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中国ビジネスの行方 香港からの視点
 

おかしいぞ 中国株式市場

2015/8/1

湾仔

 6月末にギリシャがIMFに返済不可能と伝えられ世界の株式市場に動揺が走り一斉に下げに転じた。香港株式市場も同様の動きをしたが、中国株式市場はギリシャ問題とは全く関係なく急落した。
 6月28日の香港紙South China Morning Post(以下SCMPと略す)にWill Beijing really be the last rescuer for everyone in the stock market? と題する面白い記事が載った。大半の中国人投資家は北京政府=共産党が最終的に投資家を支援するはずと信じていると言う。筆者は株取引には知見が無いが、素人がみても不可思議な中国の株式市場を見てみよう。既にその後の中国政府の処置については種々報道されているが6月最終週と7月第1週の動きだけ見てもなりふり構わぬ中国政府の動きが良く分かる。

#株価対策に走った習政権

 6月末に急落した株価は3ヶ月ぶりに4000point(上海)の大台を割り込み3,887.55ptsまで下がり、6月12日から3週間で30%近い下落となった。2014年7月の2000pts超が1年で2.5倍に急騰、6月12日7年ぶりに5,178まで上がったがその後3週間で24%急落した(2014年以前は1000point~2000point台で低迷していた)。政府としては景気後退局面でもあり、株価高騰は絶好の機会として景気浮揚の手掛かりとしようと株価の高騰に期待していた。実際に連日政府が株価をsupportしているので安心といった噂で(実際に共産党の機関紙も株価の高騰を宣伝していた)市場が動いていたようだ。この急落を受けて政府が打った手は@.信用取引の規制を緩和する(信用取引が拡大しすぎて、むしろ規制強化に出ていた)A.上海、深センの株式の売買手数料を30%値下げする。B.人民銀行は6月27日4度目の追加利下げを行った。C.公的年金基金の運用先として30%まで株式での運用を認める。以上のような支援策を打ち出したがこの背景には株式の暴落による政府への不満、社会不安を防ごうとの意図がはっきりしている。但し実際に株式は急落し先の見通しすらはっきりしない。政府は更に株式相場の急落を受け市場操作の容疑で調査に着手すべく調査員を組織化するとまで宣言したようだが、従来のやり方で行けば最初に疑惑有りで株価の急落も市場操作によるものとして有力証券会社とか海外の金融機関に罪を押し付けるのかも知れない。いずれにしても政府の対策は場当たり的な面が多く、逆に市場ではその裏には何かあるのかと不安をあおる結果ともなっている。

#通常の国とは違う株式売買の実体

*信用取引の膨張 株式を担保に資金を借り入れ株式投資にあてる信用取引が株高を助長する形となっている。元手が無くとも多額の株式投資が可能なのでこれが株式バブルの一因ともなっている。株価が下落すると担保の株を追加するか、借入金を返済しなければならない。ところが中国の信用取引残高は巨額で普通の国の信用取引残高とは比較にならないくらい巨額となっている。政府は株価高騰時には信用取引の規制を強化すると言っていたが、ここにきて規制緩和を打ち出した。
*普通は株式売買に当たり企業業績などを見るが、中国の個人投資家は有力巨大国営企業などの単なるその時点での企業の動きによって投資する(中国鉄道建設最大手の中国中鉄は国外でのインフラ受注をはやし立て、投資家もそれに乗って強気となっていた)など企業業績とは無関係に資金投入が行われ、資金の投入に次ぐ投入でまさにmoney gameの様相を呈していた。従って中国株バブルに対する懸念があちこちで挙がっていた。上海総合指数は年初に比べ60%も上がっていたが問題は実体経済と株価の乖離が広がっていることだ。
*不動産から株への乗り換え 実際に北京、深センなどの不動産市況はやや持ち直しているようだ。そこで投資対象が限られている中国では不動産と株式が目下の投資対象だが、ここにきて株式から不動産への資金シフトが起こった。株が上がれば不動産が下がる。又この逆もある。ところが一説には在庫となっている不動産を政府が買い取り公営住宅に転用すると言った噂も流れており、要はデベロッパーとか証券会社への支援策とみられている。従って株から不動産へのシフトはそう簡単には行かないであろう。
*投資家の大半が個人投資家で(2014年末の全国の株式口座は1憶8千万件で個人投資家は9000万人とも言われている、丁度共産党員の数とほぼ同じだ。上海市の常住人口を2,400万人とすると上海市場での登録口座数は約1,284万件で年齢を考えると殆どすべての上海の人が口座を持っているとも言えよう。)国家資本主義とは言え政府が先頭に立って株価対策をとるわけにも行かないのでまずは株価を保つべく利下げなどで支援せざるを得ないのではないかと6月時点では推測されていた。今回の暴落で株式売買停止という妙な手段が出てきた。通常は特別な理由で売買停止を申請するが今回は全上場企業の1/3 約1000社で株取引停止となった。
*人々は株式時価総額に注目する。今年4月に上海は時価総額で東京を追い越したが、上海市場では14社(1.3%)の銀行が上場企業全体の純利益の59%を占めるので銀行中心経済とも言える問題点がある。(銀行の場合は預金金利に上限があり、貸出金利も高めに設定されているので当然巨額の利益が出る。)但しここにきて銀行の収益力の低下が明るみに出てきた。人民銀行の周小川総裁は今年3月に預金金利の上限規制の撤廃を行う方向にあると述べている。そこで年内に金利自由化に踏み出すとも言われている。預金金利の自由化は預金と貸出との利ざやを縮小し、不良債権処理費用も増えると銀行の収益に大きなインパクトが生じる。
 経済成長の減速と金利の自由化が重なれば銀行収益が圧迫されることは何処の国でも同じだ。規制頼みの銀行の収益構造はもろい。(本稿では上海市場を中心に見ているが上海の場合、銀行/資源などの大型株中心で、中国政府が上海と共に証券取引を許可している深セン市場は北京政府が製造業の強化を目指す指針を発表したが、この恩恵を受ける企業群の上場が多い。従って政府の施策の直接の恩恵を受けるのは深センの方だ。深セン市場は5月20日には時価総額でロンドンも抜き世界5位になっている)
*中国は株高を必要とする 経済が減速する中で所得の増加が続き社会保障制度が未だ整備されていないので個人が財産形成を図る必要がある。但し貯蓄は金融緩和で金利が低下し、不動産など投資対象が限られている中で株式投資が最善との結論となっている。そこで国の政策に依存する形での株式投資が活況を呈していると言える。2007年10月6,124ptsであった株価が2008年10月1,664ptsに急落し、今回と同じような局面を迎えたことがあったが個人投資家の数はその後急激に増えているので政策面でのかじ取りは更に困難となっている。

