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プロフィール
1949年宮崎県生まれ。1975年東京大学法学部卒業、東京地方検察庁検事を経て、1979年弁護士登録。1985年に牛島法律事務所(現
牛島総合法律事務所)(注1)を開設。代表弁護士。
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主な著書 |
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『株主総会』 |
幻冬舎 1997年(1999年、文庫化) |
『株主代表訴訟』 |
幻冬舎 1998年(2000年、文庫化) |
『買収者』 |
幻冬舎 2000年(2003年、文庫化) |
『取締役会決議』 |
講談社 2000年
(2003年、『MBO』と改題、幻冬舎で文庫化) |
『逆転 リベンジ』 |
産経新聞社 2004年(2007年、幻冬舎で文庫化) |
『社外取締役』 |
幻冬舎 2004年(2007年、文庫化) |
『第三の買収〜コンフリクト・オブ・インタレスト〜』 |
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幻冬舎 2007年(2009年、文庫化) |
『この国は誰のものか―会社の向こうで日本が震えている―』 |
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幻冬舎 2007年 |
『常識崩壊』 |
幻冬舎 2008年 |
『やっぱり会社は「私」のものだ』 |
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実業之日本社 2008年 |
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片岡:
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今月の右脳インタビューは弁護士として、また作家として活躍中の牛島信さんです。早速ですが、昨今の敵対的買収についてお聞きしながら、インタビューを進めたいと存じます。
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牛島:
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敵対的な買収は当然あるべきです。それがなければ経営者の緊張感も失われます。勿論、防衛すべき場合もあります。会社は一つの纏りで、従業員にとって重要な組織ですから、それを切り売りして金儲けをする解体屋や、ある部分だけとって残りは売り払うような人たちには売るべきでないと思います。私は敵対的な買収が続々と起きれば社会が良くなるとは思いません。しかし、最高裁も言っているように「株は誰が買うのも自由」です。その結果、経営者が買収者によって追い出されることがあったとしても、それは上場している株式会社として当然のことで、今後、その傾向は顕著になるでしょう。今までのところ、私の予想よりも、実際に敵対的買収が起こってきたスピードは遅かったのですが、それでも「脅威としての敵対的買収」は一気に広まりました。日本の経営者の規律はずっと高まり、その意味で良い方向へ発展しつつあるものと思います。そういう観点からは、目に見える形で敵対的買収が起きることは良いことだと思っています。
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片岡:
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牛島さんの著書『MBO』(幻冬舎文庫)の中に、PR会社を用い、裁判官の心理に影響を与え、第三者割当増資による経営権の奪取を防衛しようとする場面があります。米国では更に、大手PR会社や危機管理会社(Crisis
Management)は、連邦政府の諜報機関のスペシャリストを招聘して独自の戦略を構築、クライアントに防衛策を提供して買収者を排除する他、積極的なM&Aのアドバイスも与えるとも聞いております。
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牛島:
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望ましいことかどうかは分かりませんが、そうした現実はあるでしょうね。メディアゲームも含めて、良くも悪くも必須です。それは弁護士や投資銀行なども同じです。元々、それぞれに専門家がいて、専門家に頼めば何でもできるというのはアングロサクソン的な発想で、日本企業のやり方ではありませんでした。しかし、そういう専門家がいるという錯覚がある中で、本当の専門家が生まれてきたのも現実です。そして、弁護士が一人いれば、必ず、仕事はもう一人分生まれるのも事実です。
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片岡:
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米国のようなM&Aの背景を視野に入れると、企業のCEOとしては、どの様なM&Aのスペシャリストをコアにアウトソーシングしたら宜しいのでしょうか。
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牛島:
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投資銀行か、弁護士か、ビジネスマンか…。私は弁護士であるべきと思っています。現世のことは裁判所で最終的に決められます。だからこそ、弁護士という職種が向いていると思います。いずれにしてもM&Aにおける弁護士の役割は、今後、決定的に重要になるはずです。
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片岡:
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グレーゾーンへの対応を含め、弁護士や公認会計士への認識に、現実と温度差が出ているみたいですね。
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牛島:
