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中国ビジネスの行方 香港からの視点
 

再び始まった地方政府の日本企業誘致活動

2015/9/1

湾仔

 あれほど積極的に外資の誘致を行ってきた中国政府はここ1・2年独禁法の乱用とか国産化政策の強化とか外資に対する嫌がらせが続き、まるで外資排斥運動が起こったかのような印象を外部に与えている。この背景は習政権の贅沢禁止令などの影響もあり中央の政策の最高決定機関でもある改革開放委員会内部の役人の自らの業務内容の誇示または如何に仕事をしているかを見せるため外部に新政策をleakしているためとも思われる。(共産党中央政治局は無能な官僚は馘首すべしとも言っている)
 中央は中国経済の減速を新常態と称してあくまで経済が回復しているかのように見せるため政治問題とは全く別に日本企業を引き込み欧米に宣伝しようとの思惑もある。実際に日本の評論家の中には北京の中枢部と接触し中国経済は回復状態にあるとの見解を随時発表している人も多い。更にこれらの人は成都など中西部の発展に乗り遅れるなと進出を慫慂している。政府は中央がGDP至上主義を放棄したとはいえ実際に経済の好転が無ければ地方政府の信用に拘わるだけに最近は建ててからghost townとなってしまった住宅を公営住宅に転用する方式が流行っている。一部大都市ではこれによって不動産価額の下げ止まりも見られるが、これは飽く迄例外だ。一方巨大な工場団地などを開発してしまった地域も多いので、やはり日本企業を誘い込もうと言う動きがまた出てきた。悪く言えば日本企業がカモにされている。昨年11月頃からビジネス交流会、商談会の名目で日本企業へのapproachが増えている。特に東京、大阪でこの種商談会が増えている。
 天津市が毎年大阪で開いていた天津市輸出商品展示会を東京で開いた。商品としてはLEDの商談などがあるようで中国内で生産拠点を起ち上げるので天津市で工場を探して欲しいとか、アパレル製品のOEM生産の拠点を探したいと言った話があるようだ。天津市は既に別稿で触れたように港には巨大コンテナーターミナル、精油所、石油化学コンビナート、造船基地を造り、工場団地を初め街中如何に企業誘致をしても不可能なほど工業団地及び関連施設を設け、一説には既に市の財政は破たんしているとの噂もある。そこで大阪のみならず東京にも手を広げようとの思惑もあろう。
 一方、深セン市ハイテク産業投資環境セミナーが昨秋大阪で開かれ、浙江省,雲南省も大阪でセミナーを計画中の様だ。中国側がまず大阪に着目するのは中国ビジネスに最初に入ったのは大阪の繊維関係企業とか大阪の繊維機械企業で既に30年以上の関係がある。但し取引内容は大幅に変化し、繊維関係も既にベトナム等中国以外のアジア全域に広がっている。恐らく昔の馴染みで中国側も大阪に接近するのであろうが中国ビジネスも内容が繊維から他の業種に拡大し、繊維ビジネスのOBもコンサルタントとしては無理なので最近は東京にも接近しているのかもしれない。一方広東省の市では現地で投資環境説明会を開いているところもある。この日本企業誘致の動きを最近の中国政府の産業政策の動きと共に見ると地方政府が日本企業誘致に走る思惑が良く見える。

#国有企業独占時代に後戻り

 中国北車と中国南車が合併し世界最大の車両メーカーが誕生した。一方中国石油天然気集団(CNPC)と中国石油化工、中国船舶工業と中国船舶重工の大造船会社、などの統合も遡上に挙がっていると言う。これら大手企業は90年代に独占の弊害を除き競争による効率化を求め分割されたものだが、産業の競争力強化をめざし、規模で世界のライバルを引き離そうと言うもののようだ。ところが再び元の独占時代に逆戻りをしているように見える。(紹興遠東石化は輸出用の繊維製品の原料となるテレフタル酸=PTAの最大手であったが新規参入が続き供給過剰となり最近になって破産申請をした。世界の最大手となった国営企業も多いが大手だからと言って収益が高水準とは限らない。いずれも供給過剰で価格競争となっている。レノボは業績悪化により3200人の人員削減をするなど大量生産で高成長を追求してきたがここにきて過剰生産問題が顕在化している。「経済の量から質への転換」を政府は謳うが実現は困難だ)

#製造大国から製造強国へ

 人件費の上昇などで輸出競争力は低下しつつあるが、中央政府は「製造大国から製造強国への転換」を打ち出した。2014年の世界シェアでは鉄鋼49%、造船39%、自動車24%等トップの分野が多い。また受託生産のパソコン、スマートホーンなども大きなシェアを誇っているが内容は内需依存型か低付加価値の輸出用組み立て型が多い。実際に繊維、玩具、靴などはベトナムなどに移り、中国の産業自体が高付加価値分野に移行せざるを得ない状況となっている。但し実現は困難であろう。

#目下の最大の問題は過去の過剰な設備投資 

 中国経済で何時も問題となるのが設備投資だが、設備投資がGDP(国内総生産)の45%ほどを占めると言う異常な構造が長年続いてきた。先進国では設備投資はGDPの10%強程度で、高度成長期の日本でも20%程度が最大であった。設備投資がGDPの45%の中国経済では他の先進国経済では想像もつかない過剰な供給能力が蓄積されていると見るべきであろう。過剰な供給力の問題を覆い隠してきたのが株式バブルだと言う説もあるが過剰供給力の削減が本格化すると中国経済は長い不況に苦しむと言う悲観論も多い。

