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中国ビジネスの行方 香港からの視点
人民元の国際化は可能なのか
2015/10/1
湾仔
最近中国政府とその関係者は人民元が米ドル/Euroとともに日本円、英ポンドを抜いて第3の国際通貨になると盛んに宣伝している。問題は実際に人民元を受け取っても使い勝手が悪く,嘗てのバーター取引のように見返りにすべて中国製品でも輸入しない限り人民元を受け取っても無理が生ずる。実際にベネズエラが石油代金の見返りに人民元決済を受けたが使い道に困り、同国経済も混乱している。
キャノングローバル戦略研究所のAdvisor堀井氏は人民元の国際化は世界のfinancial
systemに大きなimpactを与えるのではとの設問(英文)に対しIt may possible do so in 22nd
century but highly unlikely in this
century と回答している。その理由として近い将来人民元がmajor international
currencyとなるにはいくつものhurdleがある。Euro/日本円は米ドルに次ぐ国際的通貨だがその国際通貨としての重要性は米ドルに比べ極めて小さいものだとしている。実はこの意見に同調する見方は多い。一方すでに中国内で金融取引を進めている金融機関などの関係者は中国政府と同様、国際化は意外に早く進むと説明していた。上海株式市場への政府の極端な介入、人民元切り下げなど国際化を阻害する要因が出てきたが{CITIC傘下の中信銀行のエコノミストなどは2018年には人民元の自由兌換が実現する、さらにSDR(後述)にも60%の確率で採用されると強気の発言をしていた―― 一般には2020年頃の為替の自由化を唱える説が多い}人民元の国際化進展を唱えていた人たちがどのように解釈するのか興味のあるところだ。金融専門家の見方とは別に中国を取り巻く環境からこの問題を見てみたい。
#人民元の国際化
従来の中国の銀行制度は外部から見ると誰が見ても金融システムのゆがみが目に付く。金利規制による巨大国有銀行への利益保証が30年以上続き、いわゆるshadow
bankingが拡大した。一方、通貨の国際化とはhard currencyであり国際基軸通貨(key
currency)であることが条件だと思われるが、この意味では人民元はlocal currencyでinternational
currency ではない。国際通貨として重要なのは信用力と利便性、つまり信用があって使い勝手が良いことだと思うが、国際化の前提は自由化であり、自由化の為には国内金融システムの市場化が必要だ。
#金融自由化の3本柱
*預金金利の自由化*為替レートの自由化*資本移動の自由化が当面の課題だが、金融自由化の可能性については「国際金融のトリレンマ」の中で考えるとわかりやすい。独立した金融政策、自由な資本移動、通貨価値の安定を同時に実現できないことを指しているが、中国は管理相場制度によって為替の安定を維持するとともに資本規制を緩めてきたがその結果資本流出とともに金融政策が本来の効果を失いつつある。デフレと過剰債務、過剰投資に苦しむ中国にとって金利政策が重要なカギを握る。この中でも預金金利の自由化は実現の可能性は高い。中国人民銀行(中央銀行)が上限金利を定めているので人々は理財商品を購入していると推測されて来た。その金利は4〜6%と人民銀行の定めていた法定金利の上限(一年もの3%)より有利だ。一方主要金融機関(国営)の貸し出し金利の平均は6.5〜7%なので度重なる金融緩和によって従来3%を確保していた預貸金利ざやは縮小し、金融機関の収益は悪化している。問題は欧州とか日本を襲ったバブル崩壊後の金融機関の取扱いだが、欧州では直ちに金融機関の国営化を断行したところが多く、日本では最終的に国が乗り出すのが遅れたが、中国の場合巨大銀行はいずれも国営のため一旦危機が起こった場合の処理は簡単ではない。為替レートと資本移動の自由化については日本でも中国政府の政策の同調者は(情報を中国政府筋からとるため、自然と政府発表の代弁となってしまう)盛んに2020年までには自由化との見方を発表しているが株式市場の暴落といった状態が起こると政府も金融自由化推進に慎重となるので更に遅れるとみるべきであろう。上海株暴落に対し政府はなりふり構わず対策を打ち出し、株価対策に5兆元の資金を投じたともいわれているがこれの後遺症は深刻だ。一般的に中国では市場原理は通用しないと認識され中国市場が国際化の流れから外れ人民元の国際化にもマイナスの影響を落としてしまった。
