中国ビジネスの行方 香港からの視点
中央政府による地方政府救済はできるのだろうか
2015/6/1
湾仔
今月6日の香港紙South
China Morning Post(以下scmpと略す)に中国内の観光地の豪華ホテルが政府の緊縮令により大打撃を蒙っているとの記事があった。
湖北省の武当山の豪華ホテルでは今年に入ってから僅か6回reception
があったのみでそれも政府関係のものはゼロであったという。このような観光地の高級ホテルは政府関係者の集まりで持っているようなもので2012年には政府関係の集会が400回もあったが2013年の汚職退治と過剰接待禁止によって90回に減ってしまったという。このホテルは地方政府のofficial
reception用として活況を呈していたが2014年には営業利益は60%減とのこと。この地域と同じような地方政府用の観光地は21ヶ所あるとのことだが海南島、太湖、黄山など有名観光地の豪華ホテルは同じような状況らしい。一方、中央政府高官や大国営企業幹部は会議と称し公費で観光スポットを訪れることは既に国民すべてが知っている。大国営企業の中国核工業集団の副会長が4月に資金の流用とて馘首された。報道によれば国内旅行はもとより業務に関係のないArgentinaまで2013年1月と9月の2回訪問したというからこの種の旅行は彼らにとっては役得で一般的になっているのだろう。いずれにしてもこの種の有名観光地とかホテル業も地方政府の収入に大きく貢献していたわけだ。この例は中央政府の緊縮令の影響によるものだが、今回は地方政府の土地売却の実態を中心に地方政府の窮状をみてみたい。
#地方政府の不動産売却
従来から地方政府の土地売却の収益に依存する中国独特の施策が既に何年も前から不可思議な政策として指摘されていた。ところが最近の景気の減速と相まってこの施策に赤信号がついている。
種々の説があるが昨年度地方政府が国有地使用権を不動産業者に売却した金額は4兆3千億元という数字がある。土地は国有なので地方政府は土地使用権の売却で今日まで生き延びてきたとも言える。ところがこの売却収入は急速に落ち込みつつあり、更に買い手の不動産会社の実体は地方政府が出資しているインフラ投資会社(融資平台)とみられる企業も多い。何のことはない地方政府内で資金が動いているに過ぎない。従来から地方債による資金調達は認められていたが地方の融資平台を通じての資金調達を禁止すべく中央政府は新たに法律を出そうとしていた。ただ簡単には実施できず、既に実施中のprojectもあるので最終的な妥協案として今年末までは地方債の発行では賄えない場合は地方融資平台による資金調達を認めるという中途半端な解決となっている。正確な統計はないものの地方政府に償還責任のある債務は20兆元から30兆元とも言われている。更に地方債についても資金の用途を特定するよう中央政府は求めてはいるものの実行段階ではかなり曖昧な用途もあり一筋縄では行かないのが現状のようだ。
#地方政府による債権発行
5月18日江蘇省政府は中国では初めてとなる525億元の地方債の発行を発表した。このうち308億元が融資平台の債務の肩代わりと見られている。21日には新疆ウィグル自治区政府も地方債の発行を発表した。
scmpによれば江蘇省のようなリッチなところとか政治的問題から北京政府も重点支援している省(上述の新疆)は債券発行に踏み切るであろうが債務の返済主体が地方政府に移るだけで地方債務の解消にはならず、地方政府によるインフラ投資は困難となろうとしている。
#無駄な再開発への資金投入
従来は強制的に農民を立ち退かせていたが農民もこれに大きな抵抗を示すようになり土地成金が生まれつつあることも事実だ。農民などへの補償と更地への無駄な開発資金投入で実際の地方財政への貢献は急激に減っている。
従来から各地に無用なshopping
centerが造成され問題となっていた。住宅向け不動産市況が冷え込む中でも商業用不動産投資は伸びていた。ところが大都市の商業用不動産も在庫過多となり一部では在庫解消のめども立たないと言われている。shopping
centerやデパートなど同じような商業施設を都市化の掛け声とともに各地に建設してきた。既にゴーストタウンと呼ばれている施設も数多いが実態はネット通販などの発達により消費者の動向とかけ離れた商業施設が続々と生まれた訳だ。中央政府は強気で内需が経済成長の原動力となるので何れこれらの商業施設は再び活性化すると宣伝している。
# 中央政府は地方政府の救済に回る
地方債務の返済負担を軽くする特例として2015年中に返済期限が来る借金のうち半分の1兆元について債権発行による借り換え(即ち金利の低下により返済額の負担減)を見込んでいる。問題はその債権の引き受けだが中央政府はおそらく国営銀行に購入させるのであろう。いずれにしても不良債権は最終的には国庫の負担となる。財政収入が潤沢にあればよいが、軍事費など支出もどんどん増えるので何れ破綻もあり得る。
