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中国ビジネスの行方 香港からの視点
 

先進国の永住権を狙う中国人

2014/4/1

湾仔

 中国人が欧米の永住権を取得しようとする動きは昔からあるが、カナダが中国からの投資移民申請があまりにも多いのでここ数年移民受付の停止期間を設定していたが、それでも移民希望が殺到するので移民制度の見直しに取り掛かるとの話が2月にでた。2月6日付けの香港紙South China Morning Postでは香港のカナダ総領事館には53,580の未処理の申請書があり、99%は本土籍の中国人のものだという。中国人も本土での申請は危険なので香港或いはロンドン、New Delhiなど国外での申請を行っているらしい。問題は同じ動きがほかの欧米諸国でも広がる可能性があることだ。
 New Zealand首相は中国勢が農場の買収を行っていることに対し、投資は製造業、観光業などに向けるべきで土地の取得はsensitiveな問題なので歓迎しないとしている。2012/12/01の本稿“先進国の移民歓迎政策と中国富裕層の不正蓄財処理が見事に合致”でも触れたが今回は悲鳴を上げたカナダ側の事情とその後の動きを追ってみたい。

#投資移民制度

 欧米諸国では従来から投資移民を奨励している。米国では100万ドル投資すれば英語力に関係なく永住権を取得できる。英国も100万英ポンド、その他の先進国でも似たような制度を設けている。これに目をつけていたのが中国マネーだ。実際には不正蓄財も多いのであろうが、目下のところ飛びつくのは中国人だ。香港のカナダ総領事館では申請のため駆け込む中国(本土)人の行列のため通常の事務処理が出来なくなっているようだ。香港人の場合大半は既に二重パスポートを持っているし、家族の一部が既に海外なのでこれから申請するのは本土からの人と考えてよかろう。申請で悲鳴を上げているのが移民受け入れ国の総領事館だ。カナダの場合1986年から投資移民受け入れを開始し既に13万人受け入れているが、申請後、不動産の購入、子供をカナダに留学させるなどかなりの時間がかかる。前述の未処理申請の他に数万件の申請が順番待ちのようだが、別の悲鳴がVancouverで上がっている。元々VancouverとTorontoは香港の97年の中国返還に伴って香港人が大挙して移民した。特にVancouverはHongcouverと呼ばれるほど香港人が押し寄せた。気候なども適していたのであろうがその後台湾からの移民も増え、現地のTVも広東語と北京語もあり条件が整ったところで本土からの移民が押し寄せた。空港近所のRichmondは元々緑豊かな住宅街であったが今や町から英語が消え中華一色になりつつある。VancouverとBritish Columbia州は中国人が最も憧れる土地だが大きな邸宅がマンションとなり木が伐採され(中国人は風水を信じるので、ある方角に木があると伐採してしまうとも言われている)かつての面影がなくなりつつある。カナダ政府としてはカナダは広いのでロッキー山脈の東とか別の土地で投資するよう呼びかけているが、彼らはどうしてもVancouver乃至はその周辺に住みたいらしい。既にこの周りは中華一色で(特に中華街として街の景観を汚してしまうケースが多い)不動産価格の高騰もあり政府も頭を抱えている。

