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中国ビジネスの行方 香港からの視点
 

華南珠江デルタ(PRD)地域の変化/成功企業と不振企業

2015/3/1

湾仔

 昨年12月に中国に進出した日本企業のアジア展開について触れたが、今回は香港企業などPRD中心に活動していた企業の動きを追ってみたい。香港の経済団体の調査ではPRDに進出している152社(主にアパレル・電子部品等)のうち29.6%が同地区への投資を減らすとしている。人件費等生産コストの上昇と労働力の不足によるものだ。労働力不足は出稼ぎ労働者が自分の故郷でも仕事を見つけることができるためPRDに行かずに出身農村の近くで職を見つけやすくなったとされている。又、全般に中国から東南アジアに生産拠点を移す動きが加速している。成功している企業は既に何年も前からベトナム・バングラディッシュなどに主力工場を移しアジア全域に販路も展開している。従来輸出先が欧米中心であったものが輸出先を東アジアにも拡大している。更にアジア市場に向け従来OEM(相手先ブランド生産)が中心であったが自主ブランド生産などに移りつつある。広東省外からの出稼ぎ労働者は2009年に1,777万人と言われていたが2013年には1,654万人と大幅に減った。成功企業と不振企業の明暗がはっきりすると共に、色々な問題点も続出している。

#未成年者も就労させる

 労働集約型製造業が依然として主流を占める出遅れ企業も多い東東莞では16歳未満の未成年者を労務に着かせる違法行為の横行が報じられている。法定最低賃金は時給12.5元に対し、アルバイトの未成年者には7元しか払わないようで更に長時間労働もありとのことだが、企業側も違法行為を黙認と報じられている。これらの未成年者は学生で教師が人材紹介会社と話し未成年者を送り込み斡旋料を取っているとも伝えられている。取り締まるべき市当局も抜き打ち調査は行わず企業に通知したうえで調査をするという。如何にも中国らしい。

#アジア地域からの不法就労

 労働集約型の産業集積地であったPRDではベトナム人、ミヤンマー人の不法就労が増えている。これらを斡旋する仲介業者も活躍しているとのことだ。東莞市では約1,000人のベトナム人の不法就労があるとも伝えられている。

#不振業種

 家具メーカーの場合深センが中心で中国内の家具生産拠点としては最大であったが、2008年の金融危機以降は四川省を拠点とする家具メーカーにシェアーを奪われ以来深センの大手家具メーカーの倒産が続いている。住宅販売不振と共に過去の無計画な事業拡大により過剰生産による倒産が多い。何れにしてもPRDに拠点を置く理由がなくなっている。アパレル企業も不振に喘いでいるが約5000社の内2014年上半期に赤字となった企業は17.3%に上りコストの上昇、市場競争の激化、労働力不足等によって業界は完全に二極分化している。不振組のひとつに靴の部材メーカーがある。日本の靴メーカーに部材を供給してきたが、最低賃金は新入社員にも適用され、更に入社後数年たった従業員の賃金も上がるため人件費は高騰を続ける。従業員の定着率が極めて悪いこともあり利益率は年々低下している。彼らは最新の設備を導入しているので東南アジアへの移転も選択の一つだが、設備の移転や撤退には膨大なカネと時間がかかり身動きできない状況でもある。

#ロボット化

 PRDの各工場ではロボットの導入が盛んだ。東莞市の66%の企業がロボット導入に巨額の資金を投入、広州市政府も自ら市内の製造業にロボット導入を勧めcheap laborからロボット化に向かっている。但しここで問題となるのは政府もロボット化を推進している点にある。昨年10月のFinancial Timesの記事では中国が購入した産業用ロボットの台数は世界の1/5を占め購入数では日本を上回っているとしている。産業用ロボットの導入数で2017年までに中国が首位になるとの見方もある。労働者1万人当たりでみると中国は30台で韓国437台、日本323台、ドイツ282台、米国152台と先進国に比べまだ少ないが目下自動車メーカー向けに導入が進み、2017年までに現在の2倍の42万5000台となり更にエレクトロニクス分野での導入も考慮すると世界最大のロボ導入国となるであろうとの見方がある。一方、熟練労働者は賃上げ、単純作業をする労働者はロボット化のために職を失うと言う結果となっている。この動きとは全く関係なく一番先に動いたのがロボット製造産業だ。長沙市では経済開発区をロボット産業のモデルパークに指定、ロボット本体の製造メーカー、関連企業の誘致を大々的に宣伝し、3年でロボット関連の生産額を100億元とする目標を設定したとの報道もある。エアコンメーカーの珠海格力電器は既に自動化に着手し、近々自動化生産率を70%にまで引き上げるとしている。但し問題は技術面で国内産では到底無理なのでいずれの市もロボット生産で最先端の技術を持つ国際的な企業を誘致したいとしている。

