中国ビジネスの行方 香港からの視点
マカオを取り巻くカネの流れ
2014/10/1
湾仔
日本でもカジノ解禁とかカジノを含むリゾート開発が議論されているが、2008年にはマカオのカジノ収入が米国ラスベガスを抜いて世界最大となり、更にシンガポールでもカジノが始まりアジア太平洋地域ではマカオ、シンガポール、豪州、韓国、マレーシア、フィリッピン、ニュージーランドなどを含めると米国以上にカジノ収入が増えているようにも見える。背景にはこの地域の富裕層の台頭が第一に挙げられるが、実際には中国本土の金持ちがmoney
launderingの対象として動いていることも見逃せない。ところが大成長を続けたマカオのカジノ収入が今年の5月頃から伸びが鈍化し始めた。この背景を追ってみる。
#5月はカジノ収入一桁成長に減速
マカオ政府の発表では5月のカジノ収入は前年同月比9.3%増で2月から2桁成長していたものが1桁台となった。更に6月は3.7%減となり、Bank
of
Americaなど金融機関は中国富裕層目当てのVIP客市場は本土の経済次第でもあるが今年度は大きく減少が予想されるとしている。更に香港株式市場ではカジノ株が軟調となっている。マカオの代表的なカジノ運営会社であるSands
China*は今年前半35.7%と大増収であったが、下半期は大幅な収入減が予想され、今や逆風下にさらされていると8月15日付けのSouth
China Morning
Postは報じている。その理由として本土の反汚職キャンペーンによる高級カジノルームの衰退とか10月からカジノルームが全面禁煙となるためその影響が出るなどと説明している。一方、マカオの第2四半期のGDP実質成長率は8.1%との発表があった。従来の2桁成長から見ると1桁台への減速だが、マカオ自体カジノから更に大型リゾート開発に力を入れだした影響もあり、先行投資の時期とも見られている。米MGM傘下のマカオMGM,
Chinaは今後3年間毎年1億ドルを施設の更新に投資するとしている。実際に改装などが進んでいるようだ。
*注 マカオのカジノ運営会社は6社(SJM,ギャラクシー、サンズ中国、MGM、ウイン、メルコ)と言われているが米ラスベガスサンズの子会社、サンズ中国が前年同期比約2倍の大増益、米ウイン・リゾーツの子会社ウイン・マカオ、ギャラクシーなどは好調であったが、米MGMなどは5.8%の減益となり必ずしも各社が順調に成長しているわけではない。
#カジノ以外でも稼ぐ
カジノ施設の他、ホテル、shopping mall、レストランと今やマカオは建設ラッシュだ。マカオ政府もmoney
laundering防止のためマカオ入境時に所持現金の申告を求める制度の導入を検討中と伝えられたが本土の銀行も6月末から引き締めを厳しくしている。このためVIP客よりも一般客の獲得が当面の作戦のようだ。一方マカオは従来第三国に向かう通過旅客として本土の旅券保持者に7日間の滞在許可を与えていたが、実際に第3国に向かう人は少ないため7月からこれを5日間に短縮した。実際に7日間も滞在する人はいないのでその影響は少ないと思われる。
#マカオの大型リゾート開発は香港のホテル業界に打撃
カジノでは大成功を収めているマカオだが、更にホテル・リゾートなど多角的展開を図りつつある。今まで香港に泊まりマカオに日帰りで通っていた旅行客が2012/13年には平均滞在日数が1日から2日とマカオでの滞在時間が増えつつある。更に中国本土客も3泊4日とか4泊5日とかホテル宿泊がメインとなりつつある。マカオには香港にない歴史的建造物もあり観光資源も豊富なので香港のホテル業界も危機感を強めている。香港の財閥、ゴードン・ウー氏が10年程前から喧伝していた香港・珠海・マカオを結ぶ大橋は環境保護の観点から橋の下の海流・海底調査が行われており完成は1、2年先にずれ込むと見られている。完成しても香港からの日帰り客の利便性が増すだけで香港での滞在日数の増加には繋がらない。旅行客は更にマカオに流れるのではと橋の開通に懐疑的な見方が出ている。
