少しでもいいから前進し、とにかく次につなげないと…。そう思っています。こちらにいるとよく感じるのですが、日本の存在感は思っているよりずっと低いのが現状です。特に弁護士の分野はひどく、国際的に活躍する人が極端に少ない。そもそも日本の司法制度は日本だけのものであって、世界の司法制度ではありません。その上、プロテクトばかりしていて、世界に出て行ったらどうなるか…なんて考えていません。
 

片岡:

貴重なお話を有難うございました。
 

−完−

 

インタビュー後記

大手弁護士事務所の創業者だった桝田さんは1992年自ら陣を率いてNew Yorkに進出しました。当時は『日本の弁護士がNew Yorkで何をするの?』という声が大勢だったそうです。桝田さんのNew Yorkでのご活躍にもかかわらず、その後を追う、日本の弁護士事務所の進出は進んでいないそうです。司法は、市場経済において不可欠で強大な武器の一つです。日本の巨大なリーガルマーケットを武器に、欧米法律事務所を戦略的に取り込み、荒削りでも、早急に輸出競争力を造成することもまた日本の弁護士事務所には求められているはずです。
 

 

聞き手

片岡 秀太郎

1970年 長崎県生まれ。東京大学工学部卒、大学院修士課程修了。博士課程に在学中、アメリカズカップ・ニッポンチャレンジチームのプロジェクトへの参加を経て、海を愛する夢多き起業家や企業買収家と出会い、その大航海魂に魅せられ起業家を志し、知財問屋 片岡秀太郎商店を設立。
 

 

脚注
 

注1

MASUDA INTERNATIONAL 桝田国際法律事務所
所在地
Carnegie Hall Tower
152 West 57th Street, 37th Floor
New York, New York 10019-3310
Tel (212)258-3333

日本国内連絡先
長島・大野・常松法律事務所(提携事務所)
http://www.noandt.com
 

注2 米国証券取引委員会(SEC: Securities and Exchange Commission)
設立 1934年
本部 Washington, D.C.
従業員数 3,371 (2006)
委員長 Christopher Cox
http://www.sec.gov/

http://ja.wikipedia.org/wiki/証券取引委員会
注3 Lex Mundi
世界99ヶ国、174の法律事務所(15,000名以上の弁護士)によるネットワーク組織。1989年設立。
http://www.lexmundi.com/


(敬称略)


片岡秀太郎の右脳インタビュー

 

 

 

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更新日:2012/10/30