中国ビジネスの行方 香港からの視点
何でもCITICに丸投げするが?次はマックとケンタも
2017/3/1
湾仔
2016/06/28の本欄で「香港を代表する企業 Li & Fung のビジネスモデルをCITICは超えられるのか」という記事を書いた。
Li & Fungの場合、米国Walmart,英国Marks & Spencer,
Sainsbury’sなどの巨大小売業のvenderとなって中国の安い労働力を駆使して大量生産、大量販売と言うbusiness
modelを作った。同社の成功は生産拠点を多角化したことで中国・アジア全域に商品別に生産拠点を分散させ自前の工場を持たない在庫を持たないと言う身軽な経営をベースとしていた。ところが中国での急速な賃金上昇、中国経済の減速などもあり同社の株式も大幅に下落したので消費財の卸売り部門の売却が検討されていた。
尚、同社は有名ブランドの買収を数多く行っており今後はブランド中心の販売に移行するものと考えられている。
#売却先はCITIC
一方卸売り部門の売却先はCITIC(中信集団)と伝えられているが、CITICは元々赤い資本家と言われた栄毅仁が作ったもので、中国政府の中枢に入り込み国務院管轄の大国営企業集団となった。中国中に拠点を構築し外貨不足の時は外貨集めに協力するなど政府の手足となっていた企業だ。(広州では日本の大手銀行も大損害を被ったこともある) CITICそのものは金融業中心で上海株式市場での政府の介入は中信証券が行っている。地方政府・国営企業などの過剰債務などもCITICが噛んでいるとの見方が多い。CITICの場合、金融取引から派生したドイツの洋上風力発電に投資するなど最近はいろいろな業態に手を出している。香港紙によるとCITIC
Capital
Partnersと言う投資ファンドを組み従来アパレル・靴などに投資していたが更に日本で300億円程度の企業買収ファンドを立ち上げ医療・高齢者介護などの分野で企業買収を行いアジア全域に販売網を広げようとの計画もあるようだ。
#表に出ない華潤集団
元々この種の販売では華潤が中国では最先端を行くと考えられていた。華潤の場合、もとは対外貿易部の傘下で政府そのものと思われていた。実際に華潤は、次々と中国本土の大手小売りを傘下に収めてきたが最近はe-commerceに押され小売りやshopping
centerも不振ですでに実働部隊はCITICに移っているとの見方もある。
#米マクドナルドとかKFC(ケンタッキーフライドチキン)もCITICに
この報道は香港紙によるとマクドナルド(以下マック)の場合、中国で鶏肉の加工処理で不良品を従来から使用していたと消費者から指摘され大問題となり中国マックは経営不振に陥った。更に中国全体でも飽和状態となりマック本社も中国事業切り離しを決断したものとしている。ケンタッキー中国(以下KFC)も不良品問題で巻き添えとなった。(日本ではすべて国産品を使用しているので問題はないが)KFC中国はすでに中国全土に展開し、これ以上の大幅な拡大は望めないと決断したとしている。両社とも店舗拡大には華潤と組むのが普通だが、中国からの撤退は意外で中国最高指導部の見えざる影響も推測される。中国は世界の工場から内需主導型に移行しようとしているのでGDPの軸を製造業からサービス産業に移しつつあり、この意味でCITICに丸投げするのは北京の高級官僚らしい発想だ。KFC及びピザハットなどは中国全体で7,200店を展開していたが地元勢との競争激化と前述の食の安全に対する認識が中国人の間で広まり2010年頃がピークで12年以降はむしろ下降気味との現地情報も出ている。それによると2012年40%のshareが2015年は23.9%にまで落ちたとされている。
一方、マックは中国全土に2,200店を展開しているが現地情報によると2013年16.5%のshareが2015年13.8%まで落ち込んでいる。
両社とも半世紀以上にわたる中国展開で最初は中国になかった洒落た店舗とかサービスが受けたが、長い年月の間に人々の信頼感とか期待感が希薄になったとも考えられる。中国マックの場合、店舗数では米州以外では最大で、中国展開では米国企業の先駆けとされ中国で金を掘り当てたともてはやされた。又、時価総額20億8千万ドルとも言われている。問題はマック・KFCとも賞味期限切れの肉を業社が売っていたと当局が発表したことで、これまで食の安全に関してはあまり関心がなかった人々を啓発・誘導したことにある。
