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第37回  『 右脳インタビュー 』        
2008年12月1日

北尾 吉孝さん
SBIホールディングス株式会社 代表取締役執行役員CEO
 

 
プロフィール
1951年: 兵庫県生まれ
1974年: 慶應義塾大学経済学部卒業後、
野村證券株式会社に入社
1978年: 英国ケンブリッジ大学経済学部を卒業
1989年: Wasserstein Perella & Co. International, Limited
常務取締役(英国勤務)
1991年: 野村企業情報株式会社 取締役(兼務)
1992年: 野村證券株式会社 事業法人三部長
1995年: ソフトバンク株式会社 入社(常務取締役)
2005年: SBIホールディングス株式会社 代表取締役執行役員CEO(現任)

主な著書
時局を洞察する 北尾 吉孝 著 経済界 2008年
中国古典からもらった「不思議な力」 北尾 吉孝 著 三笠書房 2005年
人物をつくる―真のリーダーに求められるもの 北尾 吉孝 著 PHP研究所 2007年

 

 

片岡:

今月の右脳インタビューは北尾吉孝さんです。本日はご多忙の中、有難うございます。早速ですが、ご足跡等お伺いしながらインタビューを始めたいと思います。
 

北尾

元々は慶應医学部の渡辺格教授の下で分子生物学を学び学者になりたかったのですが、入学試験に落ち、滑り止めの経済学部に入学しました。流されただけなのかもしれませんが、入ってみると経済は面白く…、就職も銀行を考えていましたが、最終的には一番熱心に誘ってくれた野村證券を選びました。野村では投資銀行のWasserstein Perella & Co. InternationalやM&A業務を行っていた野村企業情報へも出向し、事業法人部に戻っていた時に、敬愛する田淵さん(注1)が、野村の不祥事で結果的に退くことになります。そんな時にソフトバンクの孫さん(注2)から声をかけられました。
 

片岡:

ソフトバンクでも大変なご活躍でした。
 

北尾

本邦初の財務代理人方式での社債発行等、CFO在任中に4800億円のお金を集めました。当時、これだけの資金調達は店頭公開したばかりの会社では考えられませんでした。
 

片岡:

画期的な新しいスキームだという人も、また強引に押し付けたという人もいます。
 

北尾

その後はほとんど新方式での調達が主流となっていますし、結果として問題はなかったのではないでしょうか。大変な仕事だったことは事実でした。さて、1999年には純粋持株会社であるソフトバンクの下で、金融事業に参入するためにソフトバンク・ファイナンス株式会社を設立、これが現在のSBIホールディングス株式会社(注3)です。当初、ソフトバンクの100%子会社でしたが、2006年には資本関係も解消しました。
 

片岡:

なぜすべての株を放出したのでしょうか。
 

北尾

当時の親会社であったソフトバンクはADSL事業で膨大な投資をし、約1000億円もの赤字を三期にわたり出していたため、ソフトバンクが親会社である限り銀行業や保険業の免許はとれません。また私は反対だったのですが、日本債券信用銀行(現 あおぞら銀行)を買収しました。そして長期保有を宣言していながら、三年を経ずして米投資ファンドに転売して500億円の利益を得ていたこともあり、金融庁の心証を害していました。資金調達面でも、ソフトバンク本体が銀行や資本市場からグループとして調達できる目一杯の資金を調達するため、当社は公開会社にもかかわらず調達の制限を受けていました。そういう状況の中では子会社が金融業を行うには無理があります。またソフトバンクは当時資金が必要でしたから、当社株を手放すことで大きな資金を得ることができたと思います。
 

片岡:

