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中国ビジネスの行方 香港からの視点
 

一帯一路構想に見る中国の野望

2016/10/1

湾仔

2015年中国企業は60ヶ国、4,000のproject,総額926億ドルの契約に調印した。中国の過去の海外でのprojectの契約の累計の44%にもなるといわれている。この背景には特にアジアで圧倒的な経済基盤を持っている華僑の存在が見逃せない。一般の中国企業も国際化が進みつつあり、インフラを中心とする投資によって新興国との共存を目指そうとするものだ。
一方、一帯一路構想はあくまで政府主導型なので人民元の国際化も当然この構想の中に入っている。人民元の域内での流通が中国企業の財務上のリスクを軽減し、取引コストの削減、更には競争力を高めると踏んでいる。
この構想は陸ではsilk road沿いに欧州まで経済ベルトを、海にもsilk roadを設置し、欧州に至るというものだ。但しこの構想が生まれた背景には今やかなり深刻となっている中国経済の国内問題の解決策がある。
即ち国内経済の停滞、国内投資の効率性の低下、沿海部、内陸部の所得格差の是正、外貨準備の低運用効率、資源・エネルギー不足、生産設備過剰の国有企業。中央政府はこれに人民元通貨経済圏の構築を目指している。アジア全体で見てもインフラ整備の必要性は良く分かるが、インフラのレベルが低く、財政面で問題が多く、インフラ事業のファイナンスができていない。(そこで中国政府はAIIBを立ち上げたがアジア・太平洋地域21ヶ国、旧ソ連7ヶ国、中東9ヶ国、欧州17ヶ国、米州1ヶ国、アフリカ2ヶ国が参加国となっている。最近カナダが参加を表明し、日本国内でもAIIBにぜひ参加すべしとの声が再び上がっているが、中国主導であり運営の透明性もないので更に模様を見るべきと思う)

#中国の国際収支の変化
中国の経常収支は2007年ころをピークとして下がっているがこれは国際収支の構造が輸出主導から国内消費へと転換しつつあると中央政府は説明する。
総売上高に占める輸出の割合を見ると2000年前半は20%を超えていたが2007年ころより10数パーセントとなり最近では11%程度となっている。問題は、消費は最も不透明な部分で最近でも小型自動車に対する補助金政策の延長など消費の実態が掴めないという問題がある。但し今後のGDP統計などでは消費に重点が移るので通販取引等のかさ上げがどの程度なのかとかいろいろ議論を呼ぶであろう。

#中国経済における国内経済の問題点
国内経済刺激策として中央政府は種々の投融資を行うが中央政府の出資はごく一部で大半は地方政府或いは国営企業の負担となっている。そこで地方政府、国営企業は金融面で過剰な借り入れを行い、目下過剰債務が問題となっている。銀行の不良債権も増えつつあるが巨大銀行はいずれも国営であり、最終的には中央政府が処理することとなる。また、地方政府の過剰債務も財政収支がある程度均衡していれば中央政府での処理も可能で、今までは好調な経済成長に支えられてきたがこれからの処理には注目する必要がある。中央政府もここ2ヶ月ほどは財政収支が好転していることを盛んに発表している。単なる推論だが地方政府・国営企業の過剰債務については中央政府も自らある程度処理可能と踏んでいるのかもしれない。更に不動産のバブルについてもどこかの時点で処理可能とする意見が多数なのかもしれない。中国の不良債権についてはIMFはじめ種々の機関で指摘されているが最近の日本総研のreportによると中国の全ての機関が抱える潜在的不良債権残高は15年末で約190兆円と試算されている。中国政府の公式統計の約10倍となるがそれでも中国政府は金融機関への公的資金投入は可能とみているのだろうか。不良債権処理がうまく進んでも残る最大の問題は過剰設備の処理問題となる。更に習政権は所得倍増を謳っており(2021年中国共産党設立100周年までに一人当たりGDPを2010年の2倍に)、このためには6.7%成長は必須となるが公式統計を発表する側でもいろいろ苦労することであろう。

#鉄鋼だけに留まらない過剰
鉄鋼、石炭、セメント、造船、海運、電子部品とほとんどの産業で中国の設備過剰が問題となっている。更に最近指摘されるのは石化製品だ。石油化学は中国で自給できない製品が多く、逆に中国内で増設に動きやすい。既に日本の石化業界も三菱ケミカルはポリエステル原料の高純度テレフタル酸事業の見直しに迫られている。昨年度20年末までにアジア地域のPTA設備は1,600万トン増えると見ていたが実際には過去1年で600万トン以上増え2,200万トンが増設されることとなり世界の60%以上を占める中国の設備増強は止まらない。これは中国政府が石化産業育成を未だに掲げていることによるが、三菱ケミカルなどは中国、インドの子会社が操業しているポリエステル原料事業を近隣の企業に売却すると発表した。鉄鋼などすでに問題となっている業種の場合、中国政府も設備廃棄とか操業停止に踏み込まざるを得ないが石化など新たな分野での設備過剰はこれから次々と明らかになるであろう。
一方でデフレの輸出と言われた雑貨なども物流網の整備によりそのまま続いている品目もある。最近では中国産のtissue-paperが超安値で日本市場に現れた。

