中国ビジネスの行方 香港からの視点
不動産リスクは地方都市にも拡散
2013/12/1
湾仔
一般に沿海部大都市が不動産バブルのリスクが高いと言われていたが、いわゆる3・4級都市(地方都市)に不動産デベロッパーが盛んに投資を行っておりバブルのリスクが高まっている。これらの都市には十分な産業がないまま都市計画だけが先行して巨大なハコ物が出現し既に一部ではghost
townが続々と出現している。
1. 地方政府は中央政府の施策を受けて無謀な計画も
従来はGDP至上主義でGDPさえ前年対比増大すれば地方政府もpointを稼げたが、環境問題とか新たな命題が出て来て対応に苦慮していた。ところが中央が都市化政策を打ち出した為、一斉にそれに乗ろうとする動きが盛んだ。元々農村中心で農業主体の省が省内に100以上の新都市建設を進めるといった暴挙に近い政策が次々と打ち出されている。Developerや地方政府系投資会社は不動産が売れなくなれば破産同然で銀行の不良債権が増えるだけとなる。既にshopping
centerの過剰が指摘されているが更にオフィス物件などの商業施設の過剰も問題視されている。一方、政府主導もあるのだろうがdeveloperも住宅価格がまだまだ上昇中と盛んに宣伝する。不動産関連の指数を扱っている中国指数研究院によれば全国の主要100都市の住宅価格は15ヶ月連続で上昇とし、前月比で上昇した都市は10都市増えて71都市、前月比で下落した都市は29都市に上るとしている。更に上海、広州、深セン、北京でも依然上昇中としている。一部地方政府の住宅購入抑制の緩和策、更には一部都市での住宅供給不足、消費者の購買意欲のたかまりなどを追い風にdeveloperが開発に精を出している。香港のSouth
China Morning
Post紙によると上海の高級住宅価額と狭い香港の住宅価額差が急速に縮小しているという。香港の住宅developerの中にはまだ強気のものも居り、上海などの建築途中で放棄された物件を買っているものもいると言われている。従来、大都市は飽和状態だが、まだまだ地方都市に住宅建設は伸びてゆくという説明であったが、地方都市迄住宅建設が伸びてゆくと次はいかなる説明となるのか見ものだ。いずれにしてもバブルそのものでバブルは更に膨れてゆく。
2. 景気の先行きに強気の北京政府
全てのマスコミは共産党の指導に従っているので最近の人民日報などは極めて強気の記事を載せている。「中国危機説は的外れ」「中国経済は減速していない」など強気一色で“外国では世界経済における中国の地位を捻じ曲げようとするのか、中国経済が過去6年間西側経済をはるかに上回っただけでなく、その趨勢が今後も続くことが明らかなので中国の経済モデルは西側より優れている“との結論を導き出す記事もある。このほか国が地方の財政状況を調査したところ債務危機は発生しないとの結論となったとか中国経済に持続的減速はない、全体的に今後の流動性は潤沢などと誠に景気の良い見出しが紙面を飾っている。一般論としては過去の高度成長と世界2位の経済大国となったことを大いに宣伝しようとする意図は分かるがその他の解決不可能な重大問題は全て先送りされている。
3. 全員で中国経済の好調を謳う
政府とマスコミが一体となって経済の先行きに楽観論を唱える理由は新政権がある程度の減速止むなしとしていたところ、共産党一党独裁体制維持のためにはある程度の経済成長が必要との保守派の巻き返しがあったと思われる。依然として党内での熾烈な権力闘争は続いているわけでここ数ヶ月、外から見てもまことに見事に方針の転換が行われた。まずいわゆるエコノミスト(大半は中国人乃至は米系などの中国人)が政府の意向に沿って中国経済は順調に発展しているとの論評を行った。更に成長率も7%後半を予想。影の銀行問題も理財商品も制御可能な範囲内とのreportが続々と発表され9月には楽観論が大勢を占めるようになった。一方注目すべきは日本の証券会社のエコノミストにも中国系は多く、中国政府の意向に沿った宣伝をするものも多いが、大学・研究機関の日本人研究員も今回は楽観論を主張するものが目立った。彼らは中国に出張して色々調査しようにも政府系エコノミストまたは学者に頼らざるを得ないので、高度の情報と引き換えに中国政府の意図する話に乗らざるを得ないのだろう。ある著名な日本人エコノミストはghost