株価も良い時期でした。
 

北尾

株価については色々ありますが、今は業績というよりは米国発のサブプライムローンの問題が引き金で起きた世界的金融危機の異常事態で、海外投資家による大量の売り、とりわけ金融セクターは徹底的に売られました。SBIホールディングスは金融業です。その上、日本では不動産業者の倒産が続いていますが、その中で不動産事業も行っています。しかし、少々環境が悪くても利益を出す力は持っていて、SBI証券は全証券会社の中でも最高レベルの営業利益ですし、ベンチャーキャピタル事業も業界トップです。銀行も目覚ましい成長で、早くも住宅ローンだけで貸出残高が1000億を突破、また生保・損保も順調に伸びています。数多くの金融事業を行いながら、同時にこれだけ多くの新規事業も立ち上げてきました。
 

片岡: SBIグループは従業員数2600人程にもかかわらず、70社を超える企業を抱え、そのうち8社が上場会社です。各企業は小ぶりな感が否めません。またグループの北尾さんへの依存度も高そうです。
 

北尾

企業の大小は定義が色々ありますが、インターネットですから各事業は人員やコストを抑えていて一人当たりの売上は同業他社に比べて格段に大きくなっています。またベンチャーキャピタル事業では600社強に投資して100社以上が上場しました。ITといった自分達の知っている領域に特化していることもありますし、見る目やインキュベーションの能力もあったということでしょう。投資の最終面接は私が行いますが、私は経営者が経営者に相応しい品性や徳を持っていないと投資しません。公開できるとか、少しくらい儲るといった問題ではありません。さて、私はある意味で創業社長的で、個人でも大株主です。そういう意味でも後継者選びに責任がありますが、まだ見つかっていません。金融は専門性が求められ、投資は直感力、不動産やインターネットに対する理解など…。要求される資質が多く、そして金融業を営む以上、それに相応しい倫理的価値観を持つことも必要ですから、なかなか難しいものです。
 

片岡:

ベンチャー企業は株主構成などに問題を抱えることもあり、ベンチャー投資には、そうした難しさがありますね。
 

北尾

投資の際は綿密に審査・デューデリジェンス等を行ったあと、私が最終面接をして経営者の人間性や事業戦略の妥当性を見ています。また各業界の大手企業との関係も構築していますし、外部のアドバイザリーボードとして大手広告代理店やメディア企業等から広範な情報を得られる体制もとっています。
 

片岡:

M&Aも不透明な問題が付き纏うことがあります。
 

北尾

金融機関のM&Aはすっきりしないですね。メーカーはそれなりに良いかもしれませんが。例えば、三菱東京UFJ銀行によるMorgan Stanleyへの出資(注4)も、実際は米国から押しつけられたもので、米国でのマネーロンダリングに関する問題を不問に付すこととの交換だったという見方をしている人すらあります。そうだとすれば米国での事業展開ができませんでしたし、同行にしては信じられないほど短期間に結論を出していますので、そういう見方をする人が出ることも仕方がありません。一方、野村とLehman Brothersの場合(注5)は、買収とは言えず、所得を当面保証した上で人を雇っただけにすぎないのではないでしょうか。しかも良い人材が抜けてしまった後を…。しばらくはインベストメント・バンキングの商売はあがったりで、その間、商売がないのに雇用を保証するわけですから難しいはずです。そして、いざ環境が良くなると、どんどん人材が流出するといったことにならねばと案じております。いずれにしても、こういう状況ですから世界中の企業が安くなっています。日本は今回の危機から少し遠ざかっていましたので、海外の会社を買う絶好のタイミングです。これまでグローバルマーケットに出ることが出来なかった企業も、円高になったこともあり、それを手に出来る可能性があります。
 

片岡:

1980年代にも日本企業による米国企業のM&Aが盛んな時期がありましたが、それでも高値で買ったと言われています。
 

北尾

買収方法は色々ありますが、問題は買収後のキャッシュ・フローをしっかりと想定しているかどうかで、そこを間違えることが多く、あの時も大きな買収は殆ど成功していないのではないでしょうか。三菱地所はRockefeller Centerビルから手を退き、ブリジストンによるFirestone買収では買収後に買収価格の5倍近い資金を追加投入しているはずです。M&Aではアドバイザーが買う側にも買われる側にもつきますが、彼らは成功報酬を貰うわけですから、どちらもディールをまとめたいと思っているのです。時には裏で握手しているケースもあったようです。結局、買収側は、いつも払いすぎる傾向があります。売り手企業のバラ色の収益やキャッシュ・フローの計画に翻弄され、『もう少し出せば…』と思うのが心理ですね。いずれにしても安い時に買うことです。
 

