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中国ビジネスの行方 香港からの視点
アメリカの裏庭に手を伸ばす中国
2015/2/1
湾仔
昨年末から年始にかけて中南米から中国マネーを巡る生臭いNewsが飛び込んできた。年末にはニカラグアでの運河開発に香港の中国企業が50〜100年に及ぶ独占的運営権を得たというもの。一方年初1月に北京で33ヶ国のラテンアメリカ・カリブ諸国共同体(CELAC)会合が開かれ習主席が中国の中南米投資は今後10年間で2500億ドルになると表明した。(2015/01/08
South China Morning Post、以下scmpと略す)これだけを見ると中国が米国の裏庭に手を伸ばしつつあるともとれるがそう簡単なものでもない。中南米の状況は暫く状況を見守る他無いが今回は運河開発に絡み世界の海運・港湾の状況、特に過剰な中国の港湾の状況を見てみたい。
1. 一筋縄ではゆかない中南米
中国は既にアフリカに巨額の投資を行ってきたが資源狙いが目的でインフラ整備などには中国人労働者を連れてゆくなど各地で問題を起こして居り中国人排斥運動なども起っている。(現在でもコンゴーのキンサシャで暴動が起こり中国人商店が狙われている、同国は銅、コバルトなどの資源国)一方中南米各地には既に大量の中国系移民が居り各地に中華街もあるが今日まで余り問題もなく現地に溶け込んでいる。
一方米国が突然キューバとの国交正常化に動き出したので(外交面で何らの成果がなかったオバマ大統領の最後の賭けとする見方もあるが)代表的な反米4ヶ国(キューバ、ベネズエラ、ボリビア、ニカラグア)のうちキューバ、ボリビアが米国との関係を強めようと動き出している。問題はベネズエラだが従来は近隣諸国に原油収入を基に金融支援などを行っていたが、原油価格の暴落と国内のハイパーインフレもあり債務不履行も懸念され現政権自体の基盤が崩れつつあると見られている。結局中国がベネズエラ、ニカラグアを支援せざるを得ないのではないかとの見方もある。(ベネズエラ・中国間では原油代金を人民元支払いとすべく中国側が提案していたが、hard
currencyでもなく使い勝手が悪いので問題となっていた)
2. ニカラグア運河建設
昨年末12月22日ニカラグアで太平洋とカリブ海を結ぶ運河の開設式典が開かれた。昔から新運河の建設は期待されてはいたが資金面で計画は挫折していた。今回は総工費500億ドル(約6兆円)で運河の工事と運営を受注したのは香港の中国企業HKND(香港ニカラグア運河開発投資有限公司)という企業で代表は中国の富豪と言われる
王請という人物とのこと。元々中国とニカラグアは国交がないので中国政府の関与はないとされているが香港ではHKND社も代表者も余り知られていないので目下のところ誰も信じる者はいないようだ。運河の全長は278キロだが、105キロはニカラグア南部のニカラグア湖を通る。現在パナマ運河の通過に8〜10時間(但し、待ち時間は含まない)に対し、新運河は30時間を見ている。ニカラグアは国内に主要産業もなく中南米ではハイチに次ぐ貧困国とされている。現地のオルテガ大統領は左翼ゲリラ出身で反米活動家として有名だが問題は50年から100年にも及ぶ独占権を中国企業に与えた為に現政権が勝手に国家主権の売却をしたという反対運動も既に起こっている。また、ニカラグア湖は中米最大の淡水湖なので環境に対する悪影響は既に指摘され国内でも反対運動がある。
他方、中国側のメリットは今でも中国船のパナマ運河の利用度が極めて高く長期的には経済活動の拡大とか運河使用料の節減効果もある。更に現状では過剰生産能力が最大のネックとなっている中国国内企業には運河工事の受注は大きな恩恵となる。
3 大きく変わった世界の海運事情
