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中国ビジネスの行方 香港からの視点
 

中国企業の海外事業買収:シカゴ証取の買収まで目論む

2016/4/1

湾仔

 最近中国企業(殆どが国営だが民営といっても地方政府などが絡み準国営乃至は公営)による海外事業の買収が続いている。買収の目的は先端技術を自前で育成するには無理があるのでブランドと技術を買収によって獲得しようとするものが多いが、最近では目的のよくわからない買収まである。今回はこの背景を追ってみたい。

#中国化工集団の農薬・種子事業の買収
スイスの農薬・種子最大手のシンジェンダを430億ドルで中国化工が買収すると伝えられている。中国企業による海外企業買収としては過去最大とされている。
この背景にはこのところの世界経済の異変も関係している。食料価格は過去4年連続して下落している。新興国での農産物の需要の減少によるものだ。アメリカでもモンサントとかダウケミカルなども含め業界再編の機運が高まっている。シンジェンダも業績不振で身売りを図っていた。同社は遺伝子組み換え技術に強く収穫量の増大のみならず病害虫に強い遺伝子組み換え作物は中国側の渇望している技術で中国市場開拓も同社のtargetとなっていた。中国化工の場合イタリアのタイヤ大手のピレリの買収を行いつつあり、これはブランドと技術を獲得しようとするものだ。シンジェンダの買収は明らかに遺伝子組み換えなどの先端技術を狙ったものだが(本稿でも以前に触れた通り中国人による米国内での種子の窃盗事件が相次いだ、その後米国内で起訴されている)、中国内で遺伝子組み換えなどによるトウモロコシなどの増産を狙ったものだ。但しシンジェンダも米国内でのshareは大きくその買収には米国の規制当局の承認が必要とされているので果たして目論見通りすんなり行くか否か、しばらく成り行きを見るしかない。米国では当局の認可の問題で中国企業の買収が実現しないケースも増えているようだ。中国の国有企業で半導体事業の紫光集団が米ウエスターンデジタルへの資本参加が不成立となった。

#技術とブランドを求めて、更には不動産価格の上昇を狙って
中国家電最大手のハイアールがGEの家電事業を買収した。これは明らかに技術とブランドを得る目的だ。この買収劇の対抗馬はシャープを狙っていた台湾のホンハイであった。
一方ニューヨーク市の古い名門ホテル ウオルドルフアストリアも中国企業によって買収された。(2014年に中国安邦保険集団に19億ドルで買収される)地下の鉄路でグランドセントラル駅に直結し鉄道時代ならマンハッタン中心部に出られる極めて好立地だが、航空機の時代となり他にも高級ホテルがあるのでどうしてもウオルドルフという時代でもなくなった。国連本部も近いが、盗聴の危険性がありとて各国の代表もこのホテルから逃げ出している。
中国の構造変化は人民元安など市場の混乱要因を招いているが中国本土からのマネーの流出・米国などへの流入は今後も続くであろう。N.Y.の高級不動産の購入は大半が中国人投資家だ。マンハッタンの住宅不動産の価格は昨年末に過去最高と伝えられたが彼らはマンハッタンから更に郊外の住宅地に手を伸ばしている。グランドセントラル駅から電車で行けるウエストチェスター郡とかコネティカット州の住宅の新規購入は中国人が多いようだ。元々マンハッタンから白人が逃げ出し彼らが住宅地として開拓したところで日本人など海外からのN.Y.駐在員も住環境、子女の教育環境も優れているとして住み着いたところだ。(中国系による不動産取得は米国のみならず
豪州、日本などにも及んでいる。これは中国人特有の不動産信仰によるものだが政府の許可を得て海外で不動産に投資するので最終的には米国移住を狙う政府高官のものとなるであろう。尚、上述の安邦保険は米投資会社Blackstone Groupから16物件を65億ドルで購入し、更にStarwood Hotel &Resortsの買収に130億ドル提示と伝えられている、Marriott Internationalと買収合意と伝えられていたが安邦からの高額買収提案を受け白紙に戻ったが、Marriottが136億ドルで最終合意との報道もある)そのうち米国内の高級ホテルは中国資本となるかもしれない。

#ブランド買収
昨年立ち乗り電動二輪車を製造・販売している北京の企業が米国のセグウエイ社を買収したとの記事が香港紙に出た。セグウエイはこの機種では先発ですでに全世界で警備会社などに6万台以上の販売実績がある由で、この買収により数多くの特許と人材、生産ラインを売るのみならず世界規模の販売ネットワークを取得することとなる。買収額は不明だが、販売網まで獲得しようという戦略だ。