片岡:

貴重なお話を有難うございました。 
 

−完−

 

インタビュー後記

インターネットを駆使する新しい金融コングロマリットとしてSBIグループは躍進を続けています。しかしながら、じわっと追いかけてくる重量級の金融機関の圧迫感はやはり強いはずです。それだけに『世界中の企業が安く…、買収の絶好のタイミング』は、勝ち残り、更なるステージに躍り出るための天の時となるのではないでしょうか。

  

 

聞き手

片岡 秀太郎

1970年 長崎県生まれ。東京大学工学部卒、大学院修士課程修了。博士課程に在学中、アメリカズカップ・ニッポンチャレンジチームのプロジェクトへの参加を経て、海を愛する夢多き起業家や企業買収家と出会い、その大航海魂に魅せられ起業家を志し、知財問屋 片岡秀太郎商店を設立。

 
 

脚注
 

注1

田淵義久氏については下記をご参照下さい。(Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/野村證券
 

注2 ソフトバンク及び孫正義氏については下記をご参照下さい。
http://www.softbank.co.jp/index.html
http://ja.wikipedia.org/wiki/ソフトバンク (Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/孫正義 (Wikipedia)
 
注3 SBIホールディングス株式会社
http://www.sbigroup.co.jp/
東京都港区六本木一丁目6番1号 TEL.03-6229-0100
事業内容 株式等の保有を通じた企業グループの統括・運営等
設立 平成11年7月8日
資本金 55,194百万円
従業員数 連結 2,666名 / 単体 206名
代表取締役  北尾 吉孝
連結売上高 2,225億円
連結子会社数 74社(組合含む)
グループ上場会社数 8社(SBIホールディングス含む)
その他(Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/SBIホールディングス
 
注4 三菱UFJフィナンシャル・グループによるプレスリリース
三菱UFJフィナンシャル・グループのモルガン・スタンレーへの出資について(2008/9/22)
http://www.mufg.jp/data/current/pressrelease-20080922-001.pdf
三菱UFJフィナンシャル・グループによるモルガン・スタンレーへの戦略的資本提携について-グローバル・アライアンス戦略の展開を目指して(2008/9/29)
http://www.mufg.jp/data/current/pressrelease-20080929-003.pdf
米国監督当局の業務改善命令解除について(2008/9/30)
http://www.mufg.jp/data/current/pressrelease-20080930-001.pdf 
三菱UFJフィナンシャル・グループによるモルガン・スタンレーへの出資実行について(2008/10/13)
http://www.mufg.jp/data/current/pressrelease-20081013-001.pdf
 
注5 注5 野村ホールディングスによるプレスリリース
野村ホールディングス、リーマン・ブラザーズのインドにおけるIT等のサービス関連会社の買収を発表(2008/10/6)
http://www.nomuraholdings.com/jp/news/nr/holdings/20081006/20081006.html
野村ホールディングス、欧州フィクスト・インカム部門におけるリーマン・ブラザーズ元社員の雇用を発表(2008/10/7)
http://www.nomuraholdings.com/jp/news/nr/holdings/20081007/20081007.html
野村ホールディングス、リーマン・ブラザーズの欧州・中東地域継承社員の業務開始予定を発表(2008/10/7)
http://www.nomuraholdings.com/jp/news/nr/holdings/20081007/20081007_a.html
野村ホールディングス、リーマン・ブラザーズのアジア・パシフィック地域部門の継承について発表(2008/10/14)
http://www.nomuraholdings.com/jp/news/nr/holdings/20081014/20081014.html

 
   
(敬称略)


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更新日:2012/10/30