|
|
プロフィール |
|
1941年、神奈川県生まれ。
東京大学経済学部卒、同大学院を経て大蔵省入省後、ミシガン大学経済学部留学、同大学経済学博士号取得。国際通貨基金(ワシントンD.C.)、ハーバード大学客員教授、理財局課長、東海財務局長、大臣官房審議官、国際金融局長、財務官を歴任。退官後、慶応義塾大学教授を経て、早稲田大学教授。同大学インド経済研究所(注1)所長に就任。「ミスター円」の異名を持つ。 |
主な著書
【政権交代】 榊原 英資 (著) 文藝春秋 2008年
【強い円は日本の国益】 榊原 英資 (著) 東洋経済新報社
2008年
【食がわかれば世界経済がわかる】 榊原 英資 (著) 文藝春秋
2008年 他著書多数 |
|
|
|
|
|
|
|
片岡:
|
今月の右脳インタビューは榊原英資さん(注2)です。それでは金融危機の現状についてお伺いしながらインタビューを始めたいと思います。宜しくお願いします。
|
榊原:
|
今は、100年に一度か二度の非常に深刻な金融危機です。米国の金融は崩壊し、殆どの主要金融機関は資本注入を受け、英国や大陸でも半数以上の金融機関が資本注入を受けています。日本は例外的で、金融危機の影響をあまり受けていないために危機感がないのですが、間接的には株式市場や不動産市場、輸出を通じた影響等があります。過去10数年に渡って作られてきた金融バブルが崩壊したわけですから、非常に難しい…。水野和夫は「アメリカ金融帝国」の終焉(注3)と言っています。まさにそういう感じで、米国を中心に作られてきた金融システムが音を立てて崩れ、それを世界中の政府が公的資金を投入することで必死に支えているのが現状です。これまでヘッジファンドや金融機関は借金をし、用立てで資産をどんどん膨らませ、しかも価格も高くなっていました。しかし、今起きているのはdeleverageです。資産を売って借金を返す。そのプロセスはまだ始まったばかりで、これから株価も不動産価格も落ちるし、今のところ底値も見えません。通常の循環局面なら下がったら買うし、上がったら売るのですが、今は循環局面ではなく、構造的に崩壊していて、そう簡単に買いに出るわけにはいけません。資産市場はこれから大きくずれると見るべきで、そこをはっきりと認識する必要があります。
|
片岡:
|
崩壊局面なりの利用はないのでしょうか。
|
榊原:
|
あまりないですね。パラダイムシフトですから。企業はビジネスモデルを、個人は消費パターンを変えることが必要で、事実、変わってきています。借金をして消費するというパターンは通用せず、ブランド物も、外食産業も深刻です。個人の生活パターンが健全なものになって、バブリーなものが消えていく。こうした事は少なくとも2〜5年は続きます。勿論、企業は筋肉質の体質を作っていくチャンスでもあります。贅肉をそぎ落とし、原則に戻る。金融では、今までのインベストメント・バンキング的なモデルやファンドのモデルは崩れました。要するに今までの商業銀行の「金利をとって貸す」というモデルに戻って、非常に安全に運用することが求められ、高リスクで高リターンのものは維持できなくなってきました。例えば、元本が保証されていれば満足しなければいけない時代で、そして物価はおそらく下がります。90年代の日本の不況がグローバルに来たもので、これは相当に深く長い筈です。日本の金融機関が比較的傷が浅いというのはその経験が役に立ったということでしょうね。
|
片岡:
|
オバマ政権が発足しますが、米国の救世主となりうるのでしょうか。
|
榊原:
|
米国経済は、金融バブルだけでなく、消費バブルも崩壊し、急速に落ち込んでいる。それを財政政策で何とかしようとしているのがオバマ政権です。7000億ドルを投入することで、うまくいくかどうかです。こういう時は、国はやるべきことを財政でやる。方向としては間違っていませんが、大きな問題は既に金融機関の支援で7000億ドルを使っている上に、更に7000億ドル程度の財政資金を投入するわけですから、財政負担が非常に大きくなっていくことです。それに耐えられるかどうか…。金利が上昇し、ドルが暴落すれば財政拡大の効果は消えてしまいます。こうしたファイナンスをどうしていくかということが大切です。有能な閣僚を任命していますが、事態は深刻で、直ちに事態が上向くということではありません。おそらく2年程は大変で、米国経済が上向くとしても2010年からです。
|
片岡:
|
基軸通貨としては如何でしょうか。
|
榊原:
|
