| |
中国ビジネスの行方 香港からの視点
笛吹けど踊らない消費者
2013/11/1
湾仔
中国は巨大市場で消費は今後益々増える。とする論調が日本でも盛んだ。一般論として、米系金融機関が自らのfundの売り込みもあって盛んに宣伝するのに日本のマスコミが日本市場は縮小するので新たな市場をと相乗りしている感がある。一方中国ビジネスコンサルタントは日本企業の進出も少なくなっているので中国での国内販売の将来は前途洋々と企業に呼びかけている。現実には大手小売業もこれに乗せられているが現場では余りうまく行かず苦戦を強いられている。一方、今年から新政権がスタートした中国では従来の投資と輸出依存のGDP至上主義には限界があることを政府内部でも皆が認識したようだ。但し、成長を抑制しても成長率7%は絶対維持すべしと首相自ら言明している。雇用の確保に7%は最低限必要というがこれには別に根拠があるわけではない。更に、統計などをいじって最終的に7%以上とするのだろうが、すでに手の内がバレているので政府としても別のやり方を示さざるを得ない。
そこで政府は消費の喚起を謳い、すべての中国内メデイアは政府の支配下にあるので一斉に消費を謳いだした。ただし、消費について調査したわけでもないので単なる掛け声だが、“どうする13億人の魅力的市場”などと人民日報などは相変わらず無責任に中国の消費に期待を持たせている。彼らは政府の宣伝の片棒を担いでいるに過ぎない。今や世界の工場から世界一の消費市場を謳うが、実際には中国企業の小売業が苦戦しているし、8月発表の政府統計でも消費の力は弱い。今年3月の本稿で”中国の消費に期待したが〜“で揺れ動く小売業の動向を書いたが、政府主導の上からの消費の喚起のはざまで揺れ動く小売業の実態を見てみたい。
1.中国小売企業
1〜6月の中国小売企業の4割は赤字か減益となった。上海の証券研究所の発表では大手47社のうち20社が減益乃至は赤字とのことで特にデパート・スーパーの経営が苦しいようだ。問題は小売り間の安値競争で高額品が全く売れなくなっている。小売り側は問題を習政権の倹約令とかネット通販を挙げるが、確かに家電などはネット通販の影響が大きいが、全般的に急成長が減速し一般も消費を抑える傾向にあることは間違いない。日本企業のみならず中国企業も閉店に追い込まれている。中国の百貨店は日本と比べ従来から高級品市場というよりは大きな雑貨商のごとく余り特色がなかった。これは売り場を製造業者とかその代理商に賃貸する方式を採用してきたためで、ネットショッピングに押され利益が取れなくなり自営で差別化を図り消費者を引き付けようとの動きが盛んだ。但し売り場の管理水準が低く自営への道は険しい。
最近香港で話題となっているのが世界3位の英テスコが中国の華潤とスーパーの展開で合弁すると伝えられている。テスコにしてみれば不振の中国事業からの撤退の如きものだが、華潤は商務部傘下の大国営企業であり既に小売り部門でもかなり成果を上げている。政府と共に消費拡大作戦の一翼を担うということであろう。参考にすべきはテスコの撤退作戦で、将来性がないと見るや即座に撤退に踏み切るという方式は日本企業には真似ができない。現地では日本企業はいかなる場合も撤退しないので大歓迎との神話があるがスマートな撤退方法もそろそろ学ぶべきではなかろうか。進出はたやすく撤退は困難というのが一般の認識だが実際には出店も地獄、撤退も地獄というのが中国での小売業の実態と思う。
香港のアパレル最大手ジョルダーノも競合激化で採算が悪化、中国での店舗削減を継続すると言われている。同様に香港上場の紳士服大手、中國利郎も減益のためまず店舗数の削減を実行中とのこと。何れにせよ景気減速で直ぐ店舗数を減らすなど状況に合わせ果敢に動く点は日本企業も見習うべきだ。
2.倹約令の影響
9月に入り上海・深セン取引所に上場する2,489社の6月中間決算では純益が前年同期比11.2%の増益となったと報じられた。特に大手国有銀行の増益が目立つが、貸出金利も預金金利も政府が管理しているので銀行の増益は当たり前だが、製造業はむしろ苦戦している。
一方、倹約令だが、上場国有企業50社のうち6割以上が接待費を減少、2割以上減額した企業も多いと報じられている。倹約令の影響は香港にも及んでいる。9月4日に開幕した世界最大の香港Watch