#大連万達集団のフランス進出
万達集団は仏小売り大手のAuchanと共同で33億ドルを出資しパリ郊外に大型複合施設を設けるという。同集団の王会長は人民解放軍出身だが35歳で大連万達を設立し不動産ブームで勢いに乗った仁だがハリウッドの映画製作会社レジェンダリー・エンターテインメントを35億ドルで買収するなどこのところ派手な話題を提供している。万達の場合中国での不動産市況に頼ることの危険性を十分知っており商業施設運営とか観光などサービス産業への転換を狙っている。そこで目を付けたのが映画館網の買収だ。すでに米国の映画館網を着々と買収し更には上述のレジェンダリーのような映画製作会社の運営を目指している。但し中国の不動産事業も上海地区の値上がりとかバブルの様相となっているのでバブルの決着次第ではどうなるのか暫く見守りたい。いずれの買収も1980/1990年代の日本企業のM&Aを参考にしているようにも見える。

#中国の投資家グループがシカゴ証取の買収 何を狙うのか
重慶財信集団を窓口とした中国投資家がシカゴ証券取引所を買収するとのnewsがあった。米証券取引委員会の承認が取れることが条件となるが重慶財信は中国の成長企業の上場とか将来はシカゴ証取を参考にして重慶に証取を開設したいとしている。シカゴの場合
Chicago Mercantile Exchangeの傘下にChicago Commodity Marketがあり世界最大の商品市場(デリバティブ取引場)となっているがシカゴ証取は米国でも最も規模の小さい証取でシカゴ側としては資金面での中国の参加は望ましいであろうが中国側の意図がはっきりしない。このところ上海株式市場の混乱が続き海外の株式市場にまで悪影響を与えたがこれも北京の官僚が考えた苦肉の策ではと勘繰りたくもなる。

#世界の総合取引所は拡大路線
日本では株式、証券、為替などの派生商品からコモディティー・デリバティブ取引まで幅広く扱う総合取引所の実現を民間は渇望してきたが経産省など所管官庁の縄張り争いもあり法改正や閣議決定はなされてきたが実現には至っていない。今年の2月にロンドン証券取引所(LSE)とドイツ取引所との統合交渉が明るみに出た。両取引所とも各地の取引所統合では名前の挙がる常連だが規制当局の承認などまだ先行きは不透明だ。実現すれば世界最大のシカゴのCME,ニューヨーク証取を傘下に持つInterContinental(ICE)取引所、香港取引所(先にLME=London 金属取引所を買収)などと並ぶ大取引所が出現する。一部の報道ではロンドン証取とドイツ取引所は経営統合に合意したとの発表があったが問題は独禁法上の規制をクリアーできるか否かにあり、結論は先送りだ。

#商品先物市場
アジアでも商品先物市場の競争が激しさを増している。相場変動リスクに対するhedgeは必要で今後も先物市場は成長するとみてよい。単なる中国マネーの呼び込みだけでなく、中国経済の構造変化は避けられず、この変化を先取りしているとみることもできる。一方、ここ数年中国の爆買いもあってアジアの商品先物市場は激動期にある。中国が原油先物取引を上海で始めると伝えられると米ICEもシンガポールにアジアで初めての取引所を立ち上げた。彼らの狙いは中国の個人投資家と中国人特有のヘッジファンドなどの運用会社が続々と生まれているのでこれらとの売買が目的だ。中国人は元々投機的な取引が好きで規制もあって活動の場がなかったがここにきて政府主導の商品先物市場ができるとなって取引所の業容拡大が過熱した。すでに菜種ミール、大豆ミール、砂糖などの食料のみならず鉄筋(上海)、銀(上海)、鉄鉱石(大連)など次々と先物取引所ができている。
香港およびシンガポールを経由して中国マネーが海外投資に流れている。シカゴのCMEが金先物取引を中国で始めたがその後あまり噂が出ないがおそらく伸び悩んでいるものと思われる。過当競争によるものであろうが、問題は人民元切り下げとか、ファンドの取り締まりの影響もあろう。日本の大手原油トレーダーによると実需家も含め当局の取引制限など不安要素もあり様子見のようだ。昨年来の上海株急落の場合など当局が必要以上に介入を繰り返し、大批判を浴びたが商品先物でも当局の意向でいかなる規制が起こるかわからないという不安がある。更に人民元建ての取引であることもドル取引を期待する海外投資家に不評だ。中国の先物価格がアジアの指標となることで中国が商品調達価格を主導できると考えているのであろうがそれほど簡単ではない。
本題に戻って、シカゴ証取に目を付けた理由だが単純に考えれば全米でも最小規模の証取なのでここを足掛かりとして将来中国内で証取開設の準備のためというのもあまり説得性はない。
何れにしても背後にいる米系金融機関がシカゴ証取なら米国での許可も取りやすいとadviceした可能性がある。上海証券取引所に新興
産業向け株式市場を創設するとのideaもあるようだがその辺もこの動きと絡んでいるとみるべきであろう。中国証券監督管理委員会のトップが2月末に解任されたが中国政府内でも証券取引にかなり神経質になっており米系金融機関も更に稼ぎどころを狙っていると思う。以上みてきたように中国資本のM&Aはいろいろなねらい目があるが、監視を避けて海外に資本流失を図るにはM&Aが合理的な方法でもある。


以上 

 

 

 

 

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更新日:2016/03/29