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ローテク産業の衰退 Li &
Fung(利豊)は香港を代表する企業だ(注1)。正確に業態を表現することは難しいが、アメリカのWalmartとかTarget、英国のMarks
& Spencerなどに(日本ではセブン&アイに卸売り)繊維製品などの消費財を中心にしたsupply
chainの管理会社の如き機能を発揮し、米国消費市場でより安いものを世界中から集めWalmartの謳い文句every day
low
priceの実現に寄与してきた企業だ。過去30年に亘り繊維製品、履物、玩具、雑貨など中国の低賃金を梃子にアメリカの消費者にappealし、いわゆる珠江デルタモデルを築き上げた企業でもある。
そのLi &
Fungの株価(香港市場)が去年から大幅に下げに転じている。2010年ころまでは史上最高益もあってHK$20.-を超えていたが、昨年9月には12.20,今年1月11.94となっている。昨年9月の下げは唯でさえ貪欲に利益を追求するWalmartが直接中国などの工場にコンタクトし香港のsupply
chainを排除し彼らの利潤も吸い上げようとの作戦にでた為だ。もともと、Li & Fung
等は工場を持たず、Walmartの販売計画に応じて契約工場に生産を委託していたものだが、長年に亘り、工場、従業員を指導して安いが完璧な製品を造らせていた。ところが工場側もできれば米国の買い付け先と直接コンタクトし、より利益を生み出したいと考え、Walmartの希望とも一致するので上述のような動きになったものであろう。いずれにしても賃金上昇とか元々利幅の少ないローテク産業が最後のあがきをしているように見えるが、一つの時代を築いた委託加工貿易の衰退と珠江デルタ・長江デルタのローテク産業の衰退という側面を見逃してはならない。
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出店か閉店か 試行錯誤の海外小売業
上述のWalmartはCITIC(中国の開放政策の象徴的存在で1979年に設立された中国政府系コングロマリット。海外企業の中国進出を支援注2)と組み中国全土で350店以上の店舗展開を行ってきたが利益率は極めて低く、同社の分析では顧客はe-commerceに流れているとみている。従って今後の方向としてはe-commerce市場を狙いたいとしている。
セブン&アイは北京の食品スーパーを展開するグループ会社(イトーヨーカ堂40%、ヨークベニマル20%出資)王府井ヨーカ堂を清算、北京-成都などでコンビニ、四川省で総合スーパーの拡大を目指すとしている。コンビニの場合、日本勢はローソンにしても7-11にしても行け行けドンドンで既に上海などで飽和状態になっているが、7-11は北京でFC(フランチャイズ)加盟契約を開始すると報じられている。ローソンなどは既に他地域でFC契約を実行し苦杯をなめているがまだまだ試行錯誤が続くのかもしれない。FC加盟店の質にもよるが中国ではまだまだFCに対する認識は低い。コンビニ全体としては香港のDaily
Farmが華南に、台湾の統一が華東に展開しており既に飽和と認識されているが、7-11は華北の北京・天津などで出店を加速させたいとしている。今のところ日本の大手ではファミリーマートのみが出店抑制としている。
一方、三越伊勢丹ホールデイングスは天津で2号店を開店し、昨年の小売売上高は前年比14.3%増と2011年の17%には至らないがまだまだ伸びる余地はあるとしている。但し伊勢丹の瀋陽店は3月に閉鎖としている。2008年開店以来不振であったとのことだ。上記の天津の次は成都に14年開店予定とのこと。中国を成長市場と位置付けてはいたが、実際には上海以外はあまりうまくいっていないようにも見える。問題は続々と生まれるshopping
mallとの競合にあるとも言えるが、コネ社会の国なので開店の許可を政府からとっても設置場所なども斡旋され断りきれないケースもあるようだ。日本の百貨店は三越が北京で許可が取れず日本料理店としてスタートしたり、ヤオハンが開店早々展示商品の多くを万引きされて、その後、バッグなどにひもを付けるなどの工夫を強いられたが、コンビニと違って巨大店舗なので身動きも難しく更に試行錯誤が続くと思はれる。いずれにしても地場の店舗との競争も熾烈で利が乗るまでにかなりの時間がかかるものと思はれる。Louis