#鉄鋼の過剰設備
中国の鉄鋼設備の過剰問題は国際的な問題に発展した。丸い数字で表すと中国の粗鋼生産量は年間約8億トンで世界の生産量の半分となる。4億トン以上が過剰生産能力とみられている。昨年度の輸出量は1億1千万トンで日本の生産量を超えている。日本でも製鉄業は「鉄は国家なり」と産業界をリードしてきたが、高度成長期もあり生産設備の過剰が問題となっていた。長い間のいわゆる鉄冷えがあり鉄鋼業界も過剰には神経質になっている。一方中国では地方政府中心に製鉄所建設に熱心で、大半が国営でもあり今言われているゾンビ企業の温床となっていた。最近中央政府も強権を発動し製鉄所の整理統合を謳っているが進捗状況は芳しくない。最近では宝山と武漢鋼鉄という世界的にも巨大な国営製鉄所の合併が発表された。但しそれぞれに利権を持つ高級幹部がいるので設備廃棄などにはまだ時間がかかるであろう。この2社の合併は世界最大のアルセロール・ミタルに次ぐ第2の製鉄所となるわけだが合併は簡単ではない。鉄鋼に限らず他の分野でも大国営企業の合併が議論されている。中央政府としては国営企業の整理統合を優先課題としているが国営企業そのものは高級幹部の地盤でもあり、その幹部が更に中央政府の誰と親しいのかとか人脈がすべてを握る国だけに選択が難しい。そこで超特大企業の場合、幹部は何れのパイプも持っているので手を付けやすいと考えられる。鉄鋼の場合、工場閉鎖による失業問題などのほかに毛沢東の大躍進政策との関連を指摘する声もある。1958~1961工業、農業の大増産政策が採用され、結果は中国経済の大混乱を招き3,000~5,000万人の餓死者を出したとされている。特に鉄鋼の大増産を目指し原始的な溶鉱炉を用いた製鉄所が全国の都市、農村に展開された。同時に建設資材として全国の歴史的建造物も解体・破壊されたという。この当時の流れをくむ製鉄所がいまだに各地で健在で地方政府がこれを保護しているといわれている。実際に鉄鋼の国内価格が上向くと地方の製鉄所も鉄鉱石の買い付けに走り、製鉄所が再稼働するなど不可思議な動きが多い。確かに中央政府でも手を出しかねる問題ではあるが、最終的には力のある地方政府傘下の製鉄所が残されることになろう。

♯一帯一路で中西部地域も支援
中央政府のもう一つの狙いは沿海部と内陸部の格差の是正だ。格差が開きすぎ簡単な是正は困難としても問題を抱える新疆ウイグル自治区などを中国内に抱え込みたいという野望はある。そのほか甘粛省、青海省,など漢民族以外の自治区なども陸路で繋ぎ一体化を図りたいというものだ。同じ問題を東北地方(旧満州)でも抱えている。黒竜江省、吉林省、遼寧省だが毛沢東時代から旧満州は旧ソ連に返してもよいというムードがあったが、ここに来て一帯一路に相乗りしようとの動きが出てきているようだ。

#一帯一路構想の足かせ
人民元の国際化は習政権の最重要政策の一つだが、ここに来て外貨準備の減少という問題に直面している。勿論、金融全般の国際化とかやらねばならぬことは多いが、実際に人民元はかなり下落している。そこで為替介入をして人民元の下落を防いでいるが、これは外貨準備の減少につながる。更に色々報じられているように資産家は自己資産を急いで海外に持ち込もうとしている。いわゆるホットマネーの流出だ。更に中国企業は海外投資を活発に行ってきたが、ここに来て失敗例が表に出てきている。セクター別にみてもエネルギー、運輸、金属、農業、金融不動産と多岐に渡っている。

#Why China’s One Belt, One Road plan is doomed to fail
8且6日の香港紙South China Morning Postに上記のようなタイトルの記事が載った。中国の野望については1石2鳥どころか1石4鳥を狙っているとしたうえでバブル後の1990年代に国内の余剰な建築業のはめ込み策としてアジアでインフラ建設に乗り出し失敗した小渕内閣の例を挙げている。小渕内閣は短命でもあったがアジア全体でインフラは重要だが、各国のインフラ事情はかなりレベルの低いものでこの事情は20年以上経った今でも変わりがない。projectとしてみた場合、人民元決済は人民元の国際化のためには必要であろうが短期的にはオフショア市場での人民元の売りとなるので人民元の安定性が損なわれる。(そこで人民元の国際化と一帯一路政策の優先順位を明確にする必要がある。又人民元の下落によるproject cost の上昇は避けられない。ただ素人目で見ても習近平が中国の夢から始まり、一帯一路もその一環として野心的に宣伝しすぎたきらいがあり、各高級官僚がそれぞれの立場によって推進しているため場当たり的となっているきらいがある。何れにしてもすでに多くのprojectで利益が上がっていないとの指摘もあり、収益性には疑問がある。アジアではprojectに汚職が付いて回るが汚職大国の主導でもあり汚職の温床となることも危惧される。


 

 

 

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更新日:2016/09/30