中国ビジネスの行方 香港からの視点
中国の「過剰と在庫」の後始末に追われる近隣諸国
2013/1/1
湾仔
中国政府も生産設備の過剰が問題化していることには特に気を使っている。問題は設備のみならず、在庫と人員の過剰にあるが、人員については大手の大半が国営企業なので人員削減を打ち出すわけには行かない。在庫についても政府の買い上げ策もあるが巨額の費用がかかるので現実的ではない。そこで政府の関与できることは同一業種の合併・再編によって過剰設備の削減を狙っている。人民日報では8大業種の再編として鉄鋼、自動車、セメント、機械製造、電解アルミ、レアアース、電子情報、医薬を挙げている。ところがこれに載っていない業種でも殆どが、過剰設備に苦しんでいる。面白いことに設備は余りいらないアニメも世界一のアニメ大国を目指すと標榜して年間成長率20%以上を政府は掲げているが既に人員の過剰が問題化している。
中国の生産能力の拡大が供給過剰を生み、それが輸出に回りアジアでの素材安を招いている。いうなればデフレの輸出だが、代表例が鉄鋼、製紙、石油化学業界だ。
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アジアでの素材安の現状
鋼板は3年ぶりの安値となっているが、それでも宝山・武漢鋼鉄など国営大製鉄所は製鉄所の新設に走っている。2012年の生産能力は9億トンと言われ2008年から40%も拡大している。実際には2億トン以上が過剰とみられているが、それでも地方では続々と拡大が進んでいる。実際に豪州産鉄鉱石の値上がりによる採算悪化でメーカーは一斉に値上げに動いたが、本来は生産調整すべきところで、足並みも揃わず、値上げも浸透していない。
印刷用紙も9年ぶりの安値となっているが(アジアの主要市場である香港では上質コート紙はトン750ドル)、製紙のみならずパルプも中国各地の国営工場で生産拡大が行われている。廃液は悪臭のする公害の元凶だが、住民の目も厳しくなりつつある今日、既存の工場の拡張によって公害対策は行わずに設備増強に走っている。
石油化学製品でも家電用アクリロニトリルの価格は一年で40%も急落しているという。合成繊維原料の石化製品のアジアでの価格は20~40%安となっており日・韓などの石油化学大手は減産に取り組んではいるものの中国では生産設備増強に動くため減産効果は全く出ない。4兆元の景気刺激策で次々と設備増強が行われたとのことだが需給がどうなるかなどは問題外で全員が一斉に走り出すところに中国の怖さがある。製紙業などの場合、日本でも世界の需給に関係なく機械メーカーは新鋭機械の売り込みに励む。彼らの場合、機械を売ってしまえば将来、再度機械の売り込みの機会が少し先になるだけの話で済むが、業界の方はそうはゆかない。減産−−人員削減など苦難の連続となる。
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中国でなぜ過剰が起こるのか
最近の人民日報で“中国の特色ある社会主義の道”と題して相変わらず自画自賛しているが、(或いはこれが中華思想で自分だけが正しいと信じているのかも知れない)その内容は“第18回党大会への注目は中国の歩む道への注目である。世界のどこでも通用する発展のモデルや道は存在しない。中国は古人の歩んだことのない道を歩んでいる。即ち「中国の特色ある社会主義の道」だ。”まさに自信満々だが過剰製品の輸出で迷惑している近隣諸国はどうでもいいらしい。
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過剰の原因にはいろいろあるが、一つには中国社会の仕組みもある。情報が遮断されていてすべてが不透明なので止むえない面もあるが、売れ筋商品、外国産の新製品を何とか作りだそうという迫力は中国人特有と思う。模倣と言われようが、知財権侵害と言われようが彼らには全く通用しない。元々「商」には独特の才がある民族だが、一般消費財は別として巨額な設備投資を必要とするものは国営企業でなければ不可能だ。ところが国営企業は効率を無視するので需給予測は二の次となる。雇用優先なので設備を増強すれば、直ちに増産となる。いわゆる社会主義経済の無駄だ。中央政府はこれに対処するに合併・統合を奨励するが、各地方政府はGDP至上主義なので簡単にはゆかない。社会主義体制ではハコ物を作っては壊し、又作ることが常時行われるが、これが無駄だという認識はない。かくして過剰設備は永遠に続く。
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在庫
車から家電製品に至るまですべて過剰在庫が問題だが、原料についても過剰在庫が起こっている。ここでは石炭を取り上げてみよう。中国の電力は石炭火力発電が主流だが、南部/沿岸部の工場では依然として電力不足が問題となっており、休日をずらすなどいろいろな対策を講じている。2011年から2012年にかけ5つの大電力企業が赤字となった。特に火力発電の赤字は巨額に上った。そこで国家発展改革委は各地の電力価格を数回にわたり引き上げ電力不足の解消を狙った。従来電力不足の原因となったのは火力発電所の石炭の在庫不足だが、その積み増しが浸透した。その結果、政府は電力不足解消を謳うが、実際には経済の成長鈍化による需要の減退で火力発電所が電力供給を減らすため地域によっては停電も頻発している。
過去数年間、石炭はまさにブームで石炭長者も続々と誕生し、廃坑までも掘り返し、炭鉱事故も続発という状態であった。ところが、僅かの間に需給は一変し、今や供給過剰の状態となってしまった。
中国最大の石炭積み出し港である秦皇島には世界最大の貯炭場があり、一説には貯炭量は最大1千万トンとも言われているが、ここから石炭運搬船で中国南部、沿海部などに運ばれている。ところが、今年の夏場以降、まったく活気がなくなり巨大な在庫の山がそのままとなっている。過剰在庫が増える中、石炭相場はどんどん下がるが、問題は在庫が全く動かないことだ。石炭景気に沸いていた炭鉱は今や資金繰りに窮し経営を直撃している。石炭価格は発熱量にもよるが、優良炭で6月にトン当たり700元以上であったものが8月には160元とも言われている。石炭のみならず、嘗て好景気を謳歌していた運搬船の運賃もピーク時の半値という、同じことは産地から輸送するトラックも同じだ。頼りの工業用電力需要が回復しないこともあるが、ここまで急激に情勢が変化したのは海外からの輸入炭の急増だ。海外炭も値を下げており、中国国内炭の価格上の優位性は失われてしまった。中国は世界最大の石炭産出国で2008年までは輸入は殆どなかったが、2009年には1億3千万トンとなり最新の政府発表では11月までで2億6500万トンとなっている。(中国の石炭埋蔵量は統計の不透明な点もあり諸説あるが2012年、生産量は37億トンを超えているという説もある、実際には既存炭鉱は乱開発により従来通りの生産は期待できないとする説が多い。従来、豪州・インドネシア炭は日本向けのみであったので中国の輸入増は我が国の輸入にも大きな影響がある)炭鉱事故の続発による政府の介入とか色々な悪条件もあるので価格上の優位がある限り,輸入炭は増えるであろう。(本題ではないが、中国政府は沿海部に次々と巨大港を造っているが何れも貨物不足に悩んでいる。それらも輸入炭貯蔵によって潤うことも考えられる。)何れにしても今のところ在庫の解消は全く期待できないという。それにしても、広大な中国で情報の開示がないことは実に不便なことだ。
中国の特色ある社会主義市場経済の結果生まれた過剰設備、過剰在庫のあと始末を近隣諸国でというのも困ったことだ。
以上
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