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中国ビジネスの行方 香港からの視点
 

中国で農産品(生鮮品)のネット通販が盛況

2015/1/1

湾仔

 中国の消費については巨大な人口を抱えていることは確かだが果たして巨大な市場となり得るのか、乳幼児用商品とか特別なものを除いて未だに疑問視されている。実際に国際的大スーパーのカルフールとか日本の大手小売りにしても撤退のケースも多いが商習慣の違いなどいろいろな理由はあるにせよ問題は何としても他人より少しでも安く買いたい、皆の知らないものを買って見せびらかしたいと言う国民性の違いが大きい。
 このような状況の中でe-commerce(ネット通販)が急成長している。これは中国に限ったことではないが、先進国を含めネット通販の拡大は従来の商流に色々な影響を与えている。中国本土では農産品(生鮮品)のネット通販が急速に伸びているようだ。この背景には2008年に起こった粉ミルクにメラミンを混ぜて販売し多数の乳幼児が犠牲になった事件がある。消費者は自国産ミルクへの不信感から海外産ミルクの購入に走ったが、更に色々な品の海外産の購入にと進んだ。この種の事件は連日報道され中国の消費者も国産農産品について危険性をある程度把握しているのかと思ったが、肉類で牛肉にネズミの肉などを入れることには騒ぐが、農産物への肥料/農薬の過剰投与とか生鮮品の鮮度保持のための薬品使用などは富裕層以外の一般大衆には認識されていないように見える。いずれにしても海外で騒ぐほど現地では問題となっていないのが不思議だ。一般的にこのようなことにいちいち騒いでいたら食事もとれない(我々に比べると食事の摂取量も大で、食事が毎日の最大の楽しみでもある)ので現状に満足しているのかも知れない。今回はこの背景を追ってみたい。

#急拡大するネット通販

 中国側の報道によると昨年度のネット通販市場は1兆9千億元(約34兆円)で今年度は2兆7600億元に伸び、小売総額の10%を突破するとしている。アリババ集団等が通販市場開拓に貢献したわけだが衣類、靴、家電、食品など色々な品目が対象となっている。香港紙South China Morning Post(以下SCMP)によると昨年既に米国を抜き世界最大の通販市場になっているとして世界的小売業も乗合バス方式で店頭販売とネット通販の組み合わせが必要としている。日本でも毎日小口で購入する層も、重いもの等を中心にネット通販が拡大しているが、共稼ぎが当たり前の中国の中間層はネット通販に特に関心があると思う。アリババの説明では中国の11月11日の独身日の通販の売り上げは米国のThanks Giving Day, Black Friday, Cyber Monday(3大買い物日)の売り上げを超えたとしている。店舗展開が不要なのでコストの大半は物流費となりその分、安価に商品を提供できる。更に富裕層は品質と安全な商品を求めてネット通販を選んでいるのだろう。彼らは海外の通販サイトから個人輸入するケースもあるが海外製品を代理で購入するサイトも活況を呈しているという。購入先は米国と香港が圧倒的に多い。この背景には前述の粉ミルク事件があるが、その後、乳幼児向け商品、アパレル、化粧品、家電など海外製品を買いたいと言う消費者も増えてきた。ネット通販業者もこれに応じ、上海の自由貿易区とか深センの前海自由貿易地区などに倉庫を設け、前海の場合は香港から事前に搬入し沿海都市部には3日から5日で配達できる体制を作った。

#農産品(生鮮品)の通販サイト

 農産品のネット通販が急速に拡大しているという報道が多い。正確な数字は不明だがアリババなどのreportによると生鮮品通販は2013年130億元(約2,280億円)の市場が2016年には7倍になるとの予測がある。産地から直接消費者に配達されるので新鮮さと中間コスト排除による安さが売りとしている。中国本土で中間層と富裕層が増え、彼らがより良い生活を思考していることは分かるがネット通販への参入企業が増え過当競争も考えられる。既に長年の経験のある香港企業は今後冷蔵配送など物流システムの構築に成功した企業だけが生き残ると見ている。アリババのreportを更に見ると2013年の発送件数は1億2,600万件となっているが今後物流費面でのコストカットにより更に顧客層が拡大すると見ている。但し中国の物流コストは日本などに比べると極めて高く、物流の効率化が果たして成功するのか注目する必要がある。(物流という概念は中国になく、日本語の物流をそのまま導入した極めて稀な例でもある)既に東部沿海部地区では物流業への新規参入が続々と続き、中央政府発表のGDPの中にサービス産業及び雇用の増大としてこの地区の物流業を挙げている。更にネット通販では各地に商品仕分けの物流倉庫が必要だが、何か新規産業が興ると無秩序に全員参加する国なのであちこちに無数の物流倉庫が乱立するであろう。中国の物流費が高くなるのは折角高速道路網を作っても、沿線の地方政府が随所にtoll gateをたて、市内に入っても各市・各町村が色々な名目で交通料を取り立てていることにもある。いずれにしてもここでも当分過剰が問題となろう。生鮮品ではないが一般商品では既に通販サイトに偽物(海外ブランドの模倣)が出ているとの報道もある。
 農産物の中でも台湾産フルーツとか季節性のある商品も多いようだが、中間層から富裕層でも共働き所帯が多く、夕食の材料を買う時間がなく、一部の大都市では午前中に注文したものが夕食前に配達を受けると言った例も多く利便性に優れている。

