中国ビジネスの行方 香港からの視点
中国で成功しつつある外資に嫌がらせ
2013/10/1
湾仔
従来から中国に進出の際は地方政府が懇切に進出の面倒を見てくれるが、事業が軌道に乗るといろいろな名目で税金の取り立てとか想定外の経費がかかることが多い。中国側も外資からは取り立て易いので外資が狙われることとなる。一方大手外資はネットでの情報発信もあり、その情報をネタに色々な嫌がらせに合うケースが続発している。政府もそれに加担しているようで見方によっては外資排斥の予兆もある。以下最近の例でみると
1.KFC(ケンタッキー・フライド・チキン)
米国のFast Food
ChainではKFCとマクドナルドが最初に中国に進出したがKFC(及び傘下のピザハット)が圧倒的に各地に出店し、一応の成功を収めたように見えた。ところが昨年頃から鶏に成長を促す薬剤を使用しているとか、朝食用の豆乳が工場製で、店頭で作ったものではないとか、最近では店頭で使用する水に大量の雑菌が混入しているとか(マックも同じ問題でやり玉に挙がっている)ネット上で攻撃されている。特に主要商品たる鶏肉が汚染されていると騒がれ売り上げを大幅に落としているようだ。世界全体でみるとKFCの中国shareは極めて大きいので経営上のインパクトもかなりのものとなろう。
2.狙われたユニクロ
日系の小売りが苦戦している。いままで局地的に出店していた影響もあるが今年に入ってからもヤマダ電機の南京からの撤退などいくつかの撤退も報じられている。一方ユニクロは小売店展開の中では最も成功している例だが、そのユニクロにもいろいろと嫌がらせの手が及んでいる。北京市工商局が7月に突然海外ブランドのジーンズ製品の品質が基準をクリアしていないことが明らかとなったと発表した。いかにも唐突だが、地方政府らしいやり方だ。更にその下の北京市東城区工商分局は女性用ベストと子供用ジャケットの羽毛の含有量が表示より不足しており不良商品だと発表した。ここだけ読むと北京市政府及びその傘下に付け届けが足りなかったような印象だが、人民日報などでは盛んにユニクロ叩きをやっている。曰く新入社員は軍隊式管理に拒絶反応を示し3年内の離職率は50%に上るなどと日本で最近話題のブラック企業を想定して書いているようにも見える。もっとも筆が走って新人研修で経営理念を暗記させられ太平洋戦争当時の日本陸軍の管理制度そのものだとし、軍隊式の管理制度は今でも多くの日本企業に残されているとしている。
3.反アップル・キャンペーン
中国国営テレビではこの種の巨大外資叩きをやっている。既にパソコンで米H.P、東芝、ソニー、韓国LGも標的となった。最近では独フォルクスワーゲンに続き反アップル・キャンペーンが続いている。米中のサイバー攻撃を巡る外交での争いに巻き込まれたともいえるが元々中国ではなかった消費者保護という概念を導入しようとしたTV局が政治に巻き込まれたとも思える。人民日報の日本語版などでは「米アップル、消費者権利侵害」「多国籍企業は何故傲慢になるのか」「法律順守と権利尊重の重視を」などと紙面を飾っている。
中国メデイアが外国企業叩きをすることを政府は放置している。彼らはすべて厳しい国の管理下にあるので、彼らが法律順守とか権利尊重などの本当の意味を知っているのか気になるところだ。何れ日本企業も狙われるだろう。
4.汚職も絡んだ英製薬大手(GSK)
前稿で粉ミルクの海外大手メーカーが価格つり上げの元凶として中国でやり玉に挙げられたが、その延長線上で海外大手製薬メーカーまで追求されている。因果関係を簡単に説明すると。粉ミルクメーカーは新生児に自社ブランドを売り込む一般的なやり方は、産科の医師に自社ブランドを勧めるように仕掛けるのが普通だと思う。其の為に医師を集め研修会とかの名目で接待をおこなう。一方製薬会社も同じような手法で接待を行う。問題は中国では医師の給与が極めて低いことと、患者がある薬を必要としているか否かに拘わらず病院や医師は医薬品を処方することで儲かる仕組みになっている。すべての公共病院は自ら資金調達などを行っており、其の為患者は入院などのために巨額の賄賂を必要としており、製薬会社も資金提供に重要な役割を担っている。
話をもとに戻すと英大手製薬会社GlaxoSmithKline(以下GSK)が問題とされたのは同社の中国現地法人が巨額の資金を提供してGSKの医薬品を病院で使うように働きかけたことにある。
この種の汚職は医薬品業界では常識的のようだ。中央政府の新人事がスタートして色々と改革を謳っているが、いずれも小規模の改革で痛みを伴うほどのものはない。要するに金融面での問題などを明らかにしてはいるが何れも前政権の責任であることさえ明白となればよいわけだ。一方改革を進めて経済成長も鈍ることが現政権にとって最もまずいことなので、改革は小出しにということとなる。成功した外資を狙い撃ちにするのも腐敗撲滅のスローガンに適合する。汚職摘発は政権のどのあたりまで打撃があるかは当初から計算済みであろう。従って病院・医師などを矢面に立たせることで解決と見ているのだろう。一方、本件での問題点は現地事業のトップをはじめ首脳陣に現地の中国人を起用してきたことにある。彼らは営業成績を挙げることを第一としており最も誘惑の手が及び易い。ここにも危険な罠がある。海外進出に当たり現地の人材起用を説く人が多いが、実際に仕事となるとある程度本社での監督体制も必要だ。
本件では既に4人の幹部と18人の従業員が逮捕されている。現地のマスコミも当局の支配下にあるので政府の意向通りの記事を書く。GSKは中国で人体実験をした等、書き立てているので更に問題は拡がると思う。
当初は単なる嫌がらせでその結果中国企業が外資に代わって優位な地位を得ればと考えていたかも知れないが、薬品の場合、中国企業が簡単に外資に代わることはあり得ないし、更に、汚職にまで発展すると当局もどこまで捜査すべきか判断に苦しんでいるのだろう。
5.香港での薬品買い占め
香港での買い占めは粉ミルクで有名だが、高級薬品の並行輸入が話題となっている。中国内では欧米医薬品に対する需要は限りなくあるが、free
portでもある香港での薬価と比べると極めて高額となる。
ひとつには輸入税もあるが中国内の病院は薬品を患者に処方することで病院の経費を賄っているのが実情で、其の為、薬局と病院の間の口銭とか病院経費に充当される手数料などが巨額となる。一般的なガンの薬の場合、香港で10万円のものが本土では100万円もするといったケースがあるようだ。最近の本土からの香港訪問団はミルク以外の食品を手土産として買ってゆくケースが多いという。さらに、繁華街の薬局では高額の医薬品が良く売れるので本土客は歓迎されている。歓迎される間は良いが、ミルク同様、買占めとなると薬品だけに問題はもっと深刻となろう。
いずれにしても外資叩きのうちは良いが、外資が中国から逃げ出すと経済成長に直接響くので政府の対応が見ものだ。
以上
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