中国ビジネスの行方 香港からの視点
「既得利益集団」が中国の改革を阻害
2012/7/1
湾仔
秋の共産党最高幹部人事を巡り党内派閥間の駆け引きが益々激しくなっているようだ。
#党幹部、高級官僚の資産公開要求
香港の英字紙South China Morning Post注1によれば北京の共産党機関紙北京日報がGary
Locke 米大使の平民暮らしのパフォーマンス(例えば海南島で行われたアジアフォーラムで5つ星の高級ホテルに泊まらず米国高官の出張旅費規程内の4つ星ホテルに泊まったとか、中華系米国人としてその清廉ぶりが行く先々で好意的な話題となっている)を批判して、その資産を公開するよう求めたところ5月17日に直ちに在中国米大使館の公式ミニプログで大使他米国務省職員の給与額を公表した注2。それによるとLocke大使は毎年規程に沿って資産公開を行っている、資産総額は235~812万ドル、年収は17万9,700ドルと子女一人につき年3万ドルの教育補助金を受けている等々。このnewsに対しインターネットユーザーから何故同じことが中国では実現しないのかと猛烈な巻き返しがあったようだ。温家宝も嘗て政治改革案の中で官僚の財産公開に触れたし、同じような動きは時々出るが、実行されたという話は聞いたことがない。上述の英字紙(6月22日付け)では人民解放軍の上級幹部に対し収入、資産、投資について報告を義務付けるとの解放軍紙の記事を紹介しているが、軍隊は宇宙開発から繊維産業まであらゆる産業に拘わっており巨額の予算を使っているので単なる個人の資産公開をしてもあまり効果は期待できないとしている。実際に軍幹部が汚職で失脚する例があるが、輸送部隊での車両の買付とか、食糧調達部門での汚職とか末端での不正行為にとどまっている。一方、台湾では政府高官は毎年本人・妻子の国内外資産公開を義務付けられており、実行されている。
中国の最高幹部で収入が明らかになったのは、失脚した薄前重慶市党委書記くらいで、彼は年収約2万ドルと報られている。但し、家族を含めた資産総額は1億3千6百万米ドルとも言われている。彼の子息はハーバード大に留学しているが同大学の授業料は専攻学部にもよるが7万ドルはするので資金源が問題だ。5月19日のWashington
Postによると中央政治局常務委員9人の内5人の子や孫がアメリカに留学している。江沢民の孫,習近平の娘もハーバード大で学んでいるようだ。米国留学の中国人は過去15年で4倍に増え、中国政府高官で欧米に直系親族がいる人の割合は90%に上ると結んでいる注3。
そのほか汚職とか海外逃亡官僚とか超大型密輸事件の判決などの報道がかなり頻繁に報道されている。一方6月の天安門事件の回顧録も例年より派手に香港で報道されているがこれも共産党指導部内の権力闘争によって情報を恣意的に流したり、ネットの検閲にもこの影響が及んでいる可能性もあろう。
#既得利益集団に対する批判論文の出現
雑誌「東亜」注4の2月号に高橋博氏注5が“清華大と中央党校、改革推進で共同戦線”という記事で今までに利益を享受している既得利益集団が中国の改革、特に政治体制改革の進展を阻害していると厳しく批判した報告書について解説している。
中国共青団の中央機関紙「中国青年報」は今年初め上記報告の存在と簡単な骨子を紹介したが、ネット規制を受けて削除されたとのことだ。一方清華大は簡単な内容の転載を継続しているらしい。それによると
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既得利益集団が変革を阻止している。
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中国経済は「停滞ではなく、極度の奇形的発展」をしているので政府は巨大プロジェクト、巨大ビル建設に依存せざるを得なくなっている。
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階層間の対立的感情が激化し富者を憎み、貧者を嫌うようになっている。
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政府は安定保持に走る
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一部地方政府は権力制御不能に陥っている
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以上のようなものだが、清華大はエリート中のエリートの集まりなので指導部の了解なしにこのような論文が公になることは考えられない。広東省党委書記の汪洋が既得利益集団が中国の改革を阻害している注6という演説が嘗てあったが、ここでも党内保守派と改革派の綱引きとも取れる。
#既得利益集団とは
日本でも既得権益集団がいつも問題となるが、土地,鉱産資源、金融資源、全国のインフラ・都市開発・公共事業、農村水利建設、エネルギー・電力・通信、製造業など重要産業全てにかかわる集団とみなされる。
高速道路、医療、鉄道などへの民間投資導入を政府は何回も試みたが、既得利益集団の抵抗で成功していない。この場合はいかなる集団かは容易に想像がつく。一方中国の場合一党独裁で指導者の命令一下で統制がとれると考えがちだが実際には中央省庁、地方政府、中央の企業、地方の企業、一般市民がそれぞれの既得利益で行動するので一概にどの集団を指すのかは難しい。但し、8千万人の共産党員、中央、地方の官僚、国営企業幹部、インフラなど建設関係の民間企業などは既得利益集団の最たるものであろう。2008年のリーマンショック時の4兆元の景気拡大資金がたちまち鉄道など利益集団に食い散らかされたのは記憶に生々しい。
#中国の民主化は?
ネット時代でもあり、既得利益集団が糾弾されたりするので民主化運動に期待する向きも多い。確かに以前より民主・自由などの表現が多くなったことも事実だ。但し、胡錦濤政権の10年は結局、時々掛け声はあったが、経済成長一辺倒で、民主化はむしろ後退したとみるべきであろう。
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習近平に対する期待
民主化に期待する声は習近平に対する期待ともいえる。但し筆者は中国人に革命は無理だと見る。自分の損となれば大騒ぎするが、すべてはカネなので自分が既得権益層の仲間に入る努力をした方が成功の早道と考えている筈だ。
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共産党主導による民主化
土地問題、工場労働者の待遇問題で反政府デモとか集会も開かれてはいるが、ほとんど公安に鎮圧されている。公共安全に対する財政支出は既に膨大な国防費を超えているとも言われ二重三重に張り巡らされた監視網を突破できるデモは起こり得ないであろう。そこで、多くの人は上からの民主化即ち共産党主導による民主化に望みをつないでいるが、共産党自体が既得権益集団の集まりなのでこれも期待薄だ。
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自由を基本とする市場経済と共産党一党支配の政治体制は両立し得ないことは理解できても民主主義への政治改革は現体制下では期待できないと思う。
以上(一部敬称略)
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