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第8回 『 右脳インタビュー 』          
2006年7月1日
 
加藤 秀樹さん
 
 

加藤 秀樹氏 プロフィール

1950年香川県生まれ。京都大学経済学部卒。
大蔵省入省後、ケンブリッジ大学留学、在エジプト大使館勤務、在イギリス大使館勤務等を経て、公正取引委員会官房企画室長、大蔵省証券局投資管理室長、財政金融研究所研究部長、大蔵省官房企画官を歴任後、退官。
現在、NPO法人『構想日本』 代表。慶應義塾大学総合政策学部教授。東京財団会長。

 

主な著書・編書等
構想日本〈第1〜3巻〉 構想日本J.I.フォーラム 編集 2005年 水曜社
浮き足立ち症候群―危機の正体21 加藤 秀樹 編集 2004年 講談社
道路公団解体プラン 加藤 秀樹著 構想日本著 2001年 文藝春秋


 

片岡:

第8回の右脳インタビューは加藤秀樹さんにご登場いただきます。本日はご多忙の中、有難うございます。加藤さんは大蔵省を退官後、『構想日本』注1を設立されました。『構想日本』は研究者やジャーナリストなど第一線で活躍する実務者たちによるネットワーク型のシンクタンク注2で、行政が独占する政策市場に『民』の立場から新風を吹き込んでおります。それでは先ず、設立の経緯などお伺いしながらインタビューを始めさせて戴きたいと思います。 
 

加藤

私はもともと役人になりたかったわけではないのですが、それでも役人となったことで公共事業などに携わり、国のあり方、行政のあり方を実際に考え、また批判される側にもなりしました。そういった積み重ねの中から『構想日本』の考え方がじっくりと生れてきました。ずいぶん以前から、いろんな人が日本にも(政策)シンクタンクが必要だと言っていました。しかしながら、そういう人たちは今でも同じ事を言っています。そして『アメリカにあるから作ろう』、『アメリカにあるからできるはず』と言う人も多くいます。でも、そういうことではありません。そもそも政策を政治家と行政だけに任せていいのでしょうか。そうではないはずです。政治家には当然、自分の利益、強い価値観があります。また霞ヶ関では縦割りの枠、時間の枠があって入ってくる情報に偏りがあります。これらを飛び越え、日本の行政の仕組み、雇用の枠を超えたことをやるために『構想日本』を作りました。
 

片岡:

ご自身の政策の実現という面からいえば、政治家もやはり直接的な選択肢の一つであったのではないでしょうか。元々政治家と近いお家柄で、また宮澤喜一元首相とも御縁戚の関係とお聞きしております。
 

加藤

小さいときから選挙を間近に見てきましたので、それこそ若手議員より詳しいでしょう。選挙は『みんなが自分に入れてくれる』と感じるくらいでないと当選できないという厳しい世界です。どうしても政治家は選挙活動に力点が注がれ、また『何をするか』より、総理大臣とか外務大臣とか『何になるか』を重視する傾向があります。だから外からやる方が良いわけです。
 

片岡:

反対に特定の政治家に政策やデータ等を積極的に提供するなど、政策を実現するために政治家の育成・支援をすることはないのでしょうか。
 

加藤

政策に賛同を戴くことはあっても特定の政治家を支援することはありません。そういったことはメディアの側からすれば、どうしても政策の押し売り販売に見えてしまいます。また政党や企業からの委託研究なども受けず、ニュートラルな立場で活動していて、逆にどんな政党の方々ともお付き合いをしています。
 

片岡:

