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中国ビジネスの行方 香港からの視点
香港はどこに行く
2017/8/1
湾仔
7月は香港に嵐を呼ぶであろう。習近平が香港返還20周年に来港し、中国初の空母の寄港など波乱要因がいくつもある。
7月1日には林前政務官の行政長官就任がある。初めての女性CEOだが2001年迄香港政府No.2の政務官を務め穏健民主派を代表する人物とされている、敬虔なクリスチャンでもあり,北京政府の支援を報じられているが、しばらく模様を見るべきであろう。同じく香港政府でNo.2を務めたAnson
Chan は穏健派の代表格だが今までも香港のメデイアに繰り返し載せているがその主張は傾聴に値する。
“現在のように香港の自治に絶え間なく干渉し、自由な言論や基本的人権を制限すれば反発が強まるだけだ。私は一部の人々が主張する香港独立運動には賛成しない。中国が独立を許すことなどあり得ず。対応を硬化させるだけで逆効果だ。Key
pointは本当の意味での普通選挙の実施だ。返還時、07年までに実施するとしていたのに全く進んでいない。20年前の返還時、ここまで香港の自由が浸食されると思っていなかったのは認めざるを得ない。特に政府に批判的な書籍を扱う書店関係者の失踪事件は深刻に受け止めている。内一人は香港の中で連れ去られた。しかし、将来を悲観してはいない。一国二制度を堅持する限り香港は中国や世界の経済に貢献できるだろう”。
実際にこの20年でここまで香港の自由度が浸食されるとは誰も予想しなかったであろう。20年前、1国2制について中国側はone
countryのone を強調し、香港側はtwo systems のtwo を強調していたがいつの間にかone
countryが主流になってしまった。トウ小平以降胡錦濤政権まで台湾問題もあり、1国2制を堅持していたが、習近平の場合は党内での基盤確保とか軍の掌握の問題もあるが、自らに最も近い部下を次々と起用したので共産党内でも汚職摘発運動もあり高級官僚もそれに習って香港の民主化運動を徹底的につぶそうとしたのであろう。一方学生とか青年層に愛国心を植え込むべく大学中心にこの種の教育を強化したことも本件に絡んでいる。最近の工場での雇用についても地方政府もなれていないのか再雇用の場合もめるケースも有り、(深セン,広州では就労許可でもめるケースが多い。外国人就労許可制度との混同もあるようだ)いずれにせよ締め付けは益々厳しくなっている。最近北京の留学生からの連絡では7月1日付けで各空港の入国管理で二重国籍者は両方のパスポートの提出が義務付けられ、違反者は即刻中国国籍が抹消される事となった。と言うが香港では二重国籍は当たり前で米国などに留学している人はどのような影響を受けるのであろうか。又大学内でも全ての授業が中央からの検査官が監督する体制となっており一種の戦時体制のような雰囲気だと伝えてきた。ここでも習近平体制を忖度し末端はより強度な締め付けを行っていると見るべきかもしれない。それにしてもポンコツの空母を持ち出し(日本のマスコミではこの空母を旧ソ連時代のポンコツとしているが近隣諸国を威嚇するには十分で物流の拠点で,繁忙な香港港に迄持ち込んだ事はおそらく軍との関係強化の意味があるのであろう。また、閲兵で「同志諸君」と呼ぶと兵士は首長と呼んでいたが、習は「主席」と自分の呼称を代えて呼ばせるなど習近平自身益々独裁者の深みに嵌まって行くようにも見える。地方幹部人事では自らに忠実な「ヒラ党員」を抜擢し派閥形成を行っているように見える。重慶の習の後継と見られていた孫重慶市書記をクビにし,高級官僚もどのように忠誠を誓うのか戸惑っているように見える。香港紙(South
China Morning Post)
によると官僚がどのように忠誠を誓えば良いのか悩んでいる様子がよく分かる。従来から習近平は暗殺されないかとか精神面での不安が指摘されていたが,最近の動きを見ると部下の忠誠度に対する疑問がよく分かる。王岐山を前面に立て恐怖心を煽り、自らに忠実な部下を抜擢と独裁色が鮮明になりつつある。
#7月1日
20周年の7月1日は本来返還記念日だが、香港内では「香港占領20年」という皮肉な呼び方が若者中心に広まっていた。民主化要求デモは香港警察発表では1.45万人と激減した。若者中心に社会を無力感が覆っているがそれがデモ参加者激減につながっているようにも見える。習近平は「国家の主権と安全に危害をもたらし中央権力や香港基本法の権威に挑戦する活動は最低ラインに抵触しており断じて許さない」と言わずもがなの演説をした。
