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中国ビジネスの行方 香港からの視点
 

中国企業による海外投資

2017/10/1

湾仔

中国企業による海外投資が盛んだ。但しこれにはいろいろなリスクがつきまとう。経済的リスク、政治的リスクは中国以外の国からの投資にも生ずるリスクだが、中国の場合中国共産党があらゆる局面に介入してくるリスクだ。実際に最近の例でも大連万達集団、保険大手の安邦保険集団、海航集団(航空、金融グループで海外投資に積極的)、復星集団(消費者向け事業のコングロマリット)と外部から見ると訳の分からない取り締まりが続いている。(筆者の記憶ではFinancial Timesが同様の指摘をしていたが)上記の民営4社による海外企業買収額は過去5年で550億ドルにも上るとされている。各社とも今年初めは絶好調で次々と海外企業を買っていた。万達などは大連での不動産開発(shopping mall,高級hotel,マンション販売 、に始まり、中国全土で映画館の買収を進め更に米映画館大手のAMCシアターズを買収、映画制作会社の買収なども実行、Chicagoに9億ドルで89階だてのビルを作るなど派手な投資が注目されていた。Ownerの王健林は解放軍の軍人で今やアジア一の富豪とされている。ところが北京政府は海外資産への規制強化を行い、経営が悪化し今年7月には観光施設、ホテルなどの大半を93億ドルで融創中国に売却せざるを得なくなった。融創中国(天津市)は不動産大手だが2017/6月の有利子負債は1,813億元(約3兆円)で半年前に比べ685億元と急増している。7月に同業大手の大連万達から13のテーマパークを500億元で買収、相次ぐM&Aで負債が急増したとされている。以上は香港紙の情報によるものだが釈然としない。これも香港紙の情報だが、上述の取り締まりの対象が民営企業となっているが国営企業の場合は共産党幹部との結びつきは大きいであろうが、民営企業ほど派手に海外企業の買収ができるとは思えない。実際に国務院傘下の国有資産監督管理委員会の共産党幹部が国有企業の幹部を任命し、彼が更にその企業の経営戦略まで指導していると見るべきであろう。
海外企業買収の案件は今後も増えるであろうが中国共産党が介入するリスクについては共産党幹部が海外M&Aに精通しているとも思えないのでそのときの最高幹部の意思、意向などを忖度して適宜指導しているように思える。中国企業には中国共産党委員会(通称党委)が根を張っており企業内の人事、企業の意思決定を事実上決める組織となっている。党委員会は企業のみならず、学校などの組織には必ず党委員会を設置するよう指導している。国営民営を問わず全ての組織なので外資企業にも広がっている。国有企業の場合は党全体の意向よりも特定の党幹部意向を忖度し。私物化、腐敗が蔓延した。約16万社に及ぶ国営企業の力は大きい。2016年の中国からの海外投資は世界の160ヶ国7千社に及んでいる。企業のみならずギリシャ、中東、インド洋などで港湾権益までも押さえている。一年ほど前、広東省の珠海格力電器を世界の大手エアコンメーカーに育て上げた女性経営者,董明珠が親会社の格力集団の董事長を解任された。党の意向に沿わない海外事業の買収を進めたためと言われている。経済の論理とか企業の判断よりも党の支配を優先した結果は中国経済に打撃を与えることとなろう。この動きは外貨準備が一時3兆ドルを下廻ったために高リスクの資金調達は国家の安全保障を脅かすと官僚が党に働きかけ習近平がこれに乗ったとの説もあるが政治上のライバルを支援する芽を摘む事もできる。いずれにせよ民間企業はどのような事業活動なら党に許可されるのか分からなくなっているのが現状だと思う。外国企業にしても不信感が当然出ると思う。民間企業に厳しいこの国で今奇妙な現象が起きている。党の指導に企業が従う事となり、200社くらいが定款変更届けを出している。この結果企業は自社利益よりも党の利益を優先すべしとなる。投資も株の売買も人事も党の利益を最優先として決めると言う不思議な現象がここにある。  

#巨大国営企業の淘汰も
巨大国営企業は何れも中国経済のブレーキとなりつつあり。一部の純粋民営企業が世界のイノベーションの先端部門に手をかけるアクセル役と最近両極端の動きが出始めた。ブレーキ役の国営企業を中心に赤字に悩む国営企業を合併という手法で共産党の担当部局は乗り切ろうとしているようだ。鉄鋼市況が回復しても赤字に悩んでいた重慶鋼鉄は同じ重慶の銀行や証券会社をもつ国有企業を親会社として金融業に乗り換えるという。湖南省の華菱鋼鉄も金融業に乗り換えると宣言した。更に驚くべき事に大手紡織の中国中紡集団が食料の中糧集団の傘下に入ったと報道されたことだ。どう見ても両社に共通項は見いだせない。単なる赤字補填の合併のようだ。鉄鋼大手の宝山鋼鉄は中国石油天然気(ペトロチャイナ)と親会社同士が無償で株式を譲渡し合ったとかいろいろなニューズが飛び交っている。何れにしても投資家は蚊帳の外だ。このような状態で中国株に投資をと言っても投資家はついてこないであろう。  

