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中国ビジネスの行方 香港からの視点
 

再び中国の過剰について

2015/7/1

湾仔

 本稿でも何度か中国の過剰生産設備、在庫について書いたが一向に改善の兆しはない、この問題は既に何年も前から指摘されているが国内での過剰の波が近隣諸国を襲っている構図に変化はない。雇用問題があるので大なたを振るうわけにも行かないが、中国経済の懸念材料として大きな問題となっている。今回は最近の問題点を追ってみたい。
 鉄鋼、セメント、非鉄金属、資源関連等従来から過剰投資が指摘されてきたが中国の超高度成長は投資によるもので、殆どすべての業界で過剰投資が問題となっている。既に各分野で大型企業の倒産が表面化する懸念が出てきた。通常の国では表面化した場合でもsafety netである程度カバーできるが中国の場合safety netの整備の遅れがあり最近ではこれに対する批判が政府内部でも出始めている。3月13日付け香港紙South China Morning Post(以下scmpと略す)によると李克強首相は「今後は国家として破産企業を救済することはしない」と伝えられているが逆に言えばこれまで全て国営銀行を通じて破産企業を救済してきたが財源問題もあり国としては如何ともし難いと言っているようにとれる。以下個々の業種の状況を見てみよう。

# 鉄鋼

 過剰在庫は既に指摘されているが粗鋼生産量が年8億トンで日本の粗鋼生産量の約3倍の3億トンの設備が過剰となっている。この過剰分がアジア全域の鉄鋼市場を揺るがせている。その原料となる鉄鉱石だが、今年4月初めにはトン50ドルを割り中国の港湾在庫に押され46~47ドルまで下落していた。ところが4月終わりにかけ豪州側の増産に歯止めもかかり値下がりは一服状態と見られていたが6月に入り7-9月の豪鉄鉱石価格は前期比16%安と発表された。2011年のピーク時に比べると70%下がったことになる。
これら鉄鉱石、非鉄など金属資源の価格は需給バランスによって決まるのが当然だが中国の場合国営企業が乱立し、巨大な需要と共に国内秩序の整備は不可能とも言える。scmpによると中国鉄鋼企業の2014年の純益は前年比40%増とのことだが年初から48%下落した鉄鉱石、年初から37%下落したコークスなど原料の大幅な下落によるものだ。一方製品価格も下落し業界上位20社の純益は280億元だが20社の次に位置する19社は赤字とのこと。当然のことながら鉄鋼業界全体の固定資産投資は減っている。このような状態でも2014年の粗鋼生産量は0.9%増の8億2千万トンで伸び率は鈍化しているものの中国全体の生産量は世界の49.4%で生産能力は11億6千万トンという。鋼材輸出量は9,378万トン(世界全体の32.2%と過去最高)国内生産の約10%が輸出となっている。但し製品価格も下落してトン3,074元で2013年から10.7%、2011年から31.2%下落している。国内で生産制御不能に陥り海外でダンピングという一世紀も前の貿易戦争をしているようなものだ。中央政府は従来から投資助長策を取りながらここにきて過剰生産能力の問題は海外移転を通じて解決すべきと言うがいかにも中国らしい解決法だ。海外での生産設備の建設と国内の既存生産設備の海外移転を謳っている。但し過剰生産設備の海外移転は簡単には進まない。資金繰りの問題もあり河北省の鉄鋼業界が悲鳴を上げている。更に生産能力を6千万トン削減するには100万人以上の雇用を奪うことになるので政府の思惑通りには行かない。

# 銅など非鉄金属の場合

 銅はあらゆる方面で消費されるが中国の銅消費量は世界の40%を占めるとも言われる。中国内でも青島の「不正融資」(拙稿 2014/9/1青島港metal scandal参照)などマネーゲームが銅相場を支えていたわけだが更に世界的なカネ余りによって投機資金が再び銅等非鉄金属に流れていると見る向きもある。銅相場は6月中旬に5月上旬から10%下げ5,800ドルと3ヶ月ぶり安値で3月の安値5,600ドルを試す展開となっている。銅の低迷に反し鉛、亜鉛がこの春から動き出した。勿論投機資金の流れもあるがLME(ロンドン金属取引所)の亜鉛の先物価格は4月末にトン2,200ドルと3月の安値から12%も上昇した。鉛も2,030ドルと21%高(銅はこの間4%高)、鉛も亜鉛もLMEの指定倉庫の在庫は減少しており豪州の有力鉱山の生産停止との噂もあり、供給不安と欧米・中国の金融緩和によって生じたマネーが目を付けているとの見方もある。資源関連の国際商品市況は原油先物も5月には上昇したがLMEのニッケル先物も4月以降戻り基調にある。但しニッケルなどは資源の大量消費国の中国の景気減速に並行して動いていたが、中国人民銀行の追加利下げとか政府が景気刺激策を必ず発動するといった個人投資家の見方に動かされている面もある。
 他方、需要面では中国の住宅産業の不振で亜鉛が使われるメッキ鋼板は不振だし自動車バッテリー用の鉛も中国の新車販売が振るわないので低迷している。
 2014年は中国上場企業の内、特に非鉄金属、鉄鋼、資源関連などで減益や赤字転落が続いた。勿論これらは供給過剰問題を抱えている企業だが中国アルミは162億元の赤字となり建機最大手の三一重工は純益が80%減となっている。問題は投資ブームによって上海・深セン証取の株価はまさにバブルの様相を呈しているが国営企業の不振は(従来国が不良債権の処理を行ってきたが)財源の問題とともに不良債権処理の行方に暗雲を投げかけている。これについてはまた別稿で記載したい。