#揺らぐ中国の産業政策 

 投資、消費、輸出がいずれも不振だが、前述の過剰設備問題があり新規投資を阻んでいる。90年代後半から政府は内需振興を謳っていたが未だに投資と輸出に依存する経済となっている。

#New Normal(新常態)政策に対する批判 

 共産党内部は対外的には一枚岩のように見えるが、New Normal政策に対しては政府内部で意見の対立があるようだ。前述の設備投資過剰のため鉄鋼、造船、石油化学等過剰設備の削減が叫ばれているが、実現は不可能に近い。地方都市の不良債権化した不動産処理も進まない。既得権益集団との争いではあるが、New Normal政策ではこれらの処理は無理で金融緩和により需要を喚起すべしとの意見は依然強いようだ。
 New Normalは経済成長鈍化の言い換えだとして新たな戦略のような印象を与えるべく、引き続き7%程度の高成長を堅持するとの方針となったようだが、実際には習政権下で焦りもあるのか人権抑圧と言論統制が激しくなったのも事実だ。

#ミドルインカムトラップ(中所得国の罠)をすでに意識した議論も

 一人あたりのGDPが3,000ドル、5,000ドルと発展して行くと蓄積された矛盾が集中的に爆発し、一人当たりGDPが一万ドルの高所得国の列に加わることが出来なくなると言う中所得国の罠だが、中国政府の高官もこれに警報を鳴らす人も現れている。問題点として指摘されるのは@高齢化社会に急速に突入(その為には最低年5~7%の経済成長によってゆがみの是正が必要)。A中所得国の罠にはまらぬ為の対策=農業改革 一般的には農産品に対する補助金の削減などだが、実際には農産物輸入の拡大を図らねばならず、困難が伴う。
 一方中国の場合共産党政権は農民の犠牲のもとに成り立っているとも言われ、戸籍改革、労働関係、土地取引等解決不可能なものが多い。

#対中ビジネスの二極化

 マスコミなどでは成功例が派手に報じられるが実際には小売り、物流といった第3次産業がむしろ機会を狙っているといえよう。一方一般の日本企業は依然として中国進出には消極的だが、中国の中央、地方政府とも何とかこれら日系企業を取り込みたいと言うのが本音だと思う。日本の中国通の中には知らぬ間に中国政府のスピーカーとなって彼らの代弁をしている人も多いが、最近の中国政府の態度はまず日本企業を取り込みたいとの意思が明らかとなっている。日系企業の場合、まず関係官庁と友好的に業務を行いもめごとはなるべく排除したいとの配慮がある。更に租税公課等は他国企業より取りやすい。もっと言えば技術移転は日系企業に色々難癖をつければ他国企業より容易で製造強国を目指すには日本企業を巻き込むのが最速と見ているのではないだろうか。

#日本企業誘致に動く日系コンサルタント

 この動きを加速させているのが山西、安徽、江西、江南、湖北、湖南などの6省だ。西部大開発や東北振興などの政策の陰に隠れ日が当たらなかったが、この6省の総面積は全国土の10.7%人口は総人口の27.3%で農業中心の地域ではあったが経済の急減速による政権の命運をかけこの地域の活性化に政府も力を入れると宣伝されている。(山西省は石炭中心経済なので振るわないが、その他は農業地域で安定している)湖北省の武漢が目下建設ラッシュに沸いている。中国の地方都市開発パターンはどこも同じように交通インフラ整備に続き開発区、市街地を造り,幾つものshopping centerを造り建設ラッシュが起こるが途中で資金面の問題などから建設がストップするといった状態が起こる。武漢ではイオンが中国内でも最大級のshopping mall 2号店が完成に近づいている。(1号店は昨年12月に開業、内部にはニトリ、吉野家などが入っている)元々ホンダ、GM,ルノーなどが新工場を武漢に建設し、部品メーカーも周辺に進出していたが、自動車も過剰生産が指摘され前途は険しい。
 中国経済の発展に伴い日本人、中国人のいわゆるコンサルタントが無数にいる。それぞれコネを使って地方政府に食い込んでいたが経済の減速、企業の撤退に伴いコンサルタントも職を失ったが、彼らは中国以外の知見はないので政府の施策に沿って中部地区にコネを求めて移動し、日系企業の誘致に励んでいる。これらコンサルタントのほかに日本国内の評論家の中には中国政府の意向どおりに動く人も多い。元々政府内のコネに頼るので無理からぬ面もあるが、彼らは日中関係の改善をうたい、特に昨年11月の日中首脳会談以後二階ミッションとか日中関係改善をうたい、中国側も地方政府・企業が表立って日本企業の呼び込みを行えなかったが、ここにきて一番組しやすい日系企業に目をつけ攻勢を仕掛けてきたともいえる。

*注;本稿を書いている時に天津爆発事故が伝えられた。例によって政府は一切の情報の拡散を禁じているため本件についての影響として当然海外企業の撤退などの動きも出るであろうが、天津市は共産党政権の直轄地(徳川幕府の直轄領と同じ)なので市の財政が破たんしていようが現政権のメンツにかけても企業誘致(地理的には日本が一番狙われやすい)に励むであろう。


以上


 

 

 

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更新日:2015/10/01