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第35回  『 右脳インタビュー 』        
2008年10月1日

落合洋司さん 
弁護士 泉岳寺前法律事務所(注1)  
 

プロフィール

1964年 広島県生まれ。早稲田大学法学部卒。元検事。名古屋地方検察庁財政経済係(現・特別捜査部)、東京地方検察庁公安部、特捜部(兼任)等を経て退官。弁護士となり、ヤフー株式会社法務部、ヤエス第一法律事務所を経て、イージス法律事務所(現、泉岳寺前法律事務所)を設立。
情報ネットワーク法学会会員 (サイバー刑事法制研究会主査代行)
日本刑法学会会員

弁護士 落合洋司(東京弁護士会)の「日々是好日」
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/

主な著書
「サイバー法判例解説」(商事法務・共著)2003年
「インターネット上の誹謗中傷と責任」(商事法務・共著)2005年

 

片岡:

今月の右脳インタビューは落合洋司さんです。落合さんは弁護士としてご活躍ですが、もともとは検察庁のご出身ですね。
 

落合

法律家としての第一歩を検察庁で踏み出したので多くの影響を受けてきました。例えば、世の中には色々な紛争ありますが、検察庁が扱うのは犯罪という一つのジャンルだけで、犯罪を解明し、摘発する。責任を負うべき人、組織に対して責任を負ってもらう。そういうことを日夜おこなっています。このため刑事事件的な見方、取り組み方の中で自分自身を形成してきました。結局、検察庁には11年5カ月在籍しました。
 

片岡:

その間、徳島地検、名古屋地検、千葉地検そして東京地検の公安部や特捜部など…。
 

落合

30年間務め、転勤が15回になる人もいます。それが苦になるようでは、この仕事はできません。
 

片岡:

効率は落ちても、癒着を防ぐ…。
 

落合

そういう面もあります。昔は東京地検特捜部などでは4年、5年と長く続けて在籍する人がいましたが、今はグルグル回っています。腰を据えて長期的なスパンで内偵をするといったことは難しく、半年、一年単位で答えを出さなくてはいけません。勿論、この方がいい場合もありますが…。
 

片岡:

大きな組織でジワッと行っているようなもの、特に専門性が高いものは対応が難しいですね。さて、その後、弁護士となるわけですが、弁護士事務所に所属するのではなく、in-house lawyer(注2)としてヤフーの法務部へ入ったそうですね。
 

落合

民間会社は外部から見たことしかありませんでしたので、法律事務所に所属する前に経験したいと思いました。そして入社後1年ほど経った時に正社員から契約形態を変えてもらい、裁判官や検事出身者が多く在籍するヤエス第一法律事務所に所属し、法廷や訴訟活動も始めました。昨年3月にヤフーを辞めるまでは二足の草鞋を履いているような感じでしたが、とても興味深い経験でした。
 

片岡:

ヤフーは何を求めていたのでしょうか。
 

落合

私が入った2000年頃は、ヤフーでのオークションの出品数はまだ数十万点でしたが、トラブルが大きくなってきていて、警察当局からも対応を迫られはじめていました。米国では、MicrosoftやYahoo!のように多くの利用者を擁する企業には、一部利用者によるabuse(悪用、乱用)への対策というジャンルがあり、日本でもそろそろ担当者が必要だと考えていました。そこで刑事事件的な見方を必要とし、私の経歴やスキル、そして今後やろうと思っていることが合致しました。このため、私はabuse対策専門で、契約書の作成等といったようなことには一切かかわりませんでした。Abuseにもいろいろあります。ネットオークションの他にも掲示板での誹謗中傷、またジオシティーズという無料のホームページサービスで、売ってはいけないものを売ったり、他人の著作物をアップしたりといった問題が日常的に起きます。サービスを提供する側の立場からすれば、基本的には利用者が自己責任で使うということになっていますが、違法行為を知っていて放置するわけにはいきません。利用規約に照らして削除したり、利用を停止したり、社会的に認められているような措置をとります。当然判断が難しいケースもあり、法的な面を考慮すると、どういう選択肢を取ることができるのかなどをアドバイスしていました。
 

片岡: こうしたことは、どの企業でも起こりえます。
 

落合

ケースバイケースですが、例えば、誹謗中傷など、あまりにも攻撃を加えてくるよう場合は、刑事、民事で対抗措置をとることも必要です。ただ、人の口に戸は立てられないといいますが、やはりネガティブな話が出るのは、それなりの理由があるのであって、その原因を解明し、解消できるようなものであれば、解消していく、そういう努力を惜しんではいけません。
 

片岡:

ネットの場合、新聞やテレビと違って、ネガティブなことがいつまでもインパクトを持ち続けます。
 

落合

それはインターネットの負の側面ですが、誰しも情報発信できるということは、そういうネガティブなものが出た時に即時に反論できるということでもあります。きちんと反論し、同時に原因を取り除き、そうでないことをアピールしていくことが必要です。ただけしからんと騒いでいるだけではダメです。残念ながら、企業はネット社会に対する対処方法がまだノウハウとしては身についていません。多くの利用者を抱えていれば、その人たちがサービスの中で問題を起こすリスクは常にあります。それにきちんと対応できる体制を日頃から作り、注意や目配りをしていないと、思わぬところで足元をすくわれ、企業イメージが低下したり、余計な手間やお金がかかったります。また何百万もの顧客情報を持つような企業であれば、その情報が国内はもとより、海外へも流出する可能性があります。今までは起きえなかったことが、起きてきますので、如何にそういうリスクに対して想像力を豊かにして、日頃から検討していくかが大切です。
 

片岡:

実際に起きた場合、特に国境を跨ぐと回復が格段に難しくなりますね。
 

落合

今の訴訟制度や犯罪を捜査する制度はグローバルなものへの対応は出来ていません。相互に協力する体制をとっていますが、権限自体はそれぞれに独立していて、例えばA国の捜査官はB国では捜査ができず、あくまでもB国の捜査機関に頼むことが必要です。結局、犯罪的なところで収益を上げるようなことは、今に始まった問題ではなく、手を変え、品を変え、問題の根っこは変わっていません。更にインターネットの出現で国境を越えて連携を図ることが簡単になり、だからこそサイバー犯罪条約のように国際的に対応する国際条約が出来ています。そういう意味ではアンダーグラウンドの経済規模はインターネットを使うことによって寧ろ増えているかもしれません。マネーロンダリングもその一つです。
 

片岡:

思っている以上に近くにある…。ところで、落合さんのブログ(注3)は時事問題を取り上げながら、“弁護士として”考えや意見を明確に述べていて、大変な人気ですね。
 

落合

日々の出来事に対して自分なりのコメントを残していくと、自分自身の勉強にもなり、参考にもなるのではと2004年頃から始めました。基本的にニュースをもとにしていて、その範囲の中で考えて意見や判断し、勿論、言葉は選びますが、慎重過ぎても意味がありませんので、簡潔且つ明瞭に書くようにしています。また匿名での投書についてネガティブな印象は持っていませんが、自分の身の処し方としては、きちんと自分を出して責任を持つことでいいものを残せると思っています。
 

片岡:

マーケティングにはあまり利用なさってはいないようですね。ブログに比べると事務所のページが弱く、受け皿としては不十分です。
 

落合

ネット経由で多少相談も来ますが、あまり利用できていません。ブログはフローのような情報で、ある程度ストック的な情報を事務所のサイトで提供しようと思っているのですが、忙しさにかまけて…。ブログをやっているメリットの一つは、私自身のものの考え方、やっている仕事の中身をクライアントに分かってもらえることです。また検察庁にいた時は、例えば日々相当数の事件を扱っていますが、弁護士になると扱う事件数が減りますので、ニュースを見て常に考え、自分の意見を持つことで、自分自身の感覚を低下させたくないという思いもありました。
 

片岡:

グルメやスポーツなど、色々なジャンルの話題も取り上げておいでですね。
 

落合

検察庁にいたころにそうした素地が出来ました。色々な事件を取り扱い、様々な人に接しますが、検察庁に協力的な人ばかりではありません。難しい大きな事件で取調官をしたり、オオム真理教や住専の内偵や、公安部にいたり、そういう時に自分自身でネタを持っておかないとダメです。自分は検事で法律に詳しい…といったところで、誰も振り向いてくれません。そこで世の中の色々な事象について浅く広く知っておくことが必要だと心掛けるようになりました。
 

片岡:

貴重なお話を有難うございました。 
 

−完−

 

インタビュー後記

米国ではin-house lawyerの活用が盛んで、政府系機関内(12万人)や企業内(8万人)で、煩雑な面もありますが、経営判断から一般業務まであらゆるプロセスを支えています。スターバックス、ウォルマート、フェデックス、ヤフーにグーグル…。気がつくといつの間にか世界市場を席捲している米国のサービス企業の持つ爆発的成長力には目を見張るものがあります。多種多様な顧客、従業員、取引先…を抱えるこれらの企業の事業展開には弁護士の存在を抜きには考えられません。

  

 

聞き手

片岡 秀太郎

1970年 長崎県生まれ。東京大学工学部卒、大学院修士課程修了。博士課程に在学中、アメリカズカップ・ニッポンチャレンジチームのプロジェクトへの参加を経て、海を愛する夢多き起業家や企業買収家と出会い、その大航海魂に魅せられ起業家を志し、知財問屋 片岡秀太郎商店を設立。

 
 

脚注
 

注1

泉岳寺前法律事務所
〒108-0074 東京都港区高輪2-16-38 秀和第2高輪レジデンス504
Tel. 03-6277-3696
http://aegis-law.net/
 

注2 in-house lawyer (企業内弁護士、組織内弁護士)については下記を参照下さい。
http://ja.wikipedia.org/wiki/インハウスローヤー
http://www.in-house.jpn.org/
 
注3 弁護士 落合洋司(東京弁護士会)の「日々是好日」
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/




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更新日:2012/10/30