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中国ビジネスの行方 香港からの視点
多発する暴動
2013/7/1
湾仔
中国では年間一万件以上の暴動があると言われている。単なる抗議行動やデモも共産党政権下では禁止されているので、中身はいろいろある。一般的には土地の再開発など地方政府が財源稼ぎで農地を転用してしまう等、農民の地方政府への抗議運動が多い。最近では反日デモが大々的に報じられ(反日デモに際しても政府に対する不満なども同時にappealしている)その陰に隠れてしまった感があるが実際には抗議内容も少しずつ変わってきているような気がする。今年の正月早々、広東省の南方週末誌の記者の抗議行動があった。元々中国憲法では“言論の自由”
を明記してはいるがメディアは完全に共産党の支配下にあり各地における宣伝部の介入は当然とされてきた。ところが南方週末の場合は記事の内容が当局に改ざんされたことで記者、学生などが抗議行動を起こしたもので初めての言論の自由を巡る抗議として注目を浴びた。しかし、当局の介入が早く幹部の入れ替えなどで強制的に収束させられた。これらの抗議活動は香港が近いこともあり香港紙の記者が写真を撮り次々と紙面に発表した。一方中国内でも5月の昆明市における石油化学工場建設反対運動が克明に写真で記録され、警官隊の出動状況、デモの排除の模様等朝から夕方までの動きが全国に流されネット時代の技術の進歩によって情報の伝達が新たな局面を生むことを実感させられた。
新しい動きとして吉林省の家禽処理工場の火災に対する抗議、黒竜江省の食料備蓄倉庫の火災に対する抗議、Ghanaの中国人による金鉱での不法採掘による逮捕者の釈放要求を取り上げてみたい。
1. 家禽処理工場
6月3日従業員1,200人を擁する大鶏肉処理工場(製品を年間67,000トン製造、但し創業開始から4年もたっていない)で火災が発生、従業員の120人(4日時点での数字なので更に増える可能性がある)が死亡するという痛ましい事故があった。地方政府の報道官は詳細について一切発表しないが、関係者の話では工場の6つの入り口のうち5つはロックされていて火災の際の脱出口などは元々なかったという。一説では火災の3日前に政府の安全検査もあったという。警察の発表ではアンモニアガスが漏れて発火したとされているが、中国北部では同じ時期、石油精製工場、穀物倉庫の大火災があった。いわゆる家禽産業全体では鳥インフルエンザの影響で経営が困難になっていることは分かるが、出口をロックするのは工員が勝手に作業中に外に出て休養するのを防ぐことと、従業員による製品の持ち出しを防ぐためと思われる。嘗ては繊維工場でビルの窓に鉄の柵をつけ、工員が製品を窓から下のトラックに投げて盗むのを防いだこともあったが、火災で逃げ出せず死亡した場合の補償が多額となり一時ほど工場も厳重に工員の管理をしなくなった。
今回の事故では火災発生後、親類縁者が犠牲者を探しに駆け付けたが工場側は死体の処理にも時間がかかり数千人が地方政府に押しかけ工場の安全問題をappealした。工場の安全については従業員の自己責任のような形になっていたが度重なる種々の工場での安全面での問題もあり、中央政府としても乗り出さざるを得ない状況になってきた。
2.備蓄食糧庫の火災
5月31日に黒竜江省大慶市の食料備蓄倉庫から火災が発生した。原因は変圧器の電源のショートによるとされているがはっきりしない。80ヶ所の倉庫にある7万6千トンと、倉庫に収容できないで露天に積み上げてあった7万4千トンの合計15万トンが焼失したとされている。食料備蓄については予てから汚職の源泉とされてきた。政府は備蓄は十分あると宣伝し、備蓄の査察を計画するが実際に査察が現地で行われた形跡はない。管理は中国備蓄食料管理総公司という中央政府の巨大組織が管理しているが、査察はおそらく総公司の地方分局までで末端の倉庫そのものを調べたことはないようだ。一般には現物は横流しされていると思われるので実際の備蓄量は極めて少ないと思われている。更に保管には多大の経費が掛かるのでいずれにしても汚職を生む構造になっている。火災の犠牲者に対する追悼デモが行われたが、参加者の中にはむしろ備蓄の実態を調査すべしとの声があったようだ。火災発生の4日前に党の中央委員会が備蓄総公司に対し調査チームを派遣すると通知していたし、実際に火災の原因とされている変圧器は厳重に管理されていて火災が起きるようなことは考えられないなどとの意見もあるし、備蓄が無いことを隠すための放火説も有力だ。実際には食料備蓄が汚職の温床との庶民の声もこの問題の背景にあるようなので中央政府がどのように解決するのか注目される。