# 中国の過剰生産による安値で低迷する商品

 アルミ地金は2014年トン2000ドルを超えていたが6月には1940ドルと年初から40%下落している。もともとアルミの需給は欧米大手精錬会社の減産でかろうじて均衡を保っていたが世界の生産量の50%を占める中国からの供給が急増したためこの均衡は破れてしまった。中国の1~3月のアルミ製品輸出量が121万トンで前年同期の40%増とのことだが中国では粗鋼生産の伸びは鈍化したがアルミは地金生産が1~4月で979万トンと前年同期比11%増となっている。価格の低迷に拘わらず発電コストの高い沿岸部の製錬所の減産または閉鎖を行い発電コストの安い内陸で生産能力を拡大したためだ。問題はこの政策の後押しを中央政府が行っていることにある。地方政府も喜んで生産能力の拡大に動き2019年までに2014年比1000万トン生産能力が増えると見られている。この結果中国のアルミ生産はこの10年で4倍になると見られている。政府がどの程度世界の需給を予測したのか不明だが有望市場と見ると参入企業が殺到する図式はどの業界でも同じだ。いずれにしても国内需要が追い付かず輸出に回るという悪循環の繰り返しだ。

# 他の業種でも過剰設備だらけ(中国全土で在庫の山)

* LED  各地方政府はLEDメーカーへの補助金支給によってLED産業の育成を計ってきたが補助金停止の噂によって業界が揺れている。補助金に支えられた投資が生産過剰を招き広東省珠海市の徳豪潤達電器は黒字が補助金によるものと市場で騒がれている。
* 乗用車 中国自動車工業協会によると自動車在庫は今年に入って35万台増加とのこと前年同期を30%余り上回る。完成車メーカーが相次いで工場新設に走る一方需要は減退している(GM,VWが中国での事業拡大に走り、特にGMは2014~18年の計画で500万台の生産体制とするとしている。VWも青島、天津での新工場建設を発表。両社とも中国での販売が好調なのでここで一気に他メーカーを引き離そうとの作戦)更に現代も2工場新設し生産能力を50%増やすとしている。このまま進めば今年の年末には中国全体の生産能力は4,000万台以上と見る向きもある。中国の新車需要を年間2,500万台と見ても世界の需要の1/4となるので4,000万台となると途方もない数字となる。(トヨタも中国に新工場設立を発表したが合弁会社が資金調達を行うのでトヨタの実質的持ち出しは無い。増産も10万台程度で中国での生産能力過剰と景気減速に対する不安が投資内容と一致している。)
* 製紙 中国内でも鉄鋼などと並ぶ設備過剰業種だが、日本企業も過剰の片棒を担いだケースがある。日本の王子・日本製紙・北越紀州製紙などはかなり前から中国進出を競い(日本国内では中国進出に疑問符が投げかけられていたが)、王子などはパルプ廃液問題で地元住民から撤退運動を起こされるなど工場建設自体が大幅に遅れていたが今回投資計画の修正を発表した。日本製紙は現地の段ボールメーカーと資本・業務提携の解消、北越は広東省で板紙工場を起ち上げていたが、国内需要が無く東南アジアへの輸出に転換と各社とも計画変更を迫られている。
* その他にも石化、合繊原料、太陽電池等過剰業態は限りない
 商品ではないが鉄鉱石、石炭等ばら積貨物の輸送量は日本郵船の発表では2014年までの10年間で1.7倍とされている。中国の買いによる鉄鉱石などによるものだが輸送量が伸びても運賃は安値が続いている。バルチック海運指数は2014年2月509と過去最低水準となった。問題は荷動き以上に船舶の供給過剰によるものだ。世界全体の造船能力は実需の2倍あるとの説もある。造船業界にも投機資金が流入し特に中国の造船業の過剰は問題だ。
* 最近話題のドローンでも
深センはいまやドローンの都といわれている。ドローン産業に金儲けのチャンスありとベンチャー企業が次々と誕生している。既に200社以上も金儲けの匂いを嗅ぎ付けて参入しているとのことだ。深センの場合スマホ、パソコン等電子部品産業が集積している。人材も豊富、香港に隣接し輸出などにも便利といった利点もありここに集まったものであろう。但しスマホとか薄型TV同様参入企業が殺到し何れコピー商品が前面に出て利益なき過当競争に陥るであろう。

# 過剰生産能力の淘汰はできるのか

 鉄鋼、電解アルミ、板ガラス、セメントについては中国工業情報省が拡張、改築も含め新規工場の建設を規制すると発表した。昨年夏に方針が出て今回ようやく実施要領が出た訳だが新規工場の建設規制となっており既に過剰な設備をどうやって淘汰するのかは明らかでない。実際に過剰設備を廃棄するのは不可能であろう。中国の場合、膨大な低賃金労働力を市場に提供したため多国籍企業は競って工場進出が進んだ。これによって投資主導型の高度成長が始まり工場建設と共に生産能力も増え輸出投資主導型の成長となった。但しこの結果は生産能力が需要を上回った。今この投資バブルは崩壊に向かっている。アジア投資銀行(AIIB)の狙うところは鉄鋼やセメントの過剰のはけ口としてアジアへの投資を狙ったものであろうがそんなに簡単なものではない。何れにせよ過剰生産能力の淘汰は不可能に近い。


以上


 

 

 

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更新日:2015/07/31