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中国ビジネスの行方 香港からの視点
 

中国企業 養豚・豚肉加工業に一斉に参入

2012/9/1

湾仔

 中国では大半の産業が、過剰投資による過剰設備を抱え悩んでいる。国が産業を支配しているので、国営・民営を問わず、一社が許可を取ると、官僚も稼ぎ時とばかり後押しをしてすべてが右へ倣えと過剰投資となる。社会主義体制では壮大な無駄の連続が起こる。
 今回は養豚業の過剰投資の話だが、その前に、最近急騰している穀物相場について簡単に触れてみたい。
 

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穀物市況
 
 養豚業のコストの半分以上は飼料だが、その主体となるcorn(玉蜀黍)の市況に異変が起きている。本稿では7月末の状況だが、穀物市況については次の稿で改めて解説してみたい。7月に入ると日本でも新聞などで米国中西部を熱波が襲い、干ばつによってコーン、大豆の作柄が不良と報じられた。米国はコーンの場合、全世界の輸出量の52.5%、大豆では42.9%を占めており、その作柄は当然穀物市況に反映する。
 7月5日にはコーンは1ブッシェル7.68ドルと2011年6月の7.9975ドルの史上最高値に迫った。大豆も16.265ドルと2008年7月の最高値16.63ドルに近づいた。7月6日米国農務省は米国内在庫が低水準にあり、中西部の熱波による干ばつによって作柄は1988年以来24年ぶりに低水準になると予想を発表した。コーンの場合作柄状況は下方修正され米国産の38%を‘不良’または’極めて不良‘とし、大豆も30%を’不良‘または’極めて不良‘と発表した。一方原油などの価格低迷から穀物にいわゆる投機資金が流れ、2008年の異常気象時と同じ現象が起こりつつあった。大豆の場合は中国が完全に輸入国となって、6月の大豆輸入量は前年同期比31%増の562万トンと中国の需要だけ突出して高く、中国需要が大豆価格を押し上げているともいえる。一方、7月25日になると米国中西部に降雨予想が出て作柄改善の予測が支配的となり、穀物相場が一斉に反落した。これは投機筋が欧州の債務問題への不安が再燃し、利益確定売りを急いだとの見方がある。
 大豆は食用油、豆腐の原料となるがカスは飼料に使えるし、コーンは全量飼料用と見てよい。小麦もコメも世界的に供給量は十分あるので2007〜8年のような食糧危機までは行かないとは思うが、投機筋も虎視眈々と狙っているので、ある程度の高止まりは止むを得ないであろう。それでも、牛・豚肉、鶏肉、乳製品の価格上昇につながるものと思われる。豚肉1キロを生産するのに必要な穀類は7キロと言われているので穀類の高騰は直接コストに反映する。
 

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何故養豚業に参入するか
 
 養豚、豚肉加工業は高収益産業と見られていることが原因だが、実際には2006年から2007年にかけ40%も値上がりしたのが原因ともいえる。インフレを最も恐れる中央政府は豚肉の値上がりによってCPI(インフレ率)は大幅に上がる(注1)ので何とか低価格を維持したいところだ。それほど、消費に占める豚肉の価格の割合は大きい。2011年中国の豚肉消費量は5258万トンで世界全体の消費の51%を占めている。要するに世界の豚肉の半分以上を中国が消費している。2006年は5197万トンであったが、この数字は政府の発表数字でこの年に豚の疫病が広がり実際には2000万トンも下回るとの噂もあったようだ。この年の値上がりは中間流通でいかに利益が抜かれているかが判明した点でも画期的であった。香港ではデンマーク・米国から冷凍・チルドのかたちで無税で輸入されているが、飲食店では生きた豚を欲しがるので大陸からの輸入に頼らざるを得ない。ところが、大陸からの豚が突然、4〜5割値上がりしたので、輸入側は騒ぎだし、結果として中間流通業者が巨大な利益を得ていることを突き止めた。大陸からの場合は五豊行(注2)が中国商務部(商務省)から香港向け総代理店の権利を得ている。同社は昔の対外経済貿易部傘下の巨大国営企業である華潤集団の中の糧油食品総公司から権益を受けている。一方、広東省産の豚とか鶏肉の香港向け権利は広南行がもっているが、同社は広東省政府の公社である広南集団の子会社とのことだ。一般に穀類、食品類は国営・公営企業が国内流通を担っているが、その流通経費が極めて高い。香港の輸入業者に直接取り扱いを認めるよう北京政府と交渉に入ったが、その後豚肉の値下がりもあり結論を得ていないようだ。いずれにせよ、高収益を期待しての参入であろうが、実態は豚肉増産を目指す政府の方針に沿っているような気もする。
 

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養豚業に参入した企業

 6月の北京青年報(注3)に参入企業の詳細が載っている。

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2010年8月 中國国際金融(北京) 牧原食品に1千万ドル投資、50万頭から100万頭に養豚規模拡大

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2011年1月 惟鷹農牧(河南省) 養豚projectに40億元投資 