#更に過剰生産問題

 ロボット化は生産効率の向上にはつながるが人員削減も必要なので従来不足していた労働者のうちPRDに戸籍を移した出稼ぎ労働者が職を確保しようと企業側と対決するケースが増えている。広東省政府は一方でロボット化を推進しながら他方でこれら労働者保護のため労働者の待遇面と雇用契約を維持せんと従来認めていなかった団体交渉制度を導入した。ストと同様団体交渉を禁じていたものが突然企業側は必ず交渉に応じねばならないと決められた。これは一方で労働争議の発生を防ぐ目的もあるが同時に賃上げリスクが高まる。いずれにしても企業側も地方政府のその場しのぎの官僚主義に悩まされ撤退も困難な状況となっている。
 既に過剰生産設備については触れてきたがPRD各地でまず人件費の上昇が大問題となっている。人件費と共に社会保障費の増大などいずれもコスト増に拍車をかけている。同時に業界の過剰生産能力が経営上の最大の問題点となりつつある。在庫の増大は嘗ての飢餓輸出と同様コスト割れでも在庫処分のためには輸出以外に方法がない企業が増えている。いずれにしても透明性のある統計もないのである業種が良いとなると各社が一斉に参入する。エコカー補助に政府が動いたために電気自動車への参入が続いている。太陽光パネル同様この業界も何れ過剰設備に直面するであろう。

#富士康(Foxconn)の内陸での動き

 内陸部への移動を検討している企業は中国内での製品販売を考えてのことだが移転先候補の多くの立地の都市化はこれからで公共インフラの整備も進んでいないので沿岸地区に出稼ぎに出ていた農民工を十分に呼び集められるかは分からない。このような観点から内陸への進出を逡巡せざるを得ないケースが多発している。
 EMS(エレクトロニックス機器の受託製造サービス)を行っている世界最大のEMS企業のホンハイは台湾企業で、傘下の深センに中国本部を置くFoxconnが山東省の奥地に新工場を建設中だ。同社は米アップル社のiPhoneの生産量の半分を受注していると言われている。従来同社は深セン市、河南省鄭州市、山東省大原市の3工場でこの種の生産を行っていた。上述の深セン以外の2都市とは新工場建設予定地も近いのでこの点では地理的なメリットもあるので今年中に一部稼働と伝えられている。当初はワーカー4,400人を擁しパソコン・携帯電話部品の生産を開始すると香港紙では伝えている。新工場については色々な説があるようだが工場敷地は30万平米に達し、ワーカー数も30万人以上との話もある。Foxconnとしては沿岸部でのワーカーの確保が困難となり、そのワーカーを出していた地域に生産拠点を設置することで低賃金のワーカーを確保できると読んだのかもしれない。勿論地方政府と密接な関係を保っていたのでこのような巨大工場の建設が出来るのかも知れないがFoxconnが給与水準を地場企業より高く設定すると当然人材の争奪戦が表面化する恐れもありこの動きは当分注目に値する。
 一方台湾で国民党が地方選挙で大敗したが、国民党政府は台湾企業の本土進出を後押ししてきた。勿論中国共産党との連携によるものだが、台湾側のこの政策の推進者は連戦(国民党名誉主席)とかFoxconnの親会社であるホンハイの郭会長とされている。特に郭会長の共産党首脳とのパイプは有名だ。但し、最大の深セン工場では長時間労働に対する不満から労働争議も起っている。さらに、本土解放軍の台湾付近の小島侵攻に備えた台湾軍の奪回作戦演習など気生臭い動きもある。今後の台湾の政変が台湾企業の本土における活動にどのように影響するのか暫く注視したい。

以上


 

 

 

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更新日:2015/03/01