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中国ビジネスの行方 香港からの視点
 

北京の空 “環境問題は百年清河を待つ” なのか

2013/5/1

湾仔

  1.  空気の汚染  
     今年の春節が近くなると北京のスモッグが大騒ぎとなった。確かに日中でも薄暗い。1月は視界良好日が数日しかなかったこともあるが、市民も事の重大さに何とかしなくてはという気持ちが動いたのかも知れない。冬の空気の悪さと、春にかけての黄砂交じりの風は北京に住んだことのある人は皆経験している。毎朝窓をうっかり開けると昔懐かしい石炭を燃やした匂いがどっと入って来る。日本の市の概念と違って中国の市は日本の県以上に広い、特に北京、天津、上海、重慶は日本の江戸時代の幕府直轄領と同じで党の直轄領なので省並みだ。北京の場合、2011年に人口は2000万人を超え、面積は東京都の8倍、北京市の中に14の区と2つの県がある。政府関係者のアパート群などは天然ガスなどの供給があり暖房もクリーンエネルギーが多いが一歩外へ出ると昔ながらの石炭暖房、または大型の練炭が主力の暖房となる。更に工場群もあり火力発電は石炭炊きなので窓を開ければ石炭のにおいがするのは当然だ。更に自動車の氾濫による排気ガスも条件を悪くしている。ガソリンの品質向上は簡単には実現できそうにない。ガソリンの供給は巨大国営企業で品質向上のコストをだれが負担するかとなると市政府では巨大国営企業に太刀打ちできない。中国経済の発展が不均衡であることは誰でも理解できる。この場合全国で統一的基準を採用した場合、低めの基準にならざるを得ないことを知っている。北京市だけ先行しても他地域が追随しなければ改善はおぼつかない。更に、技術的にも時間がかかるとすれば問題解決は更に長引く。一方、中国北部は昔から降水量が少なく黄砂等砂漠化による土埃が年中空を覆っている。新聞報道、ネット上では騒がれているので庶民が大気汚染に対し文句を言うべきところだが、彼らは中国北部の気象条件に順応しているのか大きな騒ぎは起きていない。一般にこの地方の人は鼻毛が特に長い。PM2.5で海外では騒がれているが、北京でデモや暴動が起こったという話は出てこない。直轄市で人民大会の時期でもあったので普段以上に厳重に警戒しているとしても生活にかかわる問題なので少しは騒いでもと思うが、庶民は土地柄と考え我慢しているのだろうか。一方北京市政府は当初は米国大使館のPM2.5の発表数字は無視して、空気は汚染されていない等と説明していたが、ここにきて濃霧が深刻化しているのを受けて 1.自動車の排気ガス削減。政府機関などの公用車の30%の使用停止。 2.工場からの汚染物質の排出削減,冶金、建材、化学工業など103社の生産停止 3.工事現場から出る砂塵の削減、4.電気会社、集中暖房供給会社に石炭の硫黄分・窒素酸化物などを除去する施設を設置させる。としたが、周辺の工場などでは実際に市から通達は来ていないという。実現したのは警官が黒マスクを着用するようになったくらいで実際にどこまで実行できるのか、脱硫装置等金もかかるので簡単に設置できるのかなど疑問は多い。更に北京市は周辺都市と連携して大規模植林計画を打ち出しているが黄砂などの防砂林の完成は極めて先の話となる。夏に向かうと電力消費量は加速するが夏場も大気汚染は続くのであろう。

  2.  地下水汚染 
     ネットユーザーも「我々は生きた掃除機」「GDPと健康、どちらが大切か」などと騒いでいるが、ここにきて工場からの有害排泄水(パルプ工場、化学工場等)を地下に高圧ポンプで排水し地下水にまで影響が出ていることが次々と暴露された。地方政府としては、これら工場は税金も納めてくれるし雇用も確保してくれるので一切黙認している。空気のみならず土地まで汚染され、飲料水にも影響を及ぼしている。学者の間では色々なデータが発表されるが、土壌汚染状況データの公開を求めても環境保健部は国家機密を理由に公開を拒絶したと伝えられている。
     中央も地方も政府はGDP至上主義なので環境汚染は止まらず、急成長による環境への負荷も当然増大する。環境への負荷が経済成長を持続不可能とする水準に至っていると見るべきであろう。ところが経済にブレーキをかけるわけにも行かず、温家宝前首相は最後の全人代での演説でも「すべての問題の解決の鍵は依然経済成長にあり」と高らかに謳っている。

  3.  全国規模で広がる環境問題
     中国で環境汚染が急速に進んでいることは誰もが認めるところだ。高度成長と環境汚染を問題としている人は多いが実際には改革開放政策以前から問題はあったと考えるべきであろう。中国全体の河川は泥水のように汚れていたし、(日本の河川は急流が多いにしても青く透明度が高い)都市部で上下水道が完備している比率は極めて低い。庶民は生活ゴミを河川に捨てるのは当然と思っている。汚れた河川でも飲料水に使われ洗濯、水浴等に使われる川はまだ良いが、ほとんどの小川はゴミ溜めとなっている。目下重金属汚染が問題となっているが水のきれいなところは都市部の3%とも言われている。
     最近の事例では上海の黄浦江に3,323頭の豚の死骸が浮かんだとの報道が(South China Morning Post 3月12日)あった。更に毎日報道され1万6千頭から20,000頭以上となっている。上流では豚が死んだ場合はすべて河に流しているようだ。衛生観念と倫理観の不足と言っても昔から当たり前にやっていたことなのですぐには改善しようがない。上海市の水道に影響がないこと、死んだ豚の肉が市場に出回っていないことを政府は盛んに宣伝するが、川に死骸を捨てることに対する批判は全くない。おそらく死んだ豚を集める業者がその豚肉を食品加工業に販売し一部の業者が逮捕されたので、死んだ豚の処理に困り不法投棄したとでも結論付けるのであろう。(実際に死んだ豚の肉が缶詰めに入ったり、街角の安い店で焼き肉などに供されていたり、亜硝酸塩、色素,香料を混ぜてニセ牛肉として売られていることも多いようだ)
     中国最大の河は長江だが、世界最大のダムが三峡に出現した。ダムを見学に行くと分かるがすごいゴミが山積し、アオコなのだろうかすごい悪臭に驚く。ダムのために地すべりとか土砂崩れが頻発し、専門家からもダムの建設が開始された20年前には環境保護の考えはなく、強制的に移住させられた住民は長江の上流に移動させられ、そのため山頂の方に移住した住民が新たに山肌を開墾するなどによって山は荒れ土砂や水が流出してしまったと報告されている。最近ではダムの設計上も問題ありと専門家から指摘され、温家宝前首相も、問題を認識していた。
     かなり以前からだが中国の湖の遊覧船に乗ると西瓜などが乗客に提供される。船着き場に着くと、船員は乗客の食べ残しをそのまま湖に捨てる。鉄道でも駅で大量のゴミを線路わきにそのまま捨てる。要するにゴミの処理をどうするか考えていなかったとも言えよう。北京市では家庭ゴミを処理場に運ぶまでは制度化されたが、肝心の処理場がすぐ満杯となり、郊外はゴミの山となっているところが多い。
     これらが全て解決するにはまだまだ時間がかかる。要するに 百年清河を待つ なのだろうか。

以上


 

 

 

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更新日:2013/04/30