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それは日本の弁護士が過渡期的な状態にあるからだと思います。今、弁護士は「法律がこうだからダメなものはダメですよ」という時代から、「ダメだからこうしましょう」という時代に変わりつつあります。私は、「村上世彰氏が行ったような買収がM&Aなのだ」というイメージができたことは不幸だと思っています。M&Aはもっと地道なものです。とはいっても、許されないことに手を付けたと言われていることは別として、村上氏が示した「許されたルールや設定の中で、縦横無尽に動いたらこうなるではないか」という点を、書かれざるルールをもとに批判をするのは浅薄ではないでしょうか。今、金融危機の影響で、全体として見るとM&Aは沈静化しボリュームが減っています。一方、この数年間で日本の法律事務所は急速に肥大化してきました。弁護士を400人抱えるような法律事務所は200億以上を売上げ、10億円単位の利益を上げていたはずです。欧米の法律事務所は売上が3000億円というところもあるビックビジネスです。日本の法律事務所も、弁護士人口が増える中で、そういうビジネスに育ちかけていましたが、近い将来、もし売上が減ったとしたら、短期的にどうなるのかも興味深く見ています。
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片岡:
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米国のCEOは、プライベート以外は弁護士と必ず行動を共にすると言われております。つまり、トップマネジメントと一体化するレベルになってこそビッグビジネスとなっていくのではないでしょうか。
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牛島:
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我々がアドバイスするときも、そうなることを前提にしています。
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片岡: |
特にM&Aでは、最初の段階から深くコミットしてもらうのが理想ですね。
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牛島:
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弁護士にとっても理想です。ところで、東証二部上場の企業だった春日電機(注2)という会社がありました。そこが買収され、乗取った人が会社の財産を外部へ吐き出させようとしました。その時、監査役が仮処分を申請し阻止しました。この会社は最終的に上場廃止となりましたが、この事件では金融商品取引法第193条の3(注3)が大きな役割を果たしたのだと思っています。この条項は、「公認会計士、監査法人は会社の法令違反等事実を監査役に通知しなさい。監査役が言うことを聞かなければ金融庁に報告しなさい」というところまで踏込んでいるのです。日本の会社法改正の歴史は監査役の権限強化の歴史だという著名な法律学者の言葉があります。私は、日本のコーポレートガバナンスはこの法律で大いに変わると思っています。今まで「閑散役」と言われていた監査役が、金商法193条の3で、絵に描いた餅から本物のウルトラマンになってしまったのではないかということです。私の小説『株主代表訴訟』(幻冬舎文庫)は、この監査役の持っている権限が法律の上では如何に強大かを描いたものです。これまでは、監査役については形式を大事にして監査役設置会社にし、きちんとガバナンスが存在している体裁が整えばいいという程度のものでした。社長に反対するというのでは困ります。ですから、そうならならいためにも、監査役に次のポストを用意したりして、それで社長は安泰でした。しかし、これからは金融庁が監査法人の背中を押すのですから、状況は一変します。日本のガバナンスの質は格段に良くなるものと思います。
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片岡:
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マーケットにはどういったインパクトがあるのでしょうか。
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牛島:
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株式市場にとって何より大切なのは会計制度だと思いますが、株式市場が年金資金を入れるに足るものであるためにはガバナンスが必要だという説があります。私はもともと人にとって働くということがとても重要だと思っています。働いていくらにせよ報酬を得るということが、自分がこの世にいることの意味、やりがいを感じさせてくれるからです。だからこそそうしたたくさんの人々を率いるリーダーにこだわります。経営者は、働いている従業員に、自分は決して余計者などでなく、世の中の役に立つ積極的な存在だということを認識させ、それを通じて従業員に幸せ感をもたらすべき立場にあります。従業員に仕事を与え、且つ、お金を稼がせるようにするようにする人なのだと思っています。だから悪しき経営者を取り換える必要があるときには、敵対的買収という方法によってでも、取り換えることが必要なのです。私は不動産の証券化にも、そのごく草創期に携わっていました。その時に強く感じたのは、不動産は集団で買った後で自分の持分だけを直ぐに換金するというわけにはいかないのに対し、上場株式なら右から左にすぐ売って換金できるということでした。上場株式会社制度というのは物凄い発明で、だからこそ巨大なお金が集まります。そのための株式市場は、もともとは投資家にお金を儲けさせるためにあるのではなく、会社がより発展するためにあったのだと思いますが、そのメカニズムの中では村上氏的な鞘取り業者も存在を許されなければ、株式市場が株式市場でなくなってしまいます。そういう制度の中で、それぞれの会社のリーダーは会社という組織を切り盛りしていくわけです。
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片岡:
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牛島さんも、弁護士であると同時に、50人以上の弁護士を率いる代表弁護士でもあります。後継者については如何お考えですか。
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牛島:
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若いパートナーも育ってきています。その中で切磋琢磨して次の時代のリーダーが生まれてくるでしょう。私の役割は、私が元気なうちにその人を事務所のリーダーとして据えることです。極端な言い方をすると、そのリーダーが、もし必要があると信じるならば自分以外のどの弁護士に対してでも退職をうながすことができるような立場です。でも実は、まだよく見えていません。そう意味では、まだ後継者がいないのかもしれません。