#Vancouverが駄目ならSeattleに

 一般に中国の金持ちはカナダ・米国のビザを狙うが、中間層は東南アジア諸国から欧米・豪州・New Zealandへの移民を狙っている。一方仲介業者は最近ではカリブ海のケイマン、バージン諸島なども対象にしているようだ。これらのタックスヘイブン諸国は低税率の優遇措置で外国企業を引き付けてきたが、昨年からOECDの租税委員会が企業の課税逃れ防止策を検討し始めた(実際に米国大手企業が法人税率の低い国を経由した取引で節税を計っている)。この為、一般に企業もタクッスヘイブンを避けるようになりつつある。一方タックスヘイブン国側も何とか別の振興策を考えようと目を付けたのが中国の富裕層だ。富裕層は中央の官僚、地方政府の官僚、大国有企業幹部なので業者は色々な手でパスポートを売り込む。高官の子供の留学先の斡旋、不動産の斡旋、銀行口座の開設等手が込んでいる。一方、中国共産党内でも二重パスポートは当然問題視されている筈で共産党員約8500万の内800万人が二重パスポート所有とも言われている。(中国新聞)彼らは当然有事の際の用意だと思うが、裸官(家族を海外に住まわせ本人だけが中国内で働いている官僚=逆単身赴任の如きもの)も共産党内で問題にされつつあるのでかなりの数の官僚が国外脱出を図っている。二重パスポートを所持している人は良いがそれ以外のこれから他国のパスポートを求める人は引き続き香港などの総領事館に列をなすであろう。表題に書いたVancouverが駄目ならSeattleにという呼びかけもあろうがこれは仲介業者の宣伝で、パスポートと共に不動産の斡旋は中国人にとっても最重要事項でVancouverなどカナダに人気があるのは、かなり広範囲に中国系が不動産を抑えているという事情もある。

#次々と明るみに出る中国高官の蓄財

 中国共産党の歴代の最高幹部の子弟が米英の大学に留学とか(残念ながら日本への留学は少ないが、中国でも欧米崇拝、アジア蔑視と見るべきであろう)、温家宝一族の不正蓄財をNY Timesが記事にするなどかなり実態が明らかになってきたが(NY Timesはこの種報道を続けた為、北京駐在の記者のvisaが今も取れない)更にICIJ(International Consortium of Investigative Journalists)なども不正蓄財を報じている。香港紙によると一時期中国最大の電気製品販売網を持った国美電器の会長夫婦(会長は中国一の富豪とされたこともあったが汚職で14年の懲役となっている)英領バージン諸島に31もの会社を作りタックスヘイブン税制を利用して税金逃れを実行していたという。ICIJによると中国高官は35,000ものこの種法人を作り、親族などが利用していたとしている。この中には温家宝元首相の二人の子供なども入っている。更に嘗ての李鵬首相の娘
 李小林(王偏に林)もバージン諸島に二つの会社を持っているという。李鵬一族は中国の電力業界を牛耳っておりこの娘も国営の中国電力投資会社の会長をやっている。ICIJの報告書によるとケ小平から習近平に至るほとんどの共産党幹部の親戚などがこの種の会社を持っており資産運用に使っているとのことだ。Boston Consultingの推計では中国からの富の流出は4,500億ドルとも言われているが実際の数字はもっと多いのかもしれない。

#高級幹部の子弟は香港で職を

 高級幹部の子弟の一部は本土から直接,或いは米国留学を終えてから香港に入り職を得ている。親としては、本土から余り離れていない別世界の香港に子供を置いて、いざとなっても飛行機で何時でも親の元に戻れるということで子弟を香港に置きたがるのだろう。当初は中国の準大手銀行光大銀行(IPO準備中)の唐董事長が高官の子女をJPMorganに口利きをして入社させた人物(金融機関としてはIPOの幹事会社になることは利益面でも好ましい)とNY Timesに報じられ、JPMorganのスキャンダルと騒がれたが、その後、Goldman Sachs, Deutsche Bank, Citigroup, Morgan Stanley
 Credit Suisseなど大手が次々と中国高官子弟の香港での職の斡旋に巨額の資金が投入されたと報じられSEC(Securities and Exchange Commission)も調査に乗り出すこととなった。JP Morganはこのところスキャンダル続きだがいずれにしても欧米の大手金融会社があらゆる手を使って中国の上層部に食い込んでいたことは間違いない。
 それにしても米国は既に全貌をつかんでいるだろう。中国については上位10%の富裕層が社会全体の総資産の63.9%を占めているとも言われ、中国社会科学院とシンクタンクとの共同発表(国際人材青書)では2013年までに934.3万人の中国人が海外に移民(投資移民)したとも言われている。前政治局常務委員で公安部門のトップで石油閥、四川省の人脈などを抱える超大物、周永康の処遇で頭を悩ませている習近平など共産党トップはこの問題をどのように処分するのだろう。それにしてもカナダの投資移民制度が廃止となると影響は大きい。


以上


 

 

 

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更新日:2014/04/01