財務面はどうなさっているのでしょうか。
 

加藤

構想日本は個人・法人の会員からの年間8000万円の会費収入で運営していて、スタッフも10名ほどおりますが、財団でも株式会社でもなく単なるNPOです。設立当初より、特に財務的に自立することを考え、私も給与をきちんと貰っています。というのは個人に組織が乗りかかれば、思うような活動が出来なくなるからです。NPOといえどもfundraisingの努力をすべきだと思っています。この点では米国を見習うべきです。私どものような政策シンクタンクの場合でいえば、大企業に政策案を配るだけでなく、どこかの役所が作ったものよりも優れていると言うことを説明していく必要があります。そして実際に政策を実現しようと思えば、マスコミに良いと思わせ、新聞報道されるように仕組み、幹事長にもそう思わせないといけません。構想日本の役割は政策の立案だけでなく、実現することです。だからロビー活動が必要で、古い言葉で言えば根回しをしております。
 

片岡:

毎月ご開催されているJ.I.フォーラムなどもそういった役割を担っているのでしょうか。
 

加藤

J.I.フォーラムの開催も100回を超えましたが、これは一般を対象としたもので政策の前段階を伝える役割を持っています。政策を伝えるには各政党の勉強会や国会に出席し、必要であれば党の政調会長に直接あって説明することもあります。そうした政府・自治体の委員会への出席や講演会等も年間100回を超えています。またプレスリリースも積極的に実施し、取材されるようにもって来るようにしています。そうして年間130回程度、新聞や雑誌に記事が載りました注3。今のところ、ロビイング技術には革新がなく、地道にやるしかありません。米国では昼食会を利用して広まることもありますが、日本の場合はそうも行かず、政治家に直接説明するしかなく、またマスコミに分かってもらうようにするためには不正確になるくらい簡単に説明することも必要です。
 

片岡:

新しいメディアとしてインターネットの力が強まっています。その影響はあるのでしょうか。政府機関が世論を動かすために活用している例もあるようですが・・・
 

加藤

本来インターネットは政策の世界には向きません。日本では専ら政治家が選挙向けに有権者とのコミュニケーションツールとして利用していると言うところではないでしょうか。と言いますのは実際に政策を伝えようとすれば如何しても分量が増えます。しかしながらインターネットでは物事を単純化し面白くしなければいけないという風潮があります。人気投票的な世論作りには利用できますが、政策には難しいでしょう。
 

片岡:

それでも一人一票の世界では本質的な問題で、政策を実現するためには避けられない課題でもあるように思います。
 

加藤

勿論、マスは最後の拠り所でもあります。しかし、きちんとした教育を受けていない人たちが大きな発言力を持ちすぎていて問題です。そういう中で安直に愛国心などの議論がなされますが、そうしたものが何時戦前の『鬼畜米英』に転換するか分かりません。そもそもルールとマナーは違います。マナーまでルール化するのは国の品格としては最低です。
 

片岡: 政策と同じで、法律も統治の手段と民の権利という二つの面のせめぎあいにあるものと思います。そういう意味でも、マナーの法制化は安直で危険なことではないでしょうか。
 

加藤

今は前者の側面ばかりが取りざたされています。もともとルールは実行する人間が必要ですから乱用することが可能です。戦前のように戦争に向わせる事もできます。先日若手の経営者集団と話をする機会がありましたが、彼らは若し戦争になったら国民を戦争に行かせるだけでなく、彼ら自身が戦争に行く側にもなります。そういった意識をきちんと持って発言しているのかはなはだ疑問です。またメディアにも責任を持ってじっと突き詰める人がいません。だからこそ良い意味でのエリート教育が必要です。今では『エリート』の定義そのものまでおかしくなってしまっていて、本来エリートはリベラルな傾向があるにもかかわらず、アレルギー反応的に戦争と結びつけられます。今では、後藤田正晴や中曽根康弘のような責任を取る力を持った本当のエリートがいなくなりました。日本の『エリート』を国際自然保護連合(IUCN)注4のレッドリストに絶滅種として登録したいくらいです。
 

片岡: まさに芯の太いエリートの復活が待たれます。それでは最後に読者に一言お願いします。
 

加藤

私的なことだけではなく、パブリックなことに関心を持って欲しいと思います。元々プライベートとパブリックは表裏の関係にあります。戦争をせず平和を保つということは最低限のことです。そういったパブリックなことが成り立って初めてプライベートも成り立ちます。それを忘れてプライベートな面にかまけていてはいけません。当事者意識をもって世の中を見ることからはじめて下さい。
 