& Clock Fairにおいても高級腕時計の販売減を危惧する声が出ていた。
香港は世界最大のスイスなど超高級時計の市場だが、スイスの高級腕時計ブランドの幹部の話では節約令によって本土では高級品から中級品に主力が移るとみている。香港では免税なので本土よりも価格は安くなるが、100万HKドル(約1,286万円)以上の高級品も一定量の販売は維持していたが今後は難しくなると見ている。一方で2万元(約33万円)ほどの中級品に注文が殺到しているという。この傾向は時計のみならず宝飾品などでも本土客は高級品からむしろ中級品に移っている。一方、これをチャンスと見るのは本土の時計メーカーで2千元(約3.3万円)から高級品まで販売増を予見している。これは中央政府の望むところで倹約令が国産奨励となれば思う壺であろう。一方、人民日報では2012年には中国人消費者は世界一の贅沢品消費群となり、世界の贅沢品の1/4を消費しているという。但し、節約令による顕著な例がルイヴィトン等超高級品の売り上げ急減で、本土内の販売店も閉店などに動いている。それにしてもこれらの高級品が政府高官、官僚などへの贈答品として使われていたことが明るみになったが、既に30年来の習慣のようで、貰う方も無数のbagなどをどうやって処分していたのか気になる。
3.海外消費
中国人旅行者の海外での消費が極めて多額であると評判になっているが、或る統計によれば中国人の海外における消費は12年に1020億ドル、前年の730億ドルから40%増加したとの話もある。この種統計はかなり推測に基づく部分もあるにしても、中国人の海外での消費には目を見張るものがある。高級品に対する輸入税などが極めて高いこともあるが、従来公的出張が主流であったが、私的旅行でも親類縁者に対する贈答は生活習慣の一部となって居り、国産品に対する不信感と相まって海外で贈答品を購入することが普通となったものであろう。更に、消費者自身のメンツもあり、より高級品を身に着けなければという意識もあって皆が高級品に走る。政府はここにきて自国の消費者を取り戻せとか海外消費の国内回帰をといった記事を盛んに書かせている。政府高官などに贈っていた高級品が国産品で賄えれば別だが、政府主導の消費喚起は簡単ではない。
4.Shopping mall
Shopping
mall の過剰が指摘されてからかなり時間が経っているが相変わらず地方政府はせっせと箱モノを作っている。上海に世界最大のshopping
mallが完成した。環球港(Global
Harbor)と呼ばれ48万平米という広大な面積にホテル、映画館、娯楽センター、グルメ、劇場、大型書店と何でもありだ。既に各地でGhost
shopping
centerが話題となっているが上海市の名誉にかけても維持して行くだろう。一方香港の李嘉誠傘下の長江実業とハチソンは広州市政府が香港の開発業者に依頼した地下鉄駅上部のモール(長江とハチソンが全株保有)を売却した。最近ハチソンも中国内での事業の売却を加速しているのでその関連とも思えるが、shopping
mallに見切りをつけていると考えられる。
5.富裕層対策
ヨットハーバーへの投資を政府系研究機関が呼びかけている。ヨット産業は不動産業と関連し、東部沿海の省がヨット産業関連の計画を次々と打ち出している。中国に港は多いが、中国ヨット産業の大きな障害はヨットハーバーの不足にある。ヨット不動産は将来更に投資価値のある投資先となるであろうと報告書で謳っている。
一方大型客船による観光も盛んに喧伝されているが,すでに沿海部では各省が勝手に大型船の船着き場を造成しており、大半は採算が取れなくなっていると言われている。
問題は富裕層がどの程度いるかにもよるが、中国は今後20年毎年8%の成長を維持し20年には一人当たり1万2千ドルの平均収入となるといった論調に最近は酔っている。実際には中央・地方政府機関の職員、国営企業職員(共産党員約8千万人の大半が関係している)等いわゆる中間層2.3億人が目下の消費を支えているわけだが彼らは余り派手に消費に走るわけにも行かない。更に中国特有の安値競争とか流行りのネットショッピングでも開店は簡単で誰でもできるが毎日1万店もの閉店もあるという過当競争社会の中で政府が奨励しても一般消費者が消費に向かうとは思えない。当分笛吹けど踊らずということか。
以上
|
|
|