中国ビジネスの行方 香港からの視点
中国の爆食は続く--逃れられない食糧危機
2014/5/1
湾仔
中国の爆食というと食糧以外の鉄鉱石など鉱物資源が注目された。ところが過剰投資による設備の過剰で過剰生産となり鉱物資源などは極端に輸入が減少するなどの現象が生じている。中国政府としては資源投資の削減を打ちだし、国営石油大手は戦略の方針転換を余儀なくされている。最大手のCNPC(China
National Petroleum
Corporation、中国石油天然気集団公司)は12年の設備投資が3,525億元に対し13年からブレーキをかけ14年は7%減の2,965億元にするという。中国石化(シノペック)も同様だ。南スーダンでは巨額の含み損を抱え、イランでは大型油田プロジェクトが頓挫し、リビアでも同じ目に合っている。従来から公害の元凶とされていた低品質ガソリンで利益を上げていた石油企業が果たして高品質ガソリンに転化できるのか見ものだ。一方、豪州とかブラジルの場合は極端な原料の大量買い付けから極端な買い付け減少という波をもろに被っている。鉄鉱石の輸出に占める中国のシェアは2000年8.9%であったものが2005/6年には23%〜29%となり2009/2011年にはほぼ半分となった。ところが中国鉄鋼業の生産調整が絡み鉄鉱石の輸入量も急減している。一方食糧における中国の動きは全く逆で大豆の輸出における中国の世界シェアは2000年15.4%、2005/6年40%、2010/2011
64.6/67.1%と急増している。この結果世界の食糧価格は高止まりして世界の農業関連投資が増大という傾向が続いている。危険なことに何時食糧価格が急騰してもおかしくない状態にあるのだが、豪州とかブラジル等資源国は中国の影響を直接受けるので均衡の取れた経済発展の阻害要因にもなっている。
一方、昨年末に中国は食糧安保戦略を転換した。二つの大きな政策転換があるが、一つはコメと小麦(主食用穀物)はあくまで自給をベースとする。飼料用穀物(トウモロコシ)は自給が望ましいが輸入もあり得る。もう一つは主食以外の穀物(油糧種子)は輸入で賄うというもので輸入食糧を食糧安保戦略の柱として位置付けた。
実際に輸入食糧は急増しており輸入なくして食糧の安定確保は困難との認識を打ち出さざるを得なくなってきたためだ。共産党政権は永い間、食糧は自給自足可能で他国に迷惑をかけないことを宣伝してきたが、これも行き詰まってしまった。従来から過去の政策の否定はせず、現状追認と言う形式を取るが今回も現状追認を行った。今回はこの背景を追ってみよう。
#過去10年連続増産(豊作)を謳ってきたが
小麦、コメ、大豆、トウモロコシを中心に1980年代は2億トン、90年代は3億トン、2001~2004は少し勢いが落ちたが、その後も増産を続け、4億トンから5億トンと大増産が続いた。この他に豆類なども入れると3〜40年前に自給率95%を目標としていたが、ほぼ目標は達成されたように見える。ところが増産以上に輸入が増加し、(国内生産の年間伸び率3.6%に対し輸入量は年間平均伸び率14.1%)今までの理屈が通らなくなってしまった。増産を阻害する要因は後述するが、増産自体は過剰な肥料の投入(公害問題を惹起)、度重なる人工降雨などによる巨額の資金投入に財政面での負担能力が限界に達していることなど政策の変更以外に手段がないこともある。さらに、自給率の低下以上に需要の増加についてゆけないと言う事情もある。
#自給率の下落
中国統計年鑑の数字が正しいものとすれば、政府も正式に自給率の下落を認めていることになる。生産量/生産量+輸入量でみると03年99.9%、04年93.9%、10年88.6%、11年89.3%、12年87.7%と95%を割っている。国内生産が需要に追いつかないのが原因だが食肉の消費の増大が最大の原因だ。一般に日本人から見ても中国人の食事量は大量だが、1990年と2010年の都市部の年間1人あたりの消費量を見てみると
|
|
(kg/人) |
|
1990年 |
2010年 |
食糧(穀物) |
130.7 |
81.5 |
食肉 |
25.2 |
34.7 |
植物油 |
6.4 |
8.8 |
水産物 |
7.7 |
15.2 |
卵 |
7.3 |
10.0 |
ミルク |
4.6 |
14.0 |
野菜 |
138.7 |
116.1 |
都会での数字なので農村部はこれから肉食が増えると思われるが、肉類(大半は豚肉)が増えて野菜の消費が減っているのが気になる。肉類の過剰摂取は問題だとする意識はなく今のところ肉類はできるだけとろうとの考えであろう。政府も旺盛な食肉需要に対し、国内生産を奨励してきた。このため単位面積当たり過剰に羊などを飼育したため北部では砂漠化が更に進行した。一方飼料としては油糧植物の搾りカスが蛋白源として有効だが、大豆などは輸入に依存するため、これの調達にも問題が起こる。いずれにしても畜産の生産拡大に飼料が追い付いてゆかない。
