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中国ビジネスの行方 香港からの視点
 

中国経済 

2018/4/1

湾仔

中国経済に対する見方は色々あるがNIKKEI Asian ReviewにW. Peske氏が書いているように中国が本当に市場経済を受け入れようとするなら外資に課している出資比率49%以下の合弁義務は撤廃せざるを得ないし、外資のノウハウを借用するのではなく自前の技術革新や発明を鼓舞するはずだ。米トランプ大統領と欧州は西側企業を買収して技術を取り込みその背中に乗って技術力を高めようとする中国の発展モデルは重大問題だとする点で一致している。習近平指導部は益々その権益を拡大しつつあるが、おそらく習自身が次々指摘する問題の解決のため中国の官僚が右往左往している様子が中国報道でも散見される。最近の例でもトイレ革命と称して北京など大都市のトイレを先進国なみの豪華なトイレにするとか如何にも習近平自らの指示によるものと思われる事象がでている。政策的には医療とか年金問題に手をつけるべきだがこれらは放置されている。このような動きから習政権の先行きを不安視する向きもあるが一般の中国人は一帯一路とか海軍力の増強とか強い中国の復興に関心があり、特に新しい海軍の軍部内での勢力の拡大は習政権にとって軍の掌握のためにも必要な条件だ。  

#香港を利用するが更なる業容の拡大は求めない
昨年度の深センのGDPが香港を上回ったと香港政府が発表した。深センは80年前は寂れた漁村であったが北京政府も改革開放政策を採用し人口も80年前の33万人から17年には1,252万と約40倍に膨らんでいる。ITサービス大手のテンセント、通信機器大手のフアーウエイ、ドローン世界最大手のDJIなど目下中国を代表するハイテク企業もここから誕生した。香港のGDPはその後上海や北京に抜かれたが、北京政府は香港を金融、不動産のために利用するよう国民を誘導してきた。実際にSothebyは香港に営業拠点を設けSotheby’s International Realty( 同社はSotheby Auction Houseの一部門だが世界の69の国と地域で事業を展開し約900の事務所と2万人以上のagentを有している。)が昨年9月に香港に営業拠点を開設した。auction houseとしては香港がNew York/Londonと並ぶ、重要な地位にあるが香港のセントラルと九龍にも事務所を開設するとしている。その目的は金融などではなく高級不動産の開発業社、所有者、購入者、賃借人に対する高品質なサービス提供に焦点を当て、香港の不動産市場のニッチを埋める事を目的とし、更に同社のグローバル ネットワークにより高級住宅分野において国内外で取引を実現できるので世界中の投資家からの不動産購入の需要にも対応が可能となる。と明確に謳っている。元々香港には本土の金持ちが中国特有の美術品などを持ち込みSothebyなどを利用して取引を行っていたが高級住宅分野にまで手を伸ばしていたとは驚きであった。実際に香港の高級不動産市況は目下バブルの様相を呈している。本土の金持ちは(実際には官僚で利権がらみで収益を得ている)ここ数年香港の高級不動産を買い占めている。  

#GDP算出方法を統一し水増し疑念の払拭を
これも習個人の発想と思われるが従来から中国のGDPには水増しがあると為れていたが、GDPの算出方法の統一に動き出した。
北京政府は地方の統計に介入し出した。国と地方のGDP算出方法の統一だ。国全体のGDPは国家統計局がまとめ地方のGDPは各省政府が公表してきたが地方の合計が常に全国を上回っていた。今後は国家統計局指導の下で算出するとした。統計局指導が実態に即したものかまたは作為的となるかは今後監視が必要であろう。従来は地方から中央へと出世街道を探る中国地方官僚は地方の成績が本人の将来を左右していた。要するに成長率万能主義で地方政府が主役であったがこれを習政権は改革しようと試みているわけだ。上記のGDP算出方法の統一が示されると直ちに中国の31の地方政府のうち2/3に当たる20地域で水増しを是正した模様だ。広東省など20地区が減速(1~9月と1~6月の実質成長率比較)、横ばいが黒竜江省など6地区,内モンゴル等は大きく減速=水増しの是正、門題は今後GDP至上主義から環境保護とか貧困対策とか地方官僚がどのような方向で競い合うのか注目に値する。  

#海外企業買収を繰り返す複合巨大企業を国家管理に
これも習政権の発想と思われるが保険を核にした複合金融グループの安邦保険を実質国家管理下にすべく北京政府から官僚を送り込んだ。習近平は金融の健全化は従来から主導していたが、安邦保険の創業者で実質の経営者である呉小暉氏を起訴するに及んで官僚が主導したのではないかと思われる。安邦は04年の創業からわずか10年ほどで総資産2兆元になり、生命保険・損害保険の分野では中国内で3位となり、銀行、証券、不動産、投資会社などを経営する複合金融グループに成長し従業員は4万人と言われている。呉氏はケ小平の孫娘と結婚し,この関係で不正な資金集めや業務上横領で起訴されている、海外での買収額は16年に70億ドルに膨らんだと言われている。安邦以外にも海航集団、大連万達集団、復星集団等の買収金額は16年に350億ドルにまで至り,中国全体の20%とも言われている。これらは共産党幹部につながり,彼らの資産の海外移転とみられている。安邦同様買収に継ぐ買収で資産を膨らませた中国企業は多い。海航にしても大連万達にしても巨額の借金返済〔銀行も貸し出しを断っている〕の為、資産の売却を続けざるを得ない。不動産などの資産は中国発の爆買いが価格をつり上げてきた,中国がここで売り手となれば世界経済の波乱要因となる危険性もある。  

