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中国ビジネスの行方 香港からの視点
 

育児用粉ミルク 買い占めで揺れる香港

2013/4/1

湾仔

  1.  中国人による粉ミルク買い占め
     今年に入ってN.Y.Timesとか豪Daily Telegraphなどが「中国人による乳幼児用粉ミルクの買い占めによって現地での粉ミルク不足の事態を招いている」と報じた。これに続きオランダ、ドイツ、デンマーク、ニュージーランド、豪州などでも中国人が買い占めインターネット上の代理購入業者を通じて中国に輸出しているので小売店では販売制限を行っていると報じられた。中国本土での粉ミルクの買いあさりは2008年に中国産粉ミルクに有毒物質のメラミンを使用していたため多くの乳幼児が被害を受けたことによって国産品に対する不信が原因だ。一方輸入品の急激な需要増で価格も高騰し海外で求めようとする人が急増した。(中国ではネットショッピングが流行しつつあり、すでにユーザー数は2.1億人を超えているとの報道もある)

  2.  香港・マカオではパニックに
     香港・マカオでは粉ミルクを買いあさる本土からの運び屋が横行し、狭いマカオでは深刻な品不足となりマカオ政府は乳児に粉ミルクが行き渡るように「会員制」を導入した。政府は居住資格を持つ乳児の保護者にミルクの優先購入を保証する証明書を発行し、海外の生産者にも協力を要請した。
    香港では当初薬局に対する不満が出た。品不足により1缶280HKドルが400HKドルまで高騰した。薬局側は会員にならないと購入できないとか、ほかの商品とのパッケージ販売とか。更には中国本土人に売るため香港人には売らないといった噂まで出た。
     当初は香港で買って本土に運ぶ単なる運び屋であったが、観光visaで香港に入国、粉ミルク176缶を運んだため滞在条件違反として本土の女性二人が逮捕されるといった事件まで起こった。深セン等近隣地区の住人が毎日香港に入国できるvisaを持っているので(香港に職場を持っている人の他に多数の香港の学校に通う学生などもいる)彼らが新たに並行輸入業者?(実質は運び屋だが)となり何百人もが毎日、巨大な荷物をもって国境周辺の香港の地下鉄から国境で鉄道に乗り換え本土に粉ミルクを運んだ。
     香港政府にも取締りの要請があったが、自由主義経済でfree taxなのであまり強い規制もできず、2012年の粉ミルクの販売量は2006年の5.5倍で新生児の増加は1.3倍に過ぎないのですべて並行輸入活動による買い占めであると政府は発表し、暫定措置として本土への持ち込み制限を検討することとなった。また、地下鉄への持ち込み荷物は従来32キロまでであったものを23キロに制限した。

  3.  相変わらずどこ吹く風の中国政府
     中国政府は本件に関し何も意見を発表していないが、新華社などでは“中国人の海外での粉ミルク買い占めが他国に迷惑を及ぼしているとは考えられない。むしろ海外メーカーにとっては商機になるのではないか”とピントはずれの見解を報道している。一方、国家質検総局によると製造業の製品の92.3%は合格基準に達しているという。また、輸入食品については更に厳格に品質安全検査をするとしているが、肝心の国内産については全く触れていない。
     従来から化粧品などは海外ブランドが圧倒的に優勢であったが、最近は中国人も食品以外の口にするもの、例えば練り歯磨きなども海外ブランドが優勢となっている。粉ミルクの次に狙われる商品はいくらでもある。
     並行輸入業者は香港がtax free zoneであり、国内に持ち込んでも関税を支払はないのでその分利益となり、規制が発表されても、更に小分けして袋詰めにするとかあらゆる方法で国内持ち込みを実行している。香港側も税関職員を一気に増やすわけにも行かず当分はいたちごっことなろう。この件は香港の輸入品に対するtaxがないことと全世界から自由に輸入できることを利用したものだが1国2制の全く別の問題を提示している。

  4.  香港にとっての問題点
     粉ミルクについては3月1日から24時間香港に滞在している16歳以上の中国人は粉ミルク2缶(または1.8キロ)まで本土に持ち込み可能となった。このため香港-本土間の税関の職員を急遽200名増やすこととなり退役後の職員を臨時採用せざるを得なくなった。
     元々香港はfree portとして世界から認められていたがこれによって評価を落とす怖れが出てきた。香港と中国との基本法第115条では自由貿易の堅持を謳っており、香港側で制限を設けることは中国側にとって香港を制約するための便法に使われかねない。台湾などでも本土人の観光客の急増が色々な問題を起こしているので一日の入境数の制限を設けようとする議論もあるが、香港の場合はヒト・モノ・カネの自由な出入りが原則なので香港政府としても頭の痛い所だ。
     ミルク以外でも、香港で出産し、香港籍を取ろうとする本土からの妊産婦の流入が香港の病院のベッド数の不足を招いていたが、生まれた子供に香港籍を与えないとの政府の決定で一時は収まったかにみえたが、子供が学齢期に達するや香港の小学校にどっと押し寄せ小学校の不足が問題となりつつある。香港の不動産の本土人による買い占めと並んで今や問題は次にどの商品が狙われるかという切実な問題となりつつある。

  5.  その後の動き
     中国側はニュージーランド産粉ミルクから少量の有害物質が発見されたのでニュージーランド大使を呼んで調査を要求したとか、肝心の並行輸入については一切触れていない。
     実際に育児用ミルク(infant milk formula)は米国(Mead JohnsonのEnfamil)とか欧州のNestle、日本のMeiji(Australia産)等メーカーが限られ、より母乳に近いものとしているため必ずしも乳製品産出国がこれを造っているとは限らない。おそらく中国では粉ミルクなら何でもよいとのことになっているのだろう。また、香港の国境寄りの地下鉄の上水駅付近に大規模な粉ミルク倉庫がありそこで小分けしていたというが、詰め替えなどで果たして衛生管理はどうなるのか気にかかる。
    中国では目下大気汚染が問題となっている。同時に土地、地下水の汚染も話題となっている。次にミネラルウオーターでも狙われたら又、大騒動となろう。春節明けの1週間で一日4回以上国境を往復した香港人は300人も居り、一日に26回往復した人もいたという。
     並行輸入業者2万人の内60%が香港人で香港側税関では3月1日以降5日までに113人(うち香港人67人)をミルク持ち込み違反で逮捕したと報じられている。この事件では本土人のみならず香港人も加担していたわけだ。

以上


 

 

 

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更新日:2013/03/31