#香港/上海証券取引場の相互乗り入れ

 2014年4月に中国の李克強首相が上海と香港の証取の相互乗り入れを2014年10月から開始と発表。既に過去に何回も同様の期待から市場が過熱した。2007年には香港のハンセン指数は8月の19,386ptsから10月末には31,958ptsまで跳ね上がり、当時の温家宝首相が無期延期を指示した。これによる香港への資金流入は膨大なものになるとの予測でゴールドマンサックスとか中国の中信証券などが盛んにその恩恵を宣伝していた。反対に上海株式市場では外国からの投資マネーの流入期待から株価が上昇しつつあった。ところが解禁された11月17日から年末まで98億ドルにとどまり盛り上がりは全くなかった。一方今年の4月8日には本土から香港株式を売買する「港股通」の一日の投資限度額105億人民元に達したので限度額引き上げの噂もあったが取引開始から2月までで港股通の累計取引は529億元で一日当たりでは9億元と取引は低迷していた。(実際に同一株式が両市場で値段が違う等不透明な点が多くこれが取引低迷の原因であった)、ところが4月8日に地下ルートからとみられる大量の資金が投入されるなど依然不透明な部分が多い。更に取引細目などが未定の部分も多く、実際に香港証券取引所では実施を急ぐべきではないとの声も多い。

#7月に入り株価テコ入れに証券会社なども乗り出す。

 7月4日、SCMPによるとまず政府は株価を支えるため1,200億元(約2兆4000億円)以上の資金援助を行うとし、中信証券等国営の巨大証券会社21社は4,500ptsに戻るまで一年以上各社は保有株を売却しないと発表した。一説によると証券監督管理委員会は21社に対し株式市場に総額1200億元投資を7月6日午前11時までに実行すべしとの命令を出したとも言われている。同日上記21社に更に4社加わり、5日には投資信託会社も含め69社が同様の方針に従うと発表、又人民銀行も証券会社に資金援助を行うことを発表した。
 勿論しばらくは株価も持ち直すであろうが先行きは何とも言えない。いずれにしても社会全体に動揺が広がることを怖れすべての政策を動員する政府の株価対策は当分続くであろう。一方個人投資家には冷めた見方もあり、政府がここまで株価対策に乗り出すのは実際の個人投資家の大半は所謂中産階級で共産党関係者、即ち政府機関に働くか国営企業幹部などで要は身内の援助に過ぎないとする見方もあるようだ。
#日本の証券会社にも波及 野村証券・大和証券は中国株中心に運用する投資信託の購入・解約の受付を停止した。(現物株の売買では内藤証券が香港市場経由で上海A株を580銘柄取り扱っているが約200銘柄が取引停止となっている)、実際に投資信託では新興国株が組み入れられていて日本のみならず証券会社はそれらのfundを手広く売っているからか中国経済についても決して悲観論は出さず楽観的な論評が多い。

#やはり国営株式市場なのか

 中国政府の矢継ぎ早に打った対応策は一応成功している面もあるが確かになりふり構わぬやり方は逆に北京政府が最後まで面倒を見ることを印象づけてしまった。確かに中央宣伝部はメデイアに対し株式相場を客観的に報道するよう緊急通達したり公安省が空売り調査に乗り出したり、信用取引の規制強化が株の急落の原因となったとして証券監視管理委員会の首席を更迭するなどの噂を流したりと行き過ぎの面は多い。普通株式の60%を政府や国有企業が保有しているので不動産市況の回復もあり景気は底入れしつつあるとの宣伝を行いたいところだが株式の急落によってこのstoryも崩れてしまった。皮肉にも冒頭に書いたように政府が最後の救済者になると言う結果になり共産党の威信も深く傷ついた結果となった。
 その後政府のテコ入れによって4,000pts(政府目標は4500pts)まで回復しているがまだ先行きは不透明だ。一方、役人は株価回復の功績を謳い、株価下落の際は随時政府が介入するとまで言いだしたが、(最近、公安による弁護士の軟禁とか、大学内における西欧的価値観の授業の禁止等、習政権の政権内抗争ともみられる動きもあり、文革の再来とまで言う人もいる。)さて株式についてはどこまで政府が面倒を見るつもりなのか注視したい。


以上


 

 

 

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更新日:2015/07/31