#地方政府の財政
最近は日本でも中国経済に対する見方はそれほど悲観的ではなく電子決済の急速な普及も有りハイテク立国・中国を強調する論調が目立っている。中国経済は2015年の上海株急落による金融問題も人民元安誘導とか金融緩和策が旨く行き一応景気回復の流れとなってきた。但し中国経済の問題が解消為れたとみてはまずい。問題は中央政府と地方政府の対立は益々深みに嵌まっている。北京政府が最大の問題としている点は地方政府の固定資産投資による供給過剰問題だ。これによる地方政府の債務の拡大が問題だ。 全人代でも指摘為れているが,直轄市の重慶などいくつかの地方政府が財政収入を水増ししていたことが明らかとなった。一方、他の地方政府では北京政府の規制に反し巨額の債務の計上もある。地方政府主導の固定資産投資は高成長を支える。税収不足で地方債発行も制限された地方政府は非正規のルートで資金不足を補ってきた。地方政府の実質的債務残高は約18兆元と2013年国家審計署の政府債務に関する調査報告で発表されている。従来融資プラットフォームで拡大した地方政府の隠れ債務を地方債の発行で透明性の高い債務として管理すべく政府は方針を決めたが,その後中央政府は地方政府の債務を救済しないとの方針変更をした。この結果ここ数年地方政府債の発行額が急増した。何れにしても,広大な中国で中央と地方の権限のバランスをどのように持って行くかによって経済政策の運用も異なる。権限を委ねすぎると地域間格差の門題も起こり、このようなジレンマが起こる。中国経済はこのようなジレンマを克服して安定成長を実現できるのだろうか。北京政府は7%近くの経済成長を謳っているが不良債権の新規発生は未だ高水準にある。金融機関は不良債権処理に悩んでいるがネットを通じた不良債権の競売が進んでいる。ある調査では不動産だけでも上海で9件、全国では5000件以上とも言われている。上海などでは処分が簡単にできるからで地方都市では処分不可能な物件が山積している。動産も多く乗用車、運航為れていない貨物船、工作機械、化学品の在庫品などいろいろあるようだ。  

#3月の全人代と李演説
3月の全人代は習近平独裁がどこまで進むか,憲法改正、軍の掌握、定年制など事前に議案が広く流れていたが全て習の思惑の通りに決議された。反対票が少ないことが日本でも話題となったが反腐敗を前面に出し、汚職取り締まりを強化すれば党員は当然これに従う。それにしても党員=高級官僚の汚職はこれほど広がっているとは想像外であった。筆者が興味を持ったのは李克強首相の経済演説であった。一般には習と李首相とのせめぎ合いが伝えられているが,李首相の共産党青年団は組織としては強大で習はこの組織を生かそうとしているようにも見える。それにしても李首相の経済演説は率直に中国経済の抱える問題点を指摘しており〔解決策は触れていないが〕上述の通りの幾多の問題点が世界経済に及ぼす影響も考えねばならない。
一方反腐敗運動に連動して北京政府は従来野放しにされていた金融業界の大粛正と体制改革をねらっているようだが,習政権の核は浙江閥とも言われ王岐山・劉鶴(副首相)起用によりこの点の改革も進めようとの考えとも見える。習政権の過去5年の経済政策の失敗例は官僚のサボタージュと抵抗によるもので反腐敗キャンペーン・改革の進捗を使って権力闘争を続けようとの意思と見る。習近平自身は権力掌握の課程で独裁者として振る舞うより、なんとなく担ぎ上げられたような態度が見えたが,あるいは本人がこの点を意識しているのかもしれない。目下の所株式市場も高値に誘導されているがCITIC等、別働隊が株式市場も動かしている。但し環境対策ということで石炭の利用に制限をつけたため肥料の生産が不可能となった企業もある。企業の工夫が困難となれば頼る先は党か政府しかなく活力を失った市場は経済統制の犠牲の上でなりたっている。頼られる党にしても政府にしても財政収支が頼りで国営企業改革も待ったなしだ。  

#習近平は軍隊を掌握できるのか
国連人口推計では中国の65歳以上の人口が3億4千万人になるとしている。日本の人口の3倍近くの高齢者が出現すると言うことになる。問題は二つある。一つは人手不足だ。日本の場合1995年をピークに生産年齢人口が12%も減ったため人手不足が進み有効求人倍率が高くなった。中国の場合2015年から2050年までに生産年齢人口が22%も減ると見られているが日本以上に深刻な人手不足と言うことになる。更に深刻な問題は軍隊の人員が足りなくなるという問題だ。世界各国とも共通の問題となっているが、中国の場合現状でも軍隊に行く連中はならず者だという考えが根強い。人手不足となればこれまでよりも更にならず者を入れざるを得なくなる。そこで人海戦術で地上戦を仕掛けることはできなくなる。
一方高齢者の急増に対応できず社会に不平不満が広がる問題もある。年金制度は遅々として進まず、医療保険、生活保護も整っていないので高齢者は病気になってもカネがなければのたれ死にするしかない。
何れにしても年金とか、医療制度とか抜本的解決の手を打たなければ習政権の将来も危うい。

  


 

 

 

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更新日:2018/04/01