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片岡:
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弁護士数のメリットや特化した専門職の意義については如何お考えでしょうか。
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牛島:
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専門性や数にものをいわせた物量作戦の問題は確かにありますが、それぞれの仕事そのものにはそれほどの数の弁護士が必要というわけではありません。また事務所が大きくても仕方がありません。個々の弁護士の能力の問題です。しかし、目の前にいる弁護士が、自分が日本で一番だといっても、それが本当かどうかは分かりません。それを目に見えるようにするのは、やはり事務所のサイズが一番わかりやすいという面があります。何年の歴史のある、何人の事務所でやっているかということは、少なくともそれだけの依頼があり続けたということで、とても重要です。私どもの事務所は人数で日本一になることは未だできていません。当面、自分を奮い立たせる意味でも、日本で一番どころか、圧倒的に一番優れている法律事務所になろうと思っています。
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片岡:
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弁護士は強力な武器でもあります。その武器を誰に与えるのか、優秀であればある程、その影響力は大きく、依頼を引き受ける基準が重要ですね。
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牛島:
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私の場合は、基準が割合広い方だと思います。最近お断わりした例を考えると、世の中から非難を受けている人の依頼は受けないことがあります。ただ単に「強引なビジネスマンだ」という評判だけで依頼を引き受けないということはありません。原則として紹介者の信頼を重要視しています。ですから、私は、飛び込みの仕事を受けるということは普通ありません。勿論、私は広い世の中の或る極々小さな部分に一つひとつ釘を打っているに過ぎませんから、これが弁護士の全体像というわけではありません。
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片岡:
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貴重なお話を有難うございました。
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〜完〜 |
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インタビュー後記
超多忙なスケジュールをこなす牛島信さんですが、大変な読書家でもあります。熾烈な企業買収に携わる敏腕弁護士の実像と小説の主人公が持つ極めて人間的なイメージに落差を感じるのは、牛島さんが本来持ち合わせた右脳感性に加え、読書によって培われた旺盛な探究心と豊かなバランス感覚から帰来するのでしょうか。
その牛島さんのお薦めの本は、以下の四冊です。
1. |
『羊の歌―わが回想』 |
加藤 周一 著 岩波新書 |
2. |
『「断腸亭」の経済学―荷風文学の収支決算』 |
吉野 俊彦 著 日本放送出版協会 |
3. |
『変容』 |
伊藤 整 著 岩波文庫 |
4. |
『野蛮な来訪者』 |
ブライアン・バロー、ジョン・ヘルヤー 共著
日本放送出版協会 |
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聞き手
片岡 秀太郎
1970年 長崎県生まれ。東京大学工学部卒、大学院修士課程修了。博士課程に在学中、アメリカズカップ・ニッポンチャレンジチームのプロジェクトへの参加を経て、海を愛する夢多き起業家や企業買収家と出会い、その大航海魂に魅せられ起業家を志し、知財問屋
片岡秀太郎商店を設立。 |
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脚注
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注1 |
牛島総合法律事務所(英文名 Ushijima & Partners,
Attorneys-at-Law)
http://www.ushijima-law.gr.jp
〒100-6114 東京都千代田区永田町2丁目11番1号 山王パークタワー12階(受付)・14階
電話:03-5511-3200(代) 、ファクシミリ:03-5511-3258(代)
弁護士 51名、外国弁護士(日本資格外者)3名、スタッフ 42名(2009年1月8日現在)
理念 |
「完璧な仕事をする」 |
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当事務所は、「クライアントが弁護士であれば何をしたいか」を常に考え、もっぱらクライアントのために「完璧な仕事をする」ことをモットーとしております。日常の業務はもとより、「会社の命運のかかった事案においては、どうしても牛島総合法律事務所に頼みたい」という信頼を寄せられる事務所でありたいと願っているのです。企業活動の多様化・グローバル化のいっそうの進展に伴い、リーガル・サービスのニーズが複雑化・高度化しています。我々は、司法が国民のためにあるということを片時も忘れることなく、企業へのより質の高いリーガル・サービスの提供を通じ、「法の支配」による公正な人類社会の実現の一端に寄与していきたいと考えています。
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注2 |
春日電機については下記をご参照下さい。
http://ja.wikipedia.org/wiki/春日電機
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注3 |
金融商品取引法193条の3については下記をご参照下さい。
http://www.houko.com/00/01/S23/025.HTM#s7 |
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片岡秀太郎の右脳インタビューへ |