#広東省もマカオに注目
香港と広東省との経済の一体化とか広東省政府も呼びかけに懸命だが、体制が全く異なるので中国の得意な建物だけが先行して続々とできている。一方マカオとの一体化を目指して広東省珠海市横琴新区が6月末から税関の特別管理区として封鎖管理が始まった。人、物の移動がかなり自由になるはずだが、まずデベロッパーがこれに飛びついた。横琴にまず大型テーマパークをということらしいが、マカオ並みにカジノの開設を目指しているのかもしれない。マカオの弱みは人手不足でカジノの大手各社も人材引き留めに知恵を絞っているが最終的には色々な方法で本土の人を従業員にするという方向では珠海側の思惑と一致しているらしいと報じられている。
#money laundering の実態
昨年暮れにマカオで極めて精巧なニセ香港ドル(1000香港ドル札)が発見された。中国本土では銀行や両替所でも人民元の偽札が出回っている(交換には応じない)ことは周知の事実だが香港ドルの偽札は今まで余り聞いたことがない。香港ドルの発券銀行はHSBC、
Standard Chartered
Bank、中国銀行だが、今回の偽札は大半が中国銀行のものだがHSBCの偽札もあったということで騒ぎが大きくなった。この騒ぎと共にmoney
launderingの実態も少し明るみに出てきた。カジノを取り巻くカネの流れの中で色々な問題が発生していることは想像に難くないが、根本的な問題は人民元の国際化を謳い人民元取引を推奨しながら為替の自由化、資本移動の自由化がされていないことにもよる。人民元建て海外送金業務を人民銀行の許可を得て中国の主要銀行は試験的に行ってきたが政府は資本移動を禁じているので政府の規制を掻い潜る手段となり多額の資金が国外に移動したことが判明したと報じられた。これにより中国銀行、中国工商銀行などの大手銀行は海外送金業務を一時停止した。人民銀行はこの制度によって銀行の顧客のmoney
launderingの手助けをしたのではないかと中国銀行などを調査していると言われている。従来から中国銀行は海外送金サービスを行っており、上述の制度を利用して結果的に顧客のmoney
launderingの手助けをしたと見られている。
#米規制当局と巨大銀行の争い
マカオとは直接関係ない話だが、Standard Chartered 銀行などは米国の規制当局からmoney
launderingを行ったとして巨額の罰金を課せられたが、ドイツ銀行など欧州系銀行もそれぞれ摘発を受けている。このあおりで中国銀行、China
CITIC
Bank(中信銀行)他投資金融機関も槍玉に挙がってきた。ここでもCITICの名が出てきたが中国政府の息のかかった一種の国策会社だが人民銀行広州支店の許可を得て海外送金をしているわけで外部から見ても何とも不可思議な話だ。
中国の場合全貌の解明は期待できないが、米金融規制局が絡んでいるので何れ全貌は明らかになるであろう。問題はJPMorganのように中国政府高官、国営企業幹部などの子弟を香港の支店に雇い入れ種々の便宜を図っていたと見られていたが、雇った子弟の親の海外送金にまで手を出していたことで、今年の夏になって次々と報じられた。但しこれは極一部のようで実態解明はまだ先のようだ。主として高級官僚からなる中国の富裕層の内47%はいずれ海外に移住を希望しているといわれている。あらゆる手段で海外に資金移動を試みているのでこの結果は注目に値する。9月中旬英Financial
Times(以下FT)は中央政府が海外に資産を移す官僚の調査に乗り出し英、米、加、豪等の北京大使館に協力を要請したと報じたが効果のほどは期待できないであろう。FTは7月に中国の対外債務はGDPの250%に達しているとも報じていたが透明性の全くない金融業界なので暫く見守る以外ない。
以上