3.広西自治区でのデモ
広西自治区上林県で数百人規模のデモが政府庁舎を取り囲んだ。実際は中央政府に対する陳情のようなもので、すぐ抑え込まれてしまったが陳情の内容が従来型とは全く異なる。広西地区からガーナの鉱山開発に出稼ぎに行っている中国人は50,000人以上とも言われているが、今回の対象は124人が金鉱で逮捕され抑留されているので中国政府から中国のガーナ大使館にガーナ政府と直ちに釈放するよう交渉すべく命令して欲しいというもの。これも中央政府の管轄事項だが、政府としてもアフリカで中国人が次々と問題を起こしている矢先でもあり諸外国への体面もあるので早速手を打ったようだ。数日後に現地中国大使館がガーナ政府と交渉し一応解決したこととなっている。但し、解決法とか詳細はその後一切の報道が禁止されたので不明のままだ。
この背景は欧州系の新聞でも取り上げられていたが、香港紙South
China Morning PostとかフランスのAFPによればガーナは南アフリカに次ぐ金の産出国で(近辺の海岸はGold
Coastと呼ばれている)最近では2005年頃からgold
rushがはじまり最盛期には数千の小規模な金鉱がガーナ人の金鉱所有者と中国人の間で合弁形式で金の採掘を行っていたらしい。ガーナ内に中国鉱山開発組合もあるようで年間24トンもの金を産出していたこともあったようだ。勿論、これによって出稼ぎ中国人も金持ちとなり上林県の銀行では10億元相当の送金が2011年にはあったとも言はれている。ガーナ政府としては中国人が許可なしで採掘を行っており、中国式採掘方法は河川や湖に残渣を廃棄する方法なので、これを禁止し小規模な鉱山もすべてガーナ人のみ所有可能とした。一方、gold
rushとともに中国人がガーナのギャングなどに狙われる事件も多発して中国人も武装するなど険悪な情勢となっていたようだ。ガーナ政府としても違法な滞在、盗掘なので保護はできず、中国政府としては当初は石油資源開発のためガーナにかなりの資金をつぎ込んだが本国から連れてきた中国人が金の盗掘に一斉に参加したのでカネのなる木は欲しいが直接保護することもできずといった状態のようであったようだ。既に何回も違法採掘、不法滞在で多くの中国人が逮捕されていたようだが中国大使館も採掘現場が極めて広範にわたり実態が掴めていなかったと思われる。一方、違法採掘現場では中国人がガーナ人を犬のごとく使い食事も粗末なものしか与えないとガーナ人が怒りだし今回の逮捕に繋がったとも言われている。今回の事件は違法な金の採掘だが、ザンビアでは安全操業に問題ありとて中国人経営の鉱山を閉鎖とか、ガボンでは違法操業で中国系石油会社の資産没収とかアフリカ諸国で中国がいろいろ問題を起こしている。ガーナでもかなり前から中国人がガーナ中の森林を伐採してしまうとか騒がれていた。金とボーキサイトの採掘を当初中国の国営企業に免許を与えたようだが、彼らは現地事情も全く知らないので、広西から大量の中国人労働者を持ち込んだ迄は良いが、ガーナ政府がその後金鉱開発はすべてガーナ人にのみ許可することとなり、これら中国人労働者は各地に散らばり違法採掘に励んでいたのが実態らしい。上林県ではギャングに襲われたとか暴行を受けたとか被害者を装っているが実際には違法行為なので中国政府にとっても早く処理したいのだろう。AFPはこのビジネスはlucrative(儲かる)だがillegalだと結んでいる。それにしても中央政府が関与せざるを得ない案件が次々と出てきたが、習政権はどのように対処するのだろうか。
以上
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