#人民元の利用が進まない理由
中国政府もその同調者も人民元利用が国際的に拡大していることを謳うが2009年7月に人民元建ての貿易決済を解禁してから人民元建て決済が確かに拡大しているように受け止められている。実際には貿易決済の大半は米ドル建てだ。2009年以来広州市、東ガン市、とか海外との取引の大きい義鳥市、天津市浜海地区などから全国的に解禁が及んだが人民元で受け取っても海外で人民元建ての投資などに運用できる分野はなく、中国内でも資本取引が自由化されていないのでこれがネックとなっている。今のところ人民元の国際化に乗り遅れまいとロンドンの金融街などは人民元利用を呼び掛けている。日本では三菱UFJが人民元建て債券70億円の発行を発表したがこれも中国側の強い要請に応えたもののようだ。中国政府の狙いは、IMFの準備資産であるSDR(特別引き出し権)への人民元の採用を目論んでおり、これにより米ドル、ユーロなどに次ぐ国際通貨としての地位を確立しようとのことだが、最近の株式バブル、人民元切り下げなど一連の騒動でこれも実現が危ぶまれている。
#ここでも不透明な問題が続出
中国政府発表のGDPの信憑性については「疑わしい」との認識が一般的となっているが嘗ては5%程度差し引いて考えるべき(2000年代に入ってからは7%との説もある)とされていたが、或る英社の電力消費量、鉄道貨物輸送量、銀行融資残高などからの試算では2014年GDP前年比3.2%、2015年2.8%、2016年1.0%との予測値が発表されている。いずれにしても中国政府発表の新常態7%には達しないが中国経済の減速から見ると妥当なところかもしれない。今まで経済成長がすべてに優先するとして成長によりすべての問題を克服してきたがここにきてこの方式は通用しなくなった。外貨準備にしても人民銀行の8月末の外貨準備高は3兆5,573億ドルと発表があったが、前月比939億ドル減で過去最大の減少額となっている。8月半ばの人民元切り下げで海外への資金流出を抑えるため外貨準備を取り崩し元買、ドル売り介入をした為と思われるが、外貨準備は実際に米国債とか基軸通貨に変えない限り不透明なものとなる。
中国バブルが崩壊した場合、最も困るのはアメリカの投資銀行などのグローバル金融機関との説もある。確かに4大国営銀行の不良債権が大幅に増えているとの話は一向に出てこない。一説には米系会計事務所も北京の顔色を窺い、不良債権の指摘はしていないともいわれている。
#実際には人民元の固定相場制が経済発展のカギ
元々過去10年の経済成長は不動産開発と輸出によるものであった。実際には元はドルにペッグして上下5%程度の変動幅で元の価値を維持しようとしてきた。いわば管理変動相場で(2005年7月に固定相場制から管理変動相場制に変更された)政府による人民元の固定相場化によって輸出も拡大し、中国経済も拡大を続けて来た。
ところが国際化を進めれば人民元も大きく変動する。更に政府主導で株式市場は乱高下するようになってしまった。(実際には株式市場の活性化で株式の新規公開/増資によって無償の資金調達ができていた)実際に現政権はこれにどのように対処してゆくつもりなのだろうか。
#市場経済化か統制経済化か2社択一を迫られる。
さて本論に戻り人民元の国際化だが、中国の最終目標は元をドルに準じた国際通貨にすることにあると思う。中国政府の最大の悩みは管理変動相場制を維持しつつ人民元決済規模を拡大したいというのが本音だが中国外で人民元建ての金融商品を自由に取引できるとなれば人民元の対ドルレートが大きく変動するようになり管理変動相場制を維持できなくなり今までこれによって経済発展してきた方式がたちまち崩れてしまう。
中国経済の問題点はすでにいろいろな指摘があり政府内部でも検討されてはいるのであろうが、国有企業が基幹産業の大半を支配しているため、その改革(民間企業の活性化)を実行しない限り経済の持続的発展は不可能となっている。ところが一党独裁政権であり、目下の習政権は権力闘争とも絡み汚職退治が政権維持の観点からも最重要事項だ。一方「党による国営企業への指導の強化」を謳い強大な国営企業群を造成しようとしている。(国営企業の利益は減少しており、これが財政上の問題となっている)確かに既得権益側の抵抗はあるとしても、国営企業改革が進まぬ限りさらなる経済発展は望めない。ある意味で中国は目下最大の選択を迫られている。再び統制経済型に戻るのか、或いは市場経済を目指すのかだがこの結論は簡単には出ないであろう。かくして人民元の国際化も更に遅れることとなろう。
以上
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