片岡: ある意味で縦割りに囚われてしまっているのは『民』の意識も同じです。政策ベンチャーが官だけでなく民の意識にも大きな変革の波を惹き起こしていくものと思います。本日は有難うございました。
 

−完−

 

インタビュー後記

ただ行政を批判するだけでなく、政策を自ら立案し、メディアを巻き込み、ロビイングを通じて実現させる。そのために巨大なエネルギーを消費する選挙や政治ポストはあっさり切り捨てる。構想日本は、まさしくベンチャースピリットに満ち溢れています。そんな政策集団を率いる加藤さんの鋭い知性と熱い情熱をオブラードに包む穏やかな表情が印象的でした。

  

 

聞き手

片岡 秀太郎

1970年 長崎県生まれ。東京大学工学部卒、大学院修士課程修了。博士課程に在学中、アメリカズカップ・ニッポンチャレンジチームのプロジェクトへの参加を経て、海を愛する夢多き起業家や企業買収家と出会い、その大航海魂に魅せられ起業家を志し、知財問屋 片岡秀太郎商店を設立。

 
 

脚注
 

注1

構想日本 1997年設立
http://www.kosonippon.org
それぞれ第一線で活躍する専門知識や実務経験を持つ人のネットワーク型シンクタンクで、『民』の立場で政策、法律を立案し実現を図る。
 
運営委員(*は政策委員を兼務) 
飯尾 潤* 政策研究大学院大学教授
上山信一* 慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科教授
岡田達雄 グローバル・スポーツ・アライアンス常任理事
加藤秀樹* 構想日本代表
西田陽光 構想日本ディレクター
原 丈人 DEFTA PARTNERS グループ会長
山田厚史* ジャーナリスト
 
政策委員(運営委員兼務者を除く)
赤池 学 ユニバーサルデザイン総合研究所 代表取締役所長
跡田 直澄 慶應義塾大学商学部教授
井堀 利宏 東京大学大学院経済学研究科教授
大住 荘四郎 関東学院大学経済学部教授
岡島 成行 大妻女子大学教授
田中 優子 法政大学社会学部教授
中前 忠 中前国際経済研究所代表
長谷川 眞理子 総合研究大学院大学教授
藤原 和博 杉並区立和田中学校校長
須藤 修 東京大学社会情報研究所教授
田村 次朗 慶應義塾大学法学部教授
丹治 幹雄 構想日本政策委員
松原 隆一郎 東京大学大学院総合文化研究科教授
山田 晴信 HSBC証券会社東京支店 チーフエグゼクティブ

 

注2 

詳しくは下記ウェブサイトをご参照下さい。
http://www.kosonippon.org/info/koso02-06.pdf
 

注3 

シンクタンクについての情報が掲載されているサイトをご紹介します。
総合研究開発機構(NIRA)(1974年設立 会長 小林陽太郎)のウェブサイトで日本のシンクタンクに関する動向調査などの情報が公開されています。
http://www.nira.go.jp/menu2/index.html
日本国際問題研究所(JIIA)(1959年設立 会長 平岩外四)のウェブサイトにて、津田塾大学の中山俊宏助教授が米国のシンクタンクに関する論文を掲載しています。
http://www.jiia.or.jp/research/fellow_intro/nakayama.html
「保守系シンクタンクの台頭の背景とその役割」(日本国際問題研究所「米国内政:共和党−現状と動向−」研究会報告書、2001年) 
「米国企業とシンクタンク」(日本国際問題研究所「米国のビジネス・カルチャー」研究会報告書、2000年)
 

注4

1948年設立。72ヶ国、107政府機関、743非政府機関、34団体が会員となる(2002年)世界最大の自然保護機関。
 

(敬称略)

 


片岡秀太郎の右脳インタビュー

 

 

 

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更新日:2012/10/30