#土地使用権の使用期間の短縮
中国の場合「土地は国有」から出発したので従来から色々な問題が生じていた。日本企業の中でもホテル業は改革開放の波に乗って沿海部の大都市から進出したが最初に井戸を掘った人が特権を得ると中国側に言われていたが、最初に進出した企業は15年間の土地使用となっていたがその後の進出ホテルは更に長期の使用を認められたり、その時の政府の方針変更に悩まされてきた。北京、上海、広州など大都会では「工業用地」の使用権の使用期間が従来の50年から20~30年と短縮の動きが出てきた。従来から土地の商品化によって経済を支えてきたわけだが、問題は新規参入とか使用期間更新(延長)の際に値上げを要求されると見るべきだ。
#深セン市の中心部再開発
元々何もなかった土地に改革開放政策の先陣として僅か30年ほどで驚くべき経済成長を遂げた深セン市だが今や人口も急増し土地不足が大問題となっている。そこで市政府は都市再開発計画をだし重点産業区の改造を実施した。従来製造業が集まっていた宝安区などの工場地帯は工場が取り壊され商業施設や住宅が林立している。同地区の多くの企業は安い労働力を基にした企業が多いので工場をたたんで東南アジアに移転するには補助金を得て移転のチャンスをと狙っていた企業も多かったので再開発も進んだものと思われる。深センの例では都市計画が大きく変えられる場合、(工業用途であった地区が公共用地となった場合)、市政府は不動産開発企業に土地代金及び補償と引き換えに使用権を放棄することを要求している。企業側は勿論補償の交渉をする権利はあるが実際には市政府は強大な権限を持っているので市政府との関係を考え立ち退きを受けざるを得ない。4/5年前までは補償を受け市内の別地域に移転していたケースも多かったが労務問題も厳しくなり市内で新たな用地を見つけることが難しくなり、市政府も別の用地を確保することができなくなり、補償費用も産み出せない状態となっている。深センには全国の注目が集まっており市政府の役人としては何か作文も必要なので産業の高度化などの苦肉の策を打ち出さざるを得ない状況にある。最近では香港に対抗して巨大なConvention
& Exhibition
Centerの建設計画を打ち出した。この土地も都市計画の変更によって造成しようとしているのかも知れない。何れにしても不動産価格が依然として上昇している数少ない大都市のひとつとして深センが注目されている。
#今年の春節以降の意外な動き(都市の空洞化)
毎年春節が終わると労働者が農村に戻ったまま工場に戻ってこない、即ち労働者不足に各企業とも悩まされていたが、これも転換期に入ったようだ。景気の低迷、工場の自動化等などが背景にあるとも言われているが、香港企業は今年度の春節後の労働者の約30%が戻らないと予測していた。そこで企業側は採用抑制に動いている。一方広東省政府や深セン市などは産業の高度化を中心政策とし、設備の機械化、自動化を推進している。このまま進めば労働者の求人は更に減少するであろうが、元々地方から労働者を集め都市化に成功した広東省の一部の都市では更に都市化を進め一方で労働者の流入が無くなると都市の空洞化が深刻な問題となろう。
#無駄な地方投資と経済刺激策
地方政府の債務については上海などいくつかの地方政府が債務の内容を公表している。但しこれはごく一部で大半の地方政府は債務の公表どころか無駄な投資が続いている。その代表格が天津だ。既に市政府の事実上の財政破たんの噂もあるが港湾設備に巨額の資金を投じ、巨大コンテナターミナルを建設、精油所、石油化学コンビナート、造船基地などを設け、更に巨大な工業団地を造成している。日本などにも使節団を送り企業誘致も行っているが、現地を見た人の話では浜海地区の荒涼と静まり返った建築現場が印象的だという。
工業団地以外の住宅分譲地、例えば杭州郊外のエッフェル塔を模した塔を造り、中国のパリと称して壮麗な分譲住宅を造りゴーストタウンとなった天都城などは観光地として売り込みも出来ようが、今になって工業団地を造成しても景気の悪化とともに遊休地となってしまうので、地方政府によっては成長のための刺激策が必要とばかり公共投資、インフラ整備の名目で、更には輸出増進を目的とする景気刺激策を打ち出している。中央政府は地方政府の債務軽減に乗り出しているようだが、肝心の地方政府は何のことはない従来のGDPの成長が全てを解決するとの方針に逆戻りしているようだ。
以上
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