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プロフィール
1946年和歌山県生まれ。立命館大学経済学部卒業後、大和証券、メリルリンチ、キダーピポディ(米国の投資銀行)を経て、1989年
ラザードジャパンアセットマネジメント株式会社(注2)に入社。1991年
同社代表取締役社長に就任。1998年退任。
現在、スガシタパートナーズ株式会社 代表取締役社長。
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主な著書 |
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『99%の敗者と1%の勝者』 日本工業新聞社大手町ブックス 1999年 |
『ピンチをチャンスに変える極意』 産経新聞出版
2008年 |
『2011年まで待ちなさい!』 フォレスト出版
2009年 |
『スガシタレポート 2009夏号』(CD) フォレスト出版 2009年 |
『スガシタレポート 2009秋号』(CD) フォレスト出版 2009年 |
『世界のマネーは東へ動き出した!』 フォレスト出版
2009年 |
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片岡:
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先日、キリンホールディングスとサントリーホールディングスが合併の発表がありましたが、如何お感じですか。
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菅下:
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経済界でも大きなニュースとなっていますが、今後は大型の合併がブームになるかもしれません。これまで日本企業の多くは、実際にはドメスティックNo.1を目指していました。しかし情報革命を機に世界は一つとなり、情報やサービスのグローバル化は日進月歩で、否が応でもグローバル化と直面しないといけません。そうなると当然、国内で何社ものビール会社が競争している必要はありません。
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片岡:
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両社は株主構成に大きな違いがありますね。
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菅下:
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単に株式交換で合併する場合、サントリーの創業家が統合会社の大株主になって、株主構成だけを見ると同族会社になってしまいかねません。1つ目のシナリオは、それでも世界競争のために、三菱グループがそれを受け入れる。2の目のシナリオは、サントリーの創業一族が大株主にならないように何らかの形で合併の手法を研究する。ここで新しい金融技術が生まれて来るはずです。例えば新しい形のワラントを発行するとか、直接の大株主にならないような形をとるとか…。またサントリーは非上場会社ですが、当然、合併作業では、あらゆるものを公開していかないといけません。そうした中で、サントリーは見た目以上に傷んでいる可能性もあるかもしれません。反対に、相手が三菱系のキリンであっても対等合併できるという自負と持株会社を全て公開する覚悟があるという可能性もあります。私は後者ではないかと思っています。そもそもサントリーの創業者一族の側は、本来であれば合併をやりたくないはずです。しかし生き残り、世界一を目指すならば統合しかないと、決断した。そうであれば佐治信忠氏、そして加藤壹康氏は大変な評価を受けてしかるべきです。さて、こうした動きは他の分野でも同じで、日本経済の本格的な開国が始まっています。歴史を振り返ると、幕末の日本は内なる戦いに終始していたものが、黒船の来航を機に、このままでは欧米の植民地になってしまうという危機感から国内の統合が進みました。そういうことが今の日本の政治・経済にも起こり、ドメスティックマーケットで戦っていた者同士が、思わぬ薩長連合を成立させ、世界No.1を目指すようになるのではないでしょうか。
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片岡:
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菅下さんが著書「2011年まで待ちなさい」(フォレスト出版)で述べているように、中国、ロシア等の動きも、そうした方向と合致していますね。
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菅下:
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例えば、大企業がメリットを受けられるような税制改革、会計基準等を含めて、日本政府も国内の大企業同士の統合が進みやすいインフラを整備する方向になると思います。ただこうしたことはビジネスの後から付いてくるはずです。さて、これまで各国は、米国のモデルが理想的だということで、皆で物まねをしていました。それが、今回の金融危機で、米国のメジャーな投資銀行の多くが消滅し、9行からGoldman
SachsとMorgan
Stanleyの2行だけになってしまいました。米国主導の金融資本主義は行き詰まり、それにかわるポスト資本主義の模索期に入りました。そういう時代の一つの答えとして、ロシアはプーチンリストを作成し、国が生き残る企業を選定しました。中国も同じで、いわば国家資本主義が台頭しています。一方、欧米や日本では民主主義が確立されていますので、そこまでは難しく、一つの応えとして、社会企業家的な方向へも進んでくるものと思います。ただ儲けさえすれば良いというのではなく、社会的な貢献度の高さが評価され、株価にも表れるようになるものと思います。それはフランスのジャック・アタリ氏(注3)が言う”
May I help you?