ドルの基軸通貨としての地位は若干揺らぎ始めていて、2010年以降も緩やかに落ち込んでいきます。ただし、今のところドルに代わる通貨はなく、弱くなりながらもドルが基軸通貨として続きます。今回はグローバルな危機で、中国もインドも影響を受けていますが、中国は7%程度、インドも5%程度と相対的に高い成長をしますから、しだいに経済力をつけてきます。ですから日本はアジアにきちんと軸足を置かなくてはいけません。米国との関係を悪くする必要はありませんが、米国にべったりの今までの政策は変えなくてはいけません。また良好だったASEANとの関係も今ではしだいに薄くなりつつあります。ですからアジアに軸足を置いて、中国、インド、ASEANとの関係を良くすることが必要です。今の自民党は清和会から麻生政権へと右派が続いています。リベラル派は比較的アジアを重視していますが、そういう人は重要なポストについておらず、異常な状況が続いています。このままでは自民党が崩壊するのは、時間の問題です。自民党は権力をもっていることによって維持されている政党ですから…。
|
片岡:
|
小泉政権以降、どういった事が行われてきたのでしょうか。
|
榊原:
|
例えばJBIC(国際協力銀行)は業務の8割が資源で、政府資金をある程度入れて安い金利で資源を獲得することをバックアップしています。これが今度、他の金融機関と一緒になるのですが、それは愚策で、もっと独立をさせて大きくしなくてはいけませんでした。小泉政権の失策です。何でも一緒にして、何でも民営化すればいいということはありません。郵政民営化も道路公団のもそうです。道路は経済学でも公共財と言われています。それを民営化するとは…。選挙での圧勝の下で、こうしたことが行われてきました。小選挙区制では、ちょっとした風が吹くと圧勝してしまいます。しかし、今度は政権交代でしょうね。民主党になると思います。彼らが当面やるべきことはたくさんありますが、例えば、国と基礎的自治体の二層制にするには、国の出先機関を廃止して、市町村の合併をやらなくてはいけない。人間も移動し、行政区画も変えていく、そのプロセスには5年、10年の時間がかかります。だけどそういうことを政権交代したら始める…。
|
片岡: |
短命な政権が続く中、政権を維持し、変革を成し遂げる力はあるのでしょうか。
|
榊原:
|
揺り戻しが来るかもしれませんが、その政策が成功しつつあれば、続きます。今の日本は必ずそれをやらなくてはいけません。政治システムを大きく変えなくてはいけないのに、政権がぐるぐる変わっては、何も変えられず、どんどん危機が進行します。民主党が政権を取ったら、思い切った改革をし、その継続を訴えることです。
|
片岡:
|
官僚については如何でしょうか。
|
榊原:
|
政治家のレベルが落ちれば官僚のレベルも落ちます。嘗ては政治家のレベルが非常に高かった。例えば、宮澤喜一です。知識人でした。漢学に長け、英語だけでなく中国の古典にも通じていました。知的レベルが非常に高かった。それがむしろマイナスだと言われていましたが、そうは思いません。私はラジカルで、このままでは日本は没落する、国の形を大きく変えないといけないと思っていましたし、今でもそう思っています。そういう意味では大変強い危機感があります。自分が役人のときには、それなりにそういうことをしてきましたが、今は政治が許さないのかもしれません。私が財務官の時の大蔵大臣は、その宮澤さんで、一緒に進めることができました。
|
片岡:
|
今、そういう政治家はいますか。
|
榊原:
|
あまりいませんが、小沢一郎はなかなかいいですね。彼は改革者です。ただ大衆の人気はありませんね。宮澤喜一もなかったが…。
|
片岡:
|
貴重なお話を有難うございました。
|
|
〜完〜(敬称略) |
|
|
インタビュー後記
世界を覆う金融危機、混迷する政局、巨大な財政赤字…。こうした難局でこそ、国政は勿論、各国の財政・金融担当者と渡り合い、「ミスター円」の異名を持った榊原さんに再び辣腕を奮って戴きたいものです。
|
|
聞き手
片岡 秀太郎
1970年 長崎県生まれ。東京大学工学部卒、大学院修士課程修了。博士課程に在学中、アメリカズカップ・ニッポンチャレンジチームのプロジェクトへの参加を経て、海を愛する夢多き起業家や企業買収家と出会い、その大航海魂に魅せられ起業家を志し、知財問屋
片岡秀太郎商店を設立。 |
|
|
|
|
脚注
|
|
注1 |
下記をご参照下さい。
http://ja.wikipedia.org/wiki/榊原英資 (wikipedia)
|
注2 |
下記をご参照下さい。
http://www.iies-japan.com/
|
注3 |
【金融大崩壊―「アメリカ金融帝国」の終焉】
水野 和夫 著 日本放送出版協会 2008年
水野和夫については下記をご参照下さい。
http://www.sc.mufg.jp/inv_info/business_cycle/m_report/m_contribute.html
|
|
|
|
(敬称略) |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
片岡秀太郎の右脳インタビューへ |