#官僚主導の中国経済の問題点
習近平政権は就任以来人民元高にストップをかけ輸出を支えつつ内需主導型経済への転換を図り,中成長への軟着陸を模索してきたように思われる。ところが官僚主導なので計画とはいくつかの乖離がある。一つは人民元の対ドルレート上昇に歯止めをかけたが、ドルが20%も高騰したため,人民元の実効レートが15%上昇して輸出が困難となった。そこで人民元を切下げたが実効レートが高止まりして輸出が減少し景気の足かせになっている。更に人民元切り下げで資本流出が巨額となった。昨年末から資本流出規制強化で対中直接投資が大幅に減少した。更に問題は財政赤字の拡大だ。本欄でもすでに触れたが内需主導型経済への転換で社会保険料や公共サービス支出の増大が原因だが景気の減速による税収不足もある。輸出の減少、資本流出、財政赤字の拡大、バブルの膨張と官僚主導の経済はどこに行くのであろうか。更に対米貿易赤字問題が米国との間で今後議論される。中国のGDPの2%以上が対米貿易黒字によっている。黒字を削減すれば成長率も低下し財政出動で景気を支えれば財政赤字の拡大となる。対米黒字削減は更に厳しい経済運営を必要とするが官僚主導の経済運営はどこに向かうのであろうか。マスコミは世界2位の経済大国で中間層の旺盛な購買力を強調する。但し経済全体の成長力は鈍り製造業の設備過剰など構造的問題も多い。共産党政権も投資主導から消費主導へと経済モデルの転換を目指している。2015年には一人あたりGDPが8千ドルとなったが,経済の伸びは鈍り、 労賃の上昇などで中国への投資も減少している。このままでは高所得国になる前に経済が低迷する中所得国の罠にはまってしまう。(高所得国の1万2千ドルとはかなりの開きがあり,すでに中所得国の罠に嵌まっているとの見方も多い)。この点は中国政府も理解しており消費中心の経済に転換すべく政府トップから号令がかかっている。問題は本稿でも前に触れたが消費は実態とはかなり開いた数字が出てくる可能性がある。特に地方政府はここぞとばかり良い数字を並べる可能性があるのでGDPのかさ上げは出てくるであろう。最近中国経済の論評にゾンビ企業と言う言葉がでてくる。死に体なのに銀行や政府が延命を続けた日本企業を指す90年代の言葉であった。日本は結局株式のバブル崩壊が長期にわたり企業に債務の圧縮をせまった。
中国の場合株価の下落を伴う荒療治は選べない。民意が国家の行方を決めるのではなく国家が民意を制御する。即ち密室で事を決める中国式統治が企業経営に通じるのだろうか。
本論と離れるがシャープを買収したFox-conの郭台銘がトランプ大統領に招かれ緊張したのか?顔が引きつっている写真がいろいろな新聞に配信された。誰が見ても異常に顔が引きつっていたが、彼は台湾籍ではあるが山西省から台湾にやってきた家系で台湾への愛着はあまりないとのこと。
台湾で小さな工場を経営し精密部品の下請けで当てた。1988年に中国本土に戻り、当時のスマホブームの波に乗り組み立てビジネスで当て、中国各地に大工場を建て一時は百万人を越える労働者を雇った。そこで郭は世界的な有名人となった。ところが深センで過酷労働が批判され、従業員が工場から飛び降り自殺をするなどの事件があり、各地の工場で労働条件の改善、賃金upの要求などもありデモの頻発で警官隊が導入されるなど混乱が続いた。この結果、日本からロボットを大量に輸入し生産効率を上げ、効率の良い工場を海外に移転させるなどの対策をとった。中国では労賃が急上昇し、生産コストが引き合わず、むしろアメリカで作ったほうが安く仕上がるという環境の大変化も背景にある。中国では生産コスト、労働コストの他に党幹部への高額ワイロが必要で米国と中国との労働コストの単純比較は難しい。一方郭はウィスコンシン州に新型LCDとi-phone工場を建てるといっている。この米国進出発表の数ヶ月前に広州にもLCDの新工場を建設するとして調印式を行った。投資金額は88億ドル、従業員1万5千人とのことで同じサイズの工場を米国と中国に建てると言うことで、広州は2019年、ウィスコンシン工場は2020年に稼働開始としている。一方中国は昨年から中国企業の海外投資の規制をはじめ500万ドル以上の海外送金を事実上禁止している。上述の大連万達が米国で買収しようとしていた映画産業への送金ができずキャンセルされたが、こうした環境下で100億ドルなどと言う巨額の海外投資を中国当局がそのまま認可するとも思えない。
アメリカ人の雇用を掲げるトランプ大統領が喜んで招いた(あるいはのせられた)のは孫正義(サウジ王家のfundと組んで5年間に500億ドルを米国に投資し100万人の雇用を創る)、中国アリババの馬雲(5年間に100万人の雇用を創る)などは米国で雇用を増大させると公言しているが何れもFox-conの中国での成功例を下敷きにしているようにも思えるのでこの結果は見物だ。




 

 

 

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更新日:2017/09/30