”の時代であり、またレバレッジを効かせて1を100にするのではなく、0を1にする。つまりクリエイターをどんどん排出する時代です。サントリーとキリンの合併は、1+1が2になるのではなく、1+1が10になって世界No.1を目指す。これもクリエイティブな発想です。こういう形で日本経済に新しいトレンドが出て来て、それが大型の企業買収、経営統合として表れて来るのではないでしょうか。
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片岡:
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菅下さんのご指摘のように米国のメジャーな投資銀行は、Goldman SachsとMorgan Stanley
の2つ、所謂ビッグ・ツーに淘汰されました。今後はそこに情報とお金が集中し、非常に強大な力が生まれますね。
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菅下:
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その通りです。全てのビジネスが集まり、しかも、そこに銀行のバックアップがあります。国内でいえば、ちょうど大和証券SMBCのようなモデルです。三井住友銀行の資金力、経営力を背景に、大和証券が持っていたリスクテイキングのノウハウを生かしてビジネスを展開する。そして三井住友銀行の顧客と大和証券の顧客にシナジー効果をもたらすのが新しいビジネスモデルです。
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片岡:
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顧客のグローバル化、大型化への対応は如何でしょうか。
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菅下:
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そういう意味では野村証券も単独では生き残れず、手を組む相手は、本来であれば国内の三菱グループが丁度良いのでしょうが、私はJ.P.
MorganやDeutsche Bankの様な海外の銀行となるのではないかと思っています。今回、野村証券はLehman
Brothersの一部を買収しましたが、あれば古い形です。しかし、そこに健全で巨大な銀行のバックボーンを取り付けて野村証券が新しいモデルを展開する。その時には買収したLehman
Brothersの一部が活きて来きます。野村証券だけでは使いこなせていないはずですから…。さて、今までのM&Aは各投資銀行のM&A部門が動いて成立してきました。しかし、これからの大型のM&Aは垂直型、トップ同士の話し合いでパッと決まります。投資銀行のM&A部門のスタッフが動いても、そうした大型の案件を取り付けることはなかなか難しいと思います。まさに戦国時代的で、昨日の敵は今日の友、「え、こんな相手と?」というような経営統合が明日にも起こりえます。そういう時代ですから、CEOには織田信長や上杉謙信の様な資質が求められます。第一に、先見の明があること。そして、スピード感のある決断、実行力、行動力が問われます。また情報力、情報収集力が非常に重要になります。戦国の有力大名は忍びを放ち敵情を常に探っていました。今はインターネットもありますが、それだけでなく、米国の投資銀行の中には、実際に諜報機関や軍隊の経験者を幹部として多数招聘しているところもあります。もっとも、そうした企業の日本法人はというと、邦銀の元頭取といった、英語が出来る金融経験者が就任することが多く、その様な能力は持っていないものと思います。日本企業は、そうした情報戦略が非常に弱く、今後は情報戦に耐えうる企業になっていくことが必要です。そのためにも、情報の能力を持った人間を集めることが必要となってきます。
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片岡: |
貴重なお話を有難うございました。
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〜完〜 |
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インタビュー後記
多岐にわたる人脈と国際的な交流に加え、フォーラムや執筆活動、そしてグルメ談義を通じ、積極的に日本の企業経営者に元気とモティベーションを啓蒙し続ける孤高な菅下さんに「Change
Japan
!」のエールを送りたいと思います。さて、そんな菅下さんお薦めの本と映画は、「新宿鮫シリーズ」(大沢在昌著)と「007カジノ・ロワイヤル」(2006年公開)です。金融市場という生き馬の目を抉る世界に生き抜いて来た菅下さんにとってミスマッチの感性を垣間見た感じです。ダンディでロマンティストのグルマンという雰囲気さえ漂う菅下さんからは政治家や財界トップという権力志向が伝わって来ません。それがクライアントに爽やかな信頼感を与える秘密かもしれません。
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聞き手
片岡 秀太郎
1970年 長崎県生まれ。東京大学工学部卒、大学院修士課程修了。博士課程に在学中、アメリカズカップ・ニッポンチャレンジチームのプロジェクトへの参加を経て、海を愛する夢多き起業家や企業買収家と出会い、その大航海魂に魅せられ起業家を志し、知財問屋
片岡秀太郎商店を設立。 |
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脚注
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注1 |
以下をご参照下さい。
http://www.sugashita.com/
http://sugashita.net/
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注2 |
以下をご参照下さい。
http://www.lazardnet.com/LAM/jp/index.shtml
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注3 |
以下をご参照下さい。
http://ja.wikipedia.org/wiki/ジャック・アタリ
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片岡秀太郎の右脳インタビューへ |