嘗ては日本も神戸港とか横浜港と言った世界有数の港湾が輸出入の鍵を握っていたが、コンテナ船の台頭によって世界の港湾地図がすっかり変化した。世界全体で国別保有船舶量を見ると30%以上がパナマ・リベリア船籍となっている。日本の保有船舶量は世界では11位でシェアは1.8%だが外国籍船を含めると(支配下船腹量)では世界1となる。一方コンテナ船の大型化が進むに従い主要コンテナ港の順位にも大変化が生じている。
目下大海運会社としてはデンマークのMaersk,スイスのMSC,フランスのCMA-CGMなどが挙げられるがこれに続き中国の国営海運会社が勢力を拡大している。(上記Maersk,
MSC,
CMA-CGMが提携を計ったところ中国政府はこれを否認した)アジア/北米、アジア/欧州、欧州/北米航路に4大アライアンスがあり世界のコンテナ物流の大半を握っている。但し船の大型化と運航会社の寡占化が進み熾烈な競争が続いている。この流れに沿って世界のコンテナ港の順位も年々変わっている。2000年初頭には香港、シンガポール、釜山、高雄、上海の順であったものが2013年には上海、シンガポール、深セン、香港、釜山となっている。
4.世界の航路で最重要ポイントは運河
パナマ運河拡張工事は80%進捗と伝えられている。今年1月完成を目指していたが一年程度は遅れるかもしれない。総工費は52億5000万ドルと言われている。今の運河は1914年に開通し船の長さ294.1m、幅32.3m、喫水12.04mまでの船が通行可能であった(この大型船をパナマックスと呼んでいた)。2000年までは大半のコンテナ船が通過できたが船の大型化に伴い現在のコンテナ船の半分しか運航できず拡張が必要となった。拡張後は長さ366m、幅49m、喫水15.2mとかなりの大型船でも通行できるようになるが、日本の海運会社の14,000TEU型とかMaerskの18,000TEU型は通行できない。(14,000TEUとは20フィートコンテナを14,000個積める船型)
一般には米国東岸からのシェールガス輸送には最適と言われている。一方スエズ運河も(全長193km、1865年開通)拡張計画を発表している。この両運河が拡張開通すると各国の港湾にも更に大きな変化が起こると見られている。
5.北極海航路
本稿では運河を中心に考察するため北極海航路については詳細な説明は省くが、ここでも各国の利害が錯綜している。
ロシア沿岸の北極海を通ることで例えばハンブルグ---東京間が41.3%、ロッテルダム---横浜間が36.4%の短縮となる。但し通行料としてロシアに1船当たり約50〜60万ドル支払う必要がある。又、強制的に砕氷船も付けられると言うが、この航路利用によって欧州/スエズと比べると日数で35~37日、コストでも40%軽減が出来ると言われている。
余談だが、この航路の沿岸諸国の他に中国などが虎視眈々と仲間入りを狙っている。この地域にあらゆる海底資源が大量にあることが分かっていて温暖化で氷が解け開発が可能になったとされているからだ。
6.中国の港湾
* 中国の港湾事情に触れる前に本稿ではコンテナ船を中心に解説しているがコンテナ船の他にタンカー、自動車専用船、ばら積船等(ばら積船は特に大型化して運河を使わず喜望峰回りのケープサイズが多い)用途別の船型があり日本の大手船会社はこれらをすべて扱う総合力で強みを持っている。但し、ばら積船など海運市況に振り回される弱点もある。これらのコンテナ船以外については別の機会に触れてみたい。
さて中国発の過剰生産製品が世界市場にあふれ、過剰生産設備に対する過剰な輸入原材料買い付けの影響で過去20年に亘り一般商品市況は不安定な動きを続けてきたが海運市況も中国への資源輸送の拡大で(通常は原材料と製品はある程度見通しがつくが中国の場合、透明性のある統計などが無いため全くの予測となる)2008年ころから一時海運バブルが出現した。一方中国内での過剰生産設備が問題となりこのバブルも崩壊したが、国の政策として輸出・輸入貨物とも自国船で運ぶと言う方針と投資中心の経済なので海運業も過剰投資が続いていた。高速道路、高速鉄道などはメデイアの材料となるが港湾の乱開発は余り知られていない。