#都市化の進行による需要増
政府の主導によって都市化が進められており、その弊害も出ているが95年から2012年までに都市人口は3.6億人増加、農村人口は2.2億人減少した。都市労働者となると所得も得られるので食肉の消費も農村時代より飛躍的に増える。肉以外にも乳製品、甘味料の消費も増える。FAO(Food
and Agriculture Organization of the United
Nations、国際連合食糧農業機関)の資料で見ると穀類は世界的にも大量に消費している、甘味料では日本の1/4、乳製品では1/2以下となっているが何れ大量に摂取することになるかも知れない。都市化の弊害は色々な形で表れているが、都市周辺の農地が住宅として浸食され、中小都市に行った農民はそこの生活になじめず大都市に戻ったり、再び農村に戻ったりと不安定な状態が続いている。
#国産食糧増産の限界
*耕地の新規開拓は限界に:
森林伐採、家畜の過剰飼育による土地の砂漠化、過剰開拓による湖の消滅などが各地で問題となって居り、これ以上の開墾は不可能。
*食品安全問題が提起され量より質への転換が叫ばれている
政府は零細養豚、畜産、酪農家を強制排除させている、これはメラミン混入牛乳などの問題も多発したので大手に生産を絞り、監督を可能にするためのものだが、結果は2013年以降、乳製品価格が値上がりを続けている。一方零細養豚家を排除し、国営企業などの超大型養豚業が進出したため、豚肉価格は下落し、消費者物価指数も低くなるので政府は更に零細畜産農家の排除を行っている。
*環境問題
今までの増産は多収穫品種の採用と環境負荷の高い化学肥料の過剰投入によるものだが、FAO調査によると過去10年の中国の窒素、リン肥料の使用量は1ヘクタール当たり301kgから413kgと37.2%急増している。世界的に見ても中国、ブラジルが突出しており日本、米国などは100kg以下となっている。
中国政府発表の全国汚染源調査によれば汚染源の半分は農業が原因としている
*輸入依存による政治的リスク
主食のコメと小麦の世界での貿易量は極めて小さく、中国の巨大な需要を賄うことは困難(中国のコメ生産量1.38億トンに対し世界のコメ輸出量は3,626万トン 中国の小麦生産量 1.18億トンに対し世界の輸出量1.48億トン)だが、政府の発表と裏腹に中国のコメ、小麦の輸入量は大幅に増えている。2013年の場合、春の多雨で冬小麦の収穫が減少したこともあるが、耕地面積は横ばいで収穫量が限界にある。コメも生産が伸びずに需要が増大しているため不足分を外国産に頼らざるを得ない。
*飼料穀物の輸入増
世界の豚肉消費量の半分は中国だが、蛋白系飼料の大豆かすは既に輸入に依存している。エネルギー飼料はトウモロコシで従来は中国東北で産出していたが供給も限界で輸入に頼らざるを得ない。但しトウモロコシの最大生産国は米国で、ブラジル・アルゼンチンなどがトウモロコシの生産増に向かうとは思えない。
#食糧の備蓄
色々な機会に中国の食糧の備蓄の不透明さが指摘されている。政府は常に十分な備蓄があると宣伝するが、数字で発表されたことはない。備蓄には巨額のカネがかかるが何年かに一度、各地の備蓄調査を行うとの発表があるが結果のレポートはない。備蓄量は国家機密とも思えないが、国内の穀物配給・配送は国営企業が握っているのでその時々の穀物価額によって操作しているとしか思えない。一方備蓄量は海外の穀物価格に直接影響するので、この不透明さが穀物価格の上昇に直接結びついている。逆に言えば、穀物価格は中国の穀物需給に直接結びついている訳で将来とも不安定な状態が続くと見るべきであろう。
#中国を襲う難題
昨年米国で中国人科学者2名が研究所からトウモロコシ、コメの種子を盗み出したとして裁判沙汰になっている。一方、中国企業の海外農業投資が活発化している。米最大の養豚業スミスフィールドを買収したまでは良いが、中国の軍組織の企業の一部がウクライナの農業生産大手KSGアグロと、第一弾として10万ヘクタールの農地を50年間にわたり貸付をおこない、更に最終的に300万ヘクタール迄拡大を目指すとしている。ロシアがクリミア半島で問題を起こしたタイミングの悪い時期にどのように展開するのだろうか。
昨年末から
“食糧安全の保障”として穀物の基本的な自給、食糧の絶対的安全というスローガンが打ち出されている。中国当局がこの点を盛んに強調するのは食糧危機が迫っている前触れと見るべきかもしれない。
以上
|