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2011年3月 網易(北京) 80ヘクタールの養豚場に3億元投資

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2011年4月 三源牧業(山東省) 20万頭の養豚場に23億元投資

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2011年6月 中糧集団(北京) 日本3社と合弁事業

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2011年6月 大康牧業(湖南省) 2,980万元で2つの種豚養豚所買収、更に2,500万元出資し40万頭豚肉加工projectに参入

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2011年7月 Lenovo投資(北京) 常州市公営養豚所に3,000万ドル投資

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2011年7月 美林基業(広東省) 広州最大の単体養豚所経営に投資

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2011年7月 新希望集団(四川省) 今後5年間で遼寧省に養豚300万頭育成に50億元投資

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2011年7月 順金農業(北京) 2つの種豚繁殖会社の増資資金800万元を投資

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2012年2月 徳美化工(広東省) 3年間に5.76億元を投資、年産36万頭の特殊豚養豚

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2012年3月 武漢鋼鉄(湖北省)1万頭養豚所建設、年内完成

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2012年6月 山西焦煤(山西省) 食肉加工project,年間200万頭の肉処理能力を持ち、肉製品加工能力10万トン

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2012年6月 正邦科技(江西省)養殖発展ファンド設立、5年で黒竜江省600万頭豚産業化を計画
 

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養豚、食肉加工業以外の分野から参入
 
 前述の表は2011年から最近までの大口の参入企業を並べたものだが、新希望集団(飼料販売では中国最大手の一つ)、中糧集団(国営、中国最大の食品企業、穀物商社など経営)その他農牧、牧業、農業などは畜産業の関係企業と見てよい。さらに、国際金融、網易(大手ポータルサイト)、Lenovo、正邦科技(民営で農業関係主体の投資会社)などは投資会社と考えれば養豚事業への投資と解釈できる。そこで世間の注目を浴びたのは武漢鋼鉄だ、鉄鋼業が過剰生産により一斉に操業度を落とし、利益も出ない状況にあるので多角化の一環として養豚業に進出と騒がれたが、国営で中国3位の製鉄所が豚にまで手を出すとはと驚きであった。もう1社養豚とはどう見ても関係がなさそうなのが山西焦煤だ。同社は巨大国営企業で山西省に101の炭鉱を持ちコークス生産では中国最大と言われている。石炭関連産業は長い間ブームにあり、石炭長者が続出している。特に最大の炭鉱を持つ山西省は石炭によって潤ってきた。電力不足がある限り、石炭の需要はあるので異種事業への拡張というより単なる養豚への投機と見られる。本件とは直接関係がないが、山西焦煤の前会長[董事長]白培中の汚職事件はネットで中国中に知れ渡っている(注4)。彼は出世街道を驀進中で、山西省共産党幹部となり副省長との話もあったらしいが、2011年11月に彼の豪邸(国営企業幹部用のマンションで300平米以上ある由)に強盗が入り、彼は不在のため、妻が300万元相当盗まれたと警察に過少申告したが、強盗が捕まり取られた物品の総額だけで5000万元[現金、金の延べ棒]とのことで疑われ、結局汚職で逮捕されてしまった。今回の投資は新会長によるものだろうが、大国営企業までが養豚事業投機に参加しているのは極めて特異な現象だ。
 

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養豚事業は儲かるのか?
 
 問題は豚の繁殖力だ。1頭の母豚から一回に11〜12匹の子豚が生まれる。更に年2回出産するので年間22〜24匹の子豚が生まれることとなる。
 従って、豚不足の年のあとに急に過剰となるので畜産の中でも最も不安定な業種と見られている。日本の市場の出荷量の半数を占める一般的な大規模養豚農家では500頭の母豚を持ち年間20匹の子豚(計1万頭)を養育するのが一般的だが(注5)、人口比で日本の10倍以上と見ても前述の計画ではそれぞれ数百万頭なので近い将来、豚の生産過剰問題が発生するものと思われる。或いは余った豚はすべて輸出すればよいと考えているのかも知れない。いずれにしても,飼料代の高騰によるコスト高と、豚肉価格の下落は避けられないであろう。インフレ率の下落には寄与するが、世界の豚肉市況にも大影響があり今後の成り行きには目が離せない。
 


 

編集者注
 
注1

http://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_000439.html :最終検索2012年9月1日
http://jp.xinhuanet.com/2011-06/20/c_13938643.htm :最終検索2012年9月1日
  

注2

http://ja.wikipedia.org/wiki/五豊行 :最終検索2012年9月1日
 

注3

http://ja.wikipedia.org/wiki/北京青年報 :最終検索2012年9月1日
 

注4

http://www.excite.co.jp/News/chn_soc/20111223/Recordchina_20111223013.html :最終検索2012年9月1日
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20120111/226047/?rt=nocnt :最終検索2012年9月1日
 

注5

http://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/tikusan/pdf/tikusan_12.pdf (P8, P39~41) :最終検索2012年9月1日
 

   
   
   
   
   
   
   


 

 

 

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更新日:2012/10/30