Vuittonなどの超高級品店も昨年後半から中央指導部の交代を控え、政府高官への贈り物の自粛などで売れ行きが減退していると説明している。英国のBurberryも同様のコメントを出しているが。中国市場重視には変わりはないとしている。
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消費拡大とはいうが
GDPの大半を鉄道などインフラ投資に頼らざるを得ない現状ではあとは消費の拡大が最重要項目だが多くの人は消費に力強さがないとみている。家電では2,012年度はエアコンで前年比15.4%減、冷蔵庫 12.1%減、洗濯機 7.1%減という数字が発表されているが家電量販店最大手の蘇寧電器は昨年度100店以上を閉鎖したという。(同じ最大手の国美電器は香港市場から撤退するが、家電業界自体の過剰生産などが引き金になっているという)同じような動きはスポーツ用品大手数社も全体の1割を超す1000店前後を閉鎖した。
一般論として、中国の場合、社会保険制度が整っていないので病気とか老後のことを考えて、まず貯蓄となるので消費拡大は無理とする説が多い。中国社会保険基金理事会の戴理事長は中国の年金積立規模の対GDP比は2%にしか達していない。ノルウエーは約83%、日本25%、米国15%となっているが中国はこの指標を軽視していたが今後科学的発展を実現するうえでこれが重要となろうと率直に認めている。
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消費拡大を喧伝する米系コンサルタント会社
欧米系投資ファンドとかコンサルタント(多くは中国系米人だが)は中国ファンドの売り込みの為もあって極めて楽観的に中国市場を宣伝している。PwC(プライスウオーターハウスクーパース)などは中国市場がアジア太平洋地域の軸になるとして、2012年の中国小売市場の成長率は10.9%、2016年には米国を抜き世界最大の小売市場になると予測。但し今後の経営環境には数多くの問題があり大規模な拡張計画の実行は困難が予想されるとしている。BOA/メリルリンチは中国経済に対する楽観度は過去最高で、投資家の67%は2013年も好調を維持し投資家の38%は新興国市場の株式を買い増すとしている。投資ファンドのベインキャピタルはユーロ安、海外旅行ブームで中国人消費者は世界最大の贅沢品消費群で60%の贅沢品は海外で購入、中國の市場規模は日本を超え世界2位と解説している。
投資ファンドの場合、中国の成長を喧伝するのは当然だが、問題は超富裕層、富裕層、中流、下流、貧困層と階層が多岐に亘っていることだ。超富裕層も多いようだが期待すべきはいわゆる富裕層だろう。彼らは中央・地方政府の官僚、国営企業の幹部などが中心だろうが、いくら人数が多くとも居住地も全国に分散しているので地域を限定した市場とはならない。Boston
Consultingは楽観的予測をだしているが、現在中国富裕層は1.2億人、年間購買力は5,900億ドル、2020年までに新・富裕層は2.8億人となり都市人口の35%、総人口の20%を占めるとしている。
問題は富裕層が数億人となると自国市場に比べ極めて大きいので彼らが全て購買意欲を持っているとみてしまうことと富裕層が一か所ではなく中国全体の中小都市に分散していることを無視している。
海外での中国人の購買が極めて大規模な点が喧伝されているが、国内での購入は税金(奢侈品には20%以上)もかかり、メンツを重んずる国なので親類縁者に幅広くお土産を買う必要があることなどを考慮する必要がある。いずれにしても富裕層の構成は現政権の既得権益集団が大半と見るのが順当で、彼らが目立つように派手に買い物を一般市場でするとは到底思えない。そこで期待されるのは80后と90后の一人っ子世代の消費だ。人口13億4千万の1/3とも言われるが、公表されている3億8000万人としても大消費層だ。但し彼らには結婚、マイホーム、出産、育児、親の介護と気の遠くなる難題が待っている。中国の消費拡大にはまだまだ難関がある。