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中国ビジネスの行方 香港からの視点
青島港Metal Scandal
2014/9/1
湾仔
若干旧聞になるが、6月中旬香港紙South
China Morning
Postは中国本土で積極的に取引を展開している香港上海銀行(以下HSBC)が国際商品に対するファイナンスについて内部調査を実施中との発表があったことを報じた。これは青島港における二重担保問題の発生を受けて行ったもので、HSBCよりも中国内のmetal
financing businessで先行していたCITI Bank, Standard Chartered
Bankなども内部調査中との発表があった。metal financing
businessは銅、アルミ、金等金属を担保にした融資だが、相場商品で担保価値も変動が激しい。従って国際商品相場に強い欧米銀行の一部しか参加していない。邦銀などは一切手を付けていないと見られている。今回の事件は銅やアルミを青島港に輸入した中国の輸入業者が書類の偽造などでひとつの担保物件に対し幾つかの銀行から融資を受けたものと見られている。
一説によると銀行が設定したはずの担保物件が行方不明で融資の回収すら出来ない状態と言われている。中国でこのような取引が盛んなのは国内の金融は国営大銀行が国営企業にしか融資しないと言う不規則な金融制度にある。そこで海外から違法な投資マネーの持ち込みに利用されているからとも言えよう。輸入業者は海外から輸入した銅などを担保に低利で銀行から融資を受け、その資金を高い利回りの金融商品で運用して利鞘を稼ぐ方法でもある。海外からのマネーの流出・流入について当局は厳重に管理しているのでこの種の違法な資金取引は益々盛んになる。実に巧妙な手段で香港企業のアイデアかと思っていたらCITIC(中国中信集団、事業分野は全ての産業を網羅し、総合金融グループでもある)が噛んでいるらしい。同社は中国政府系の中国最大のコングロマリットで(改革開放政策と同時に香港進出)同社傘下の中信資源が今回の事件を受け、6月に香港取引所に青島港に保管されている同社のアルミ、銅などの同社への影響を正確に見積もることは不可能で当局の調査の結果も不明と報告した。他の欧米銀行と共に同社もmetal
financeに加わっていたわけだ。
但し問題はこれらの銀行が metal
financeを止めると銅など相場変動の激しい国際商品なので市況に大影響を与え、また港湾管理会社等公営企業がグルになって書類のねつ造を行っていたとすれば、他の港湾においても同種の事件が疑われる。その後本件に対する報道は出ていないが、中国のコングロマリットたるCITICまで噛んでいるとなると本当は根が深いと考えられる。本件による直接の影響は商品相場に現れるが個々の商品の最近の動きを見てみよう。
#銅
二重担保の話が出るや急落した。銅の場合多額の資金調達が必要でこの面でも市場は警戒している。被害が広範囲に及べば銀行の不良債権問題となるし、担保物件を処分すれば相場の急落に直結する。ロンドン金属取引所(LME)で銅地金は6月にトン6600ドルまで下げたが青島港以外の保税倉庫まで当局は捜査しないようだとの噂で7月初めには7100ドルまで回復した。いずれにせよ短期金利が上昇し銅の輸入を実需だけに絞るとする政府発表で急落したり、不安定な中国の金融動向に相場も揺さぶられている。中国だけで世界の44%の銅を消費しているとされ、それを多数の輸入業者が扱っているが大半は資金力もない小規模のものもあるようだ。彼らは相場を見ながら換金してより利潤の多い金融取引に向かう。最近では製造業購買担当者景気指数(PMI)が少し上向いたので、それを材料に相場上昇の楽観論が勢いづいている、更に世界的な金融緩和もあり投資マネーが国際商品に向かっている。7月初旬には7200ドルまで回復している。
#金
金を担保とした不正取引として152億ドル相当のmetal
