中国ビジネスの行方 香港からの視点
香港紙
2018/8/1
湾仔
香港紙(South China Morning
Postなど)では相変わらず北京政府の不手際を攻撃する記事が多い。習政権が地盤固めに走る一方、高級官僚は習の考えを忖度していろいろ手を打つが、習自身が経済の専門でもないので、ちぐはぐな現象が起こっている。一方高級官僚は出してしまった新しい措置をすぐに修正・撤回する訳にもゆかず矛盾が山積している。すでに本稿でも触れたが、米中貿易戦争とマスコミは騒ぐが、中国側には対抗手段は限られ外交部が盛んに米国に対抗して関税措置を実行するとしているがこれは無理であろう。
1.メキシコ産豚肉にもトランプショック
メキシコ政府は米国による鉄鋼・アルミの輸入制限への報復措置として豚肉など米国産品の追加関税リストを公開した。米国産豚肉に20%の追加関税がかけられることとなる。米国産が余剰となり日本などに余剰豚肉が輸入されることとなる。米国にとってメキシコは豚肉輸出量の3割をしめ、この分がメキシコ以外の市場に流れるとみて豚肉先物はかなり下落している。中国も米国産に対し報復関税を課したが取引量が少なく、他国で取引されない内蔵などの部位のため他国への影響はあまりなかった。一方メキシコが米国から輸入している豚肉は日本でも同じ部位なのでいずれ在庫過多から安値になるとみられている。いずれにしても世界の豚肉の半分以上を消費する中国にとっては豚肉の値上がりは致命傷となるし、いわゆるpig
cycleでは今年は前年より少し安値になるはずで、更に見守る必要がある。 2.段ボール古紙と環境問題
中国は昨年10月の共産党大会を前に製造業の環境規制を強化することを歌い上げた。日本の古紙は不純物の混じらない高品質のため引き合いも多いが、中国側の輸入制限の影響もあり昨年度は最高値から30%近く下がったとも言われている。中国での段ボール消費は電子商取引とか通販の普及でさらに伸びると予想されるが、外国からのゴミの輸入禁止を大々的に歌い上げ中国は世界のゴミ箱ではないと宣伝した。その結果、中国のリサイクルゴミは直ちに海外に移転し国内でのゴミ処理が不可能となってしまった。昔から北京郊外などには至る所にゴミの山があり少しずつ埋め立てていたが、また埋め立て以外に処理のしようがない状態となっている(ゴミと言っても中国の場合、一般ゴミの中には家具とか自転車とか何でも混じっている)。一方、昨年暮れから日本の段ボール古紙も値上がりし中国は昨年秋の共産党大会を前に製造業の環境規制を強め製紙業界では排煙や廃液などの基準を満たさない工場は原料の輸入権を認めないなどの措置を執り、実際に操業が止まったメーカーもあるようだ。このような時期に玖竜紙業(Nine
Dragon Paper Holding
Company段ボール原紙でアジア最大)が米製紙会社のカタリスト・ペーパー・オペレーションズを買収すると発表した。米当局の認可がおりればアメリカの同業を傘下に収めることになる。Nine
Dragonの創業は女性の張さんが1988年に東ガンに工場を設立し、きわめて順調に発展した企業だ。中国で5工場を順次拡大し19年6月には20%増の1700万トンとなるとのこと。みずほ銀行の調査では段ボール原紙の2022年の世界需要は16年比17%増えるとみている。
3.シンガポールの最大手の物流施設Global Logistic
Properties(GLP)を中国銀行、万科集団など中国系が買収するといわれている。ネット取引の拡大で物流施設の需要が増えるとみているのだろう。すでに日本にGLPは物流施設を持っているがさらに米国・中国での展開を考慮したものであろう。
4.中国でロボットレストラン
中国で人件費や家賃の高騰が続きレストランや小売店の経営は厳しくなっている。ネット通販2位の京東集団は無人ロボットレストラン1000店を展開すると発表した。客はスマホで注文し調理、盛り付け、配膳をロボットがこなす。この分野ではアリババが先行しているが20年までに1000店を展開するとしている。ロボットは日本の得意分野でもあるがオムロンが上海で工場用ロボットの生産を開始するという。
5.造船:昨年末日本の船舶受注量は少し伸びたがここにも中国の供給過剰がある。
英国調査会社クラークソンによると中国有数の造船の街、浙江省舟山市には60以上の造船所があるが今やそこには人影もなくクレーンや船がさびついたまま残っているという。もちろん中国を代表する国営造船所も休業中だ。中国中で679といわれる造船所の4分の3が休業状態とのことだが、中国のことで市況が上向けば直ちに再開
できるとみている。2000年代に入ってすでに2度造船不況