townが続々とできているとか、上海、北京などで新築物件が夜になっても電気もつかず空き家になっていると言うが、中国の場合、内装は自ら手を加えて初めて住めるようになるので暫くは空き家同然なのは当たり前で不動産バブルはあり得ないと説明していたが、実際に半年も一年もそのままの空き家は無数にある。
4. 地方政府の負債
地方政府の負債問題はかなり前から騒がれていたが、都市別に騒ぎが大きくなったのは昨年からだ。広東省で最も富裕な都市と言われた東莞(Dongguan)は玩具,製靴、家具、縫製、電子等農村からハイテク製造基地に変身し人口も出稼ぎ労働者によって800万に増大した。一方、cheap
laborを主体とする中国モデルの崩壊と共に産業をここに集めた台湾企業も夜逃げなどで工場を捨て台湾に逃げ帰った経営者も多く、今や市政府も影の銀行からの借金で運営している状況だ、一説では300〜500億元の負債があるとも言われている。市政府では無料バスサービスの廃止、教育費の有料化、その他公共サービスの見直しに着手。後は市役所職員の給料支払いをどうするかにまで事態は悪化しているとのことだ。その他の都市では石炭景気に沸いたオルドス市とか無錫市(この場合は無理に造船業とか太陽電池事業を立ち上げ、overcapacityのため資金繰りに破たんを来した)、天津市(上海・深センに対抗して巨大な開発区を作ったが企業誘致に成功していない、新空港、世界最大級のコンテナ港、クルーズ船用船着き場、ヨット用の船着き場、オフィス用の超高層ビル群などを次々造成)などが評判になったが最近は奥地の都市が話題になりつつある。
地方政府の債務問題ではブラジルが1989、1993、1999年に先鞭をつけており中国と同じような無理な開発計画によるものであったが、中国の場合、統計上の問題もあって明確に負債総額が表に現れにくい。中央政府はしばしば地方政府の負債はコントロールし得る範囲内と説明するが、地方政府は土地の払い下げによって得た収入は全部地方政府に入り最も手軽な収入の方法であった。ところが中央政府の2011年の不動産の価格抑制策によって従来地方都市の3割以上の収入を生んでいた土地の売却収入が見込めなくなり新たな収入源の確保に動いている。徴税が唯一の手段だが、これも取れるところからとるという方式だ。外資系は一斉にこの対象になったが、肝心の外資系も外に出てゆくとなると、これも期待できない。実際には一部地方政府の財政は破綻寸前と見られている。これら地方政府の財政は影の銀行によって支えられている面もある。10月12日のワシントンでのG20財務大臣・中央銀行総裁会議の共同声明では米国の財政問題と早期解決への要望が主眼となったが、中国での金融危機回避のためshadow
bankingに対する監視を強めるべく連携を呼びかけた。中国以外の財務相も気になっているのだろう。
中国では不動産ブームによって無数の不動産業者ができたが、不動産市場が未だ機能していないのですべて憶測で開発に走り出す。香港市場では上海市の商業不動産、高級住宅の値下げが加速していると言われだした。11月9日の香港紙South
China Morning Postによれば李嘉誠傘下のHutchison Whampoaのinterim
reportでは投資利益の43%は欧州からで香港は15%、中国本土は11%しかないので今後は欧州に投資を集中するとしている。具体的には香港で香港電力、小売大手のWatsonなどの株式の一部売却、中国本土ではpower
grid部品メーカーとか小規模企業の株の売却を目論んでいる。
更に不動産では上海のOriental Financial Centerビルなどのoffice tower、広州のshopping
centerなどが売却対象とのこと。いずれにしても本土不動産からの撤退も着々と進めているのであろうが、中国本土については北京政府と同様、強気のコメントをするエコノミストも強気を継続せざるを得ないのか本件については沈黙を守っている。そのほか香港市場ではかなり具体的値下げの噂も出だしたが火のない所に煙は立たぬとの喩えもあるので当分注目が必要だ。
以上
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