#農産品のネット通販拡大と当局の対応

 農産品の中でも特に生鮮食品(肉や野菜)の場合は生活必需品で市場としては更に拡大が期待できる。但し前述の物流の問題はこれから大きな課題となる、温度管理を含め中国本土にはcold chainは殆どないと言ってもよく、少なくとも欧米先進国の50年以上前の状態と見て良い。特殊な季節性のある南国フルーツ等高額商品については高度な輸送技術も開発されているようだが、一般品については今後各社ともcold chainの構築が大きな課題となっているようだ。(中国本土では産地から消費者までの物流で腐敗等の中間ロスが年間1,000億元との見方もある)
 中央政府は上海などの自由貿易区経由のネット通販の輸入の促進を目玉政策としてぶち上げているが、穀類、肉類などは巨大な国営企業がその配給を握っており、ネット通販の品目拡大は当然これら既存の権益集団と摩擦が生ずる。更に末端の流通市場は殆どが公営(地方政府が参加)なのでこれら流通業者との角逐も生じよう。これら既得権益集団との摩擦がネット通販拡大の障害となることは十分考えられる。前述のように輸入品のネット通販は国内産品に対する不満から海外産渇望が起こったものだが、少なくとも中間層以上は国産品に対し不信感があり、今後中間層が若し拡大すれば国産食品メーカーには打撃となろう。
 生鮮食品も含め一般品でネット通販が活況を呈している理由として
富裕層は最近の贅沢禁止令のために店舗で高級品を買うのを避け通販で買うようになったとの説もあるが、通販の普及は世界的なもので中国でも更に拡大が予想される。むしろ生鮮品の場合は官僚が従来公用車を仕立ててスーパーなどで大量に買い付けていたが、公用車の私用ということで世間の目も厳しくなり、自粛して通販に流れると言った事象が起こっているともみられる。

#香港では並行輸入が引き続き活発

 中国本土からの観光客は歓迎していたが、彼らが育児用粉ミルクに始まり日用品を大量に買い付け本土に持ち込むので色々な問題が起こっている。香港内では薬局が乱立し、ミルクの他、乳児用品、薬品も買い付けの対象となり、香港人の生活を脅かすまでになり、本土観光客の入国制限まで議論されている。従来は香港の病院で出産し香港籍を取得するとか、子供を香港の幼稚園、小学校に電車で通わせるとか病院・学校の不足が問題となっていたが、香港政府の介入である程度問題は少なくなったが、最近は日用品の分野にまで問題が波及してきた。香港人が本土に入国する際はミルク2缶までと制限されているが、2万人以上の並行輸入業者(実際には運び屋)が香港の国境地帯で活動している。香港紙SCMPによると国境地帯のひとつ上水と深セン側の税関、羅湖では香港警察もParallel Border Tradeには無力と報じている。ここでいう並行輸入とは人手で品物を本土側に持ち込み高い関税を払わずに国内に持ち込む脱税行為だが、本土側は従来から一切取締りをせず黙認してきた。業者は一日に2回香港に入り、香港品の食品、ミルク、シャンプーなどを大きなスーツケースに入れ本土の税関と香港税関前の広場で本土側の業者にスーツケースごと売り捌いているようだ。夜間が特に活発でパートタイムで一晩200元以上、月4千元、フルタイムで月に1万元は稼ぐと言う。品物は歯ミガキ、チョコレート、シャンプー、ボデイローション、たばこ、薬、クッキー、虫よけ、ヤクルト製品などまさに日用雑貨まである。勿論本土に持ち込めば通販を含め色々な販売ルートに簡単に乗るのであろう。問題は香港警察が取り締まりに出動したとなるとスーツケースをしまい本土への帰り客を装うので警察も手のつけようがないらしい。
香港とは別に本土の今後のネット通販の動きも注視する必要がある。



以上


 

 

 

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更新日:2014/12/31