* 従来中国の東海岸には北から大連、上海、香港が代表的貿易港であったが(勿論、海岸沿いに数多くの港があったが何れも喫水線が浅く大型貨物船の利用は限られていた、上海にしても揚子江の泥がたまり年中浚渫が必要であった)ところが経済成長とともに深水港の開発が進み前述のコンテナ港の順位で見ると上海、深セン、寧波、青島、広州、天津と大型船受入れ港を設置した(世界の10大コンテナ港では上述の中国以外ではシンガポール、香港、Dubaiのみ)。これは上海の洋山港(注)の成功に刺激された地方政府が中央に働きかけ各地に深水港が出現したためだ。運航船から見ると一か所で積み下ろし出来ればコスト的に有利なので中国本土では上海/深センが主な寄港地となっている。更に中国はこの港湾建設技術を駆使して南周りでインド洋からペルシャ湾までの各地に影響力のある港湾の建設、いわゆる真珠の首飾り作戦(海南島海軍基地から南シナ海、マラッカ海峡、インド洋、ペルシャ湾に中国船の停泊可能な港湾を確保)を展開している。
最近でもインドネシアの西カリマンタンに新港の建設(資金、労働力は中国企業が提供)を計画中と伝えられている。(スリランカでも既に新港建設に着手していたが、最近の同国の政変で中国以外の諸国とも対等に付き合うと言う方針が打ち出され、今後の行方が注目される)。港湾関連の建設事業は香港の巨大財閥,李嘉誠傘下のHutchisonが世界各国の港湾改修の最大手なので、中国側もここからknow-howを得たものと言われているが現政権とは距離を置いているようなので資金、技術などの直接の支援は無いと思う。
* 昨年末12月30日付け香港紙SCMPでは世界の10大繁忙コンテナ港のうち7つを中国が占めるようになったが喜んでばかりはいられない、巨大投資の他にどれだけ大量の公害物質が排出されているのかという図解記事があったが、公害もさることながらこれだけ港が乱立すると港同士の貨物の取り合いとなり、各地方政府も絡んでいるので既に種々の問題を起こしている。古くからの港は長い年月をかけコンテナ専用ヤードの他、倉庫群、野積みのヤード(鉄鉱石等)などを整然と秩序だって運用しており内陸との物流網も整備されてきた。コンテナは機械操作できるがその他のbulk
cargoは専任の港湾労務者もいる。又コンテナ船から見れば空コンテナの回収も必要で、これが出来る港は限られている。一方中国の各港はfacilityの有効活用のため仲介業者と結託して無理に集荷しているようにも思える。鉄鉱石などが好例だが、過剰設備によって粗鋼生産が年々増え、安い鋼材が出回るアジア地域で問題化しているので中央政府は各地の製鉄所の閉鎖を強制するとしているが粗鋼生産は一向に減らず、原料の鉄鉱石を運ぶばら積船の傭船契約は2013、2014年と引き続き増加し、世界の鉄鉱石輸入量の7割を占める中国の昨年の鉄鉱石輸入量は前年同期比13.4%も増えている。勿論地方政府の雇用維持のため製鉄所の温存を図っていることもあるが、港湾の過剰も間接的に影響していると思う、確かに各港には巨大な鉄鉱石などの山が連なっているようだ。中国内で問題となっている過剰投資の一例だが解決はそれほど簡単なものではない。
注: 従来の上海港では手狭となり、上海の東南30キロ沖合の小洋山島を埋め立て水深15mの港を造り,上海とは32.5kmの橋で結んでいる。港湾の他に、工業団地などを造る計画で54ホールのゴルフ場もできるとのこと
以上
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