#KFC不買運動
南シナ海問題でハーグの仲裁裁判所が「中国の主張に法的根拠はない」と判断したが、中国側は国家主席以下外務大臣までこの判決を無視した。そこで愛国心をあおり一部のKFCの売店で不買運動が行われたと報じられている。ここまで来るとまさに中国式世論誘導策そのものだ。更に香港紙によるとマックの場合も中国市場からの撤退にWall
Streetは歓迎しているとの報道もあり、次の中国市場戦略ではCITICに米大手投資fundのカーライルも出資するとも伝えられている。元々フランチャイズビジネスとかroyaltyなどの観念がなかったのでこれまでの店舗展開では中央・地方政府の説得に多大の時間を要したとみられている。
#CITIC の動き
今市場での噂さでは中国のマック事業部門を対象に今後20年にわたりフランチャイズ事業を展開する会社を設立(現在マックは2,200店展開しているが今までは殆ど直営店でフランチャイズの概念がなかった中国本土では、直営以外は許可が取れなかったという事情もある。)今後5年で本土・香港などでフランチャイズ店を1,500店openし更に地方、中小都市に広げるとの構想のようだ。資本構成はCITIC52%、カーライル25%,マック20%との報道もある。フランチャイズ化によって直営のようなコストがかからない利点もある。一方royaltyは通常3%だが、中国フランチャイジーには6%要求すると言われている。
KFCはピザハット、タコベルなどを抱えたヤム・ブランド社が中国事業を展開してきたがおそらくマック同様中国政府の方針どおり、中国の店舗網はCITICに買収されるものと考えられる。一般にはKFCはマックに道連れにされたとの見方もある。実際に米国ではKFCは好調と言われている。(KFCの抵抗に対し中国政府はKFC不買運動などを起こし政府に従うよう強制した)この交渉は更に時間がかかるであろうが(中国現地consultant会社が商務部に異議申し立てを行っているとの話もある)、更に米国新政権が対中強硬方針を出しても最終的には中国政府の方針として承認されるであろう。米国のトランプ政権はGoldman
Sachs(GS)出身者も主要閣僚におり、すでに米側との調整は終わっているとみるべきかもしれない。従来からKFCの場合などは数年でownerが次々と代わりM&Aのtargetとされてきたが、今回はマックもKFCも少数株主として残るのは不思議だが、これも中国官僚の発想なのだろう。
#CITIC株主の動き
海外株主として日本の伊藤忠とタイ最大のコングロマリットのチャロンポカパン(以下CP)がいる。伊藤忠の場合、各営業部門にCITICとの新規取引開拓の圧力があるとは思うがgrain
tradingなどの延長線上で自然に取引が増えるとみているものと思う。一方CPにとってはもともと飼料・畜産はドル箱で従来から中国の畜産業はCPの縄張りでこの機会にマックの中国・チキンをタイ・チキンにしたり、(養豚の飼料はすでにCPがかなりの部分を握っている)養鶏の分野に入ることを狙っていると思う。ただし最近の中国の農産物備蓄量・需要については政府の秘密保持、計画経済に沿って作られた統計の不備によって混乱が起きている。本欄でも穀物備蓄を政府は常に十分にありと謳うが実際には備蓄は横流しされているという記事を書いたが、最近は穀物の供給過剰という突然の事態に業界は惑わされている。今までは中国の穀物消費量は供給を上回ると判断していたが、中国政府は穀物価格の維持のため余剰農産物の買い上げに走り備蓄用の倉庫が不足する事態となっている。
供給過剰の代表はトウモロコシで一般には備蓄は6ヶ月としているのに中国側の民間アナリストは1年分以上あると見ている。中国経済も減速し農産物需要も減退しているのでCPとしても実際の消費サイドから実態をつかもうと考えているのかもしれない。穀物は4年連続世界的に豊作続きで供給過剰と見られている。一方中国内では飼料需要は拡大している。不思議なことに16年9月ころから中国は米国産大豆の輸入を急拡大させている。トランプ政権との貿易摩擦を避けるべく手を打っていると見るtraderもいる。
いずれにしてもマックとKFCをも巻き込んだこの合弁交渉の行方はしばらく注視する必要がある。