financeの摘発があったと報じられたが、その後どのような結果になったかの報道はない。恐らく同種の取引がかなり大幅に行われているためと推測されている。元々不動産バブル防止のため銀行の企業への貸付総量規制がある。この抜け道の一つとして「貿易に関する与信は総量規制の範囲外」即ち輸出・入に絡んだ資本取引とすれば輸入業者もカネを借りられる。そこで大豆などの食糧とか、鉄鉱石、銅などの金属の輸入に信用状を銀行に開いてもらい、現物を輸入してそれを担保に銀行からカネを借りると言ったやり方だ。その元手で借金の返済とか更に理財商品として利ザヤを稼ぐ方法だ。特に金、銅などは体積当たりの価値も高く保管場所も取らないので対象とされているが保税倉庫にある商品が既に担保として提供されているにも拘わらず再度担保として提供されていたのが青島港での二重担保事件だ。
この事件とは係わりなく金の輸入が増加しているのが中国だ。7年連続世界最大の金の現物市場となり昨年は1万1600トン輸入したとされている。実際の需要予測では2014年1,170トン程度と見られているが国内の金先物取引は4万トン以上で、銀行の金取引量は4,501トンとの民間経済団体の報告もある。実需に加へ投機資金の動きもありNY市場金先物取引価格は5月には1オンス1,250ドルまで下落したが、6月上旬から上昇し、1,320ドルと6%程度上昇している。
#その他の国際商品
食料がアメリカの大豊作を反映して下降線を辿っているが食糧以外はイラク情勢を背景にエネルギー関係も上昇基調にある。アルミも7月にはトン1,930ドルと直近の安値から13%程度高い。但し明るい材料ばかりではない。銅で44%、鉄鉱石で66%と言われる中国の需要が鉄鉱石及びそれを運ぶバラ積船の運賃に影を落としている。中国の鉄鉱石在庫は1憶トン以上と言われ誰もが過剰在庫を意識している。6月半ばにはトン90ドルを割り込んだが7月には1割近い値上がりとなった。海外の資源会社が鉱山開発を進めた結果、販売価格を引き下げた。そこで中国の輸入業者が次々と輸入に走っている為だ。7月の鉄鉱石輸入量は8,252万トンで前年同月比12.8%増、17ヶ月連続増加し、過去3番目の高水準となっている。余りの輸入業者の暴走に不安を感じたのか8月にはトン90ドル台まで下がった。それでも政府が景気対策を必ず打ち出すと信じているのか。これを担保にした金融取引は盛んに行われているようだ。いずれにしても金融市場が全く開放されていないのでこの種の投機は続くであろう。だが、海運業界は冷静に事態を見ているのかバラ積船の運賃は低迷している。
#香港の宝飾品販売最大手、周大福の業績も大揺れ
余談だが、金相場の変動に宝飾販売店も揺れている。インド人と共に中国人が金選好国民であることは知られているが、インフレとか有事の際のことも考えて金を身に着ける習慣があるのだろう。香港の宝飾品販売最大手 周大福の2014年3月期決算では売上が前年比34.8%増、純利益32.1%増で中国本土が全体の54.5%を占め、香港、マカオなども好調であった。ところが今年の4~6月は32%減(本土は24%減、香港・マカオなどは43%減)となった。相場が更に下がると見たのかまたは中国政府の倹約令とかも影響していると思う。何より汚職退治を政府も強行しているが、これの影響は大きいであろう。今やすべての役人も明日は我が身と身構えているようだが、小さな宝飾用の金の用途として役人への付け届けは想像を絶する量だと報じられている。一方周大福は本土のバブルの終焉を予知したのか、本土客の(香港への)伸びの鈍化とか極端な本土客への依存から脱却を図るためか米国の高級ダイヤモンドブランドのハーツ・オン・ファイアを1億5千万米ドルで買収したと発表した。
鉄鉱石などの輸入商より正確に市場を見ているのかもしれない。
#金融業対投資会社の争い
Goldman Sachs等巨大金融投資会社が米金融当局にファンドの不正取引などで訴追された。その後、欧州系金融機関がmoney
launderingなどで訴追されBNP
Paribas等巨額の罰金を払ったが更に英金融当局も金融機関の不正退治に乗り出した。金融業とデリバテイブ取引の分離なども課題となりつつある。一方中国では中国企業の絡んだ金融の不正取引も表に出始めつつあり、しばらくはこの動きから目を離せない。尚metal
financeの不正融資問題についてはHSBCなど銀行業を中心に問題が提起されたが、国際的商業紛争でも中国外の裁判所の判決が中国本土に及ぶとは考えられないので中国の裁判所に資産凍結をさせることは不可能であろう。さらに、青島港の副税関長の変死とか報道されたがまだ全ては闇の中だ。
以上
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