香港大学の民意研究所の香港青年のアイデンティティ調査では18歳〜29歳までの若者は自分を中国人とする人
3.1% 香港人とする人 93.7% となっている。問題はこの間に香港で生まれた若者だ、彼らは本土の事情を知らないし、香港で生まれたので当然香港人と考えているであろう。
香港紙によると当夜香港全体がピリピリしており最大のtopicsとして香港警察が中国的に変貌したこと(中国的暴言を流し暴力を使用)、一方民主派デモ粉砕のため親中派デモを結成し、成功したが一般庶民に高額日当を支払ったと伝えられている。
50年目の2047年についてはすでに移民している 59.5%,香港特区はすでに消滅している57.5% との調査結果が出ているが、この見方は正しいように思われる。
#英Economist紙の中国の夢に対する見方
今年5月4日の社説で中国の夢はnationalismで中国共産党の一党支配が続く限り法の支配が確立するにはまだまだ時間がかかる。としている。
習近平にとっての夢は共産党による指導の下、中国が世界で最も豊かで最も強い国に再びする事にある。
1839年から42年の第一次アヘン戦争以降の100年のことを屈辱の100年として当時は中国が世界で最も豊かであったとしているが最近英国などの経済学者が過去の国別GDPの推計を発表するようになった。それによれば西暦1300年までにはイタリアが1400年までにオランダ、イングランドが中国に追いつき1800年頃には日本が中国を追い抜いたとしている。現在の共産党政権も建国以来いくつものうその歴史を若者の愛国心を鼓舞する道具に使ってきたが、経済成長と共に中国の若者に国家への誇りを植え付けてしまったとも言える。その結果、香港・台湾などの動きの全く逆の動きが大陸にも有り、今や大陸の若者も香港・台湾などと同等に話す事など全く考えられない。
外交面でもパナマが中国側につくなど習近平を支える外交も活発だ。一方、ノーベル平和賞を得た劉氏が亡くなった。実際には獄死のようなものだが米国とドイツが最後に治療を米・独などですべく申し入れ、中国外交部がこれに強硬に異議を唱えた。余談だが、一番近い海外で医療の先進国である日本も当然申し出ると思っていたが,目下拘束為れている日本人12名の釈放も含めて外務省の発言は全くない。外務省の所謂China
schoolの連中は中国と事を起さないことが最重要項目で今回の措置は誠に残念な事であった。それにしても劉氏の死は中国共産党にとって誠にまずい時期に当たったもので墓を作らず海に散骨させるなど共産党の狼狽ぶりが現れている。
#香港機能の変遷
中国のWTO加盟と同時に本土との間でCEPAが締結された。このメリットを生かした取引も多いが、メリットのなくなった分野も有り更に模様を見るべきと思う。香港機能の変遷で注目すべきは香港貿易発展局(TDC)の動きだ。元々JETROのような機能を持っていたが湾仔に広大な展示場を持ち,その収入で独立採算がとれるような組織でmanagementは香港財界人が無給で務めていた。その後現組織に変わり、目下の所、北京政府にべったりの様相となっている。最近の事例では一帯一路の宣伝用のパンフレットを作り、香港が世界への一帯一路の玄関口だとの宣伝を行っている。但し,内部でいろいろ議論があるようで先日も東京でのセミナーでパンフレットを配布しながら今日は本件についての議論は一切しませんと断るなど内部でもめているようだ。
香港にとって悪いnewsは中国経済の減速による香港経済への打撃。コンテナ港としての香港港の地位の急速な低下、2025年の製造強国入りを目指す中国の新製造業振興策、世界金融市場での地位の低下などだがこれについて解説したい。
1. 中国の製造業振興策:
従来中国の製造業は鉄鋼、石炭、石油化学など重化学工業分野の比重が高くこれらの業種は今や生産能力の過剰に苦しめられている。生産能力過剰業種としては鉄鋼、石炭、ガラス、コンクリート、アルミニウム、造船、太陽電池、風力発電、石油化学など殆どの産業で過剰状態だが2025年までに次世代IT産業、高性能工作機械・ロボット、航空・宇宙用設備、海洋工程設備・ハイテク船舶、先進的軌道交通設備、省エネ自動車、電力設備、農業設備、新素材、バイオ医療など10大産業を育成するとしている。これは従来から指摘されている重化学工業偏重を是正するものだが官僚の書いた作文でもありこれの実現の可能性は極めて低い。従来の中国政府のやり方はモデルプロジェクトを特定地域で検証し成功モデルを全国展開してゆくやり方だが香港にとって問題なのは珠江デルタ、香港、マカオを一つの経済圏とする構想が李克強首相の号令で強力に推進される機運となってきた。もともと、広東省の党書記であった汪洋などがニューヨーク、東京などの都市と肩を並べる世界クラスの大経済圏とすべく大規模な調査研究を行ってきた。今回李首相の号令で広東省はインフラを強化し国際海運・物流の双方向開放を拡大し香港を筆頭とする「金融革新圏」を形成すると言う広東省にとっては誠に虫の良い話となっている。もちろん中央からの政策支援・財政支援を期待しての事だ。香港側は香港が国家の発展計画に参入する事は計画に組み込まれたと見ており従来からの小さな政府という方針に反するとしている。
6月20日香港で香港、マカオ、珠江デルタ、広東省フォーラムが開かれた。中国側を代表してテンセントの馬CEOが今後の経済の一体化を主張した。中国側は香港やマカオの経済圏を取り込むことで経済の活性化を図りたいと考えている。一方香港側は中国に経済が飲み込まれ一国二制も崩れ兼ねないとの危機感がある。
#中国経済の減速による香港経済への打撃
中国本土の経済成長率の鈍化に伴い香港の景気下振れリスクも増幅している。
香港と本土の経済の相関関係は当然のことながら相関係数は高い。本土の貿易に占めるシェアは1998年3%であったが今では50%をこえている。
香港の旅行者に占める本土客は25%から78%に上っている。中国本土の景気減速、米国の利上げなど米ドルとペッグしている香港ドル上昇の影響で香港の景気は減速傾向にある。前述の香港、マカオ、珠江デルタ、広東省の一体化は香港を何とか自らの陣営に取り込もうとする動きだが問題は香港のGDPはすでに広州・深センに抜かれており香港の経済的地位の低下が鮮明となっている。
#香港のコンテナ港としての急激な地位の低下
世界の主要コンテナ港の2016年上半期の扱い量は上海が1%減の1784万TEU,シンガポールが5.1%減の1518万TEU,深センが1.2%減の1143万5千TEU,寧波が2.8%増の1079万TEU,青島4.0%増の893万2千TEUとなっており香港は世界5位となっている。一方中国の沿海運輸権の開放が香港のコンテナ運輸業に大きな打撃を与えるとの見方もある。中国の海商法では中華人民共和国の国旗を付けた貨物船だけが中国本土の港湾間で海上輸送を行うことができるとしている。
1国2制度の香港はこの制約を受けないので外国船が香港と本土の港湾を往来することが可能で中継港として活動してきた。ただし上海の自由貿易試験区で沿海運輸権の開放が始まっている。もし全面開放となれば香港は5年以内に珠江デルタ以外のすべての中継貨物を失い2015年比14%減、世界コンテナ港ランキングでは現在の5位から8位に転落するとの予測もある。さらに港湾労務者の確保、高齢化の問題など港湾関係では問題が山積している。
#世界金融市場での地位の低下
一般には世界の金融市場でのランクではNew York, London, Singapore, Hong
Kong, Tokyoとなっている。香港は数年前にSingaporeに抜かれたが、Singaporeの場合インド経済圏を握っており更に中国以外のアジアも握っているのである程度やむないとの見方もあった。ところが上述の香港、マカオ、珠江デルタ一体化構想では広東省が虎視眈々と香港の金融を狙っており楽観は許されない。一方金融都市は簡単にできるものではなく金融関連人材の集積など多くの難問がある。東京の場合も小池知事は東京の金融都市化を謳っているが人材が集まっても金融街に隣接した高級住宅、交通などで他の金融都市と争うには東京の場合未だそこまでいっていないように思う。上海、北京、広州などの急成長で香港の相対的地位は低下したが行政の介入が国際金融センターにマイナスに作用する。
李嘉誠は傘下の本社登記をすでにケイマンに移している。
香港にとって最大の問題は従来の英国流の教育制度が排除されて英語を話す香港人が減少することにある。
以上香港の地位の低下について書いてきたが、長くなるので次回はこのような北京政府主導の締め付けの中で香港の優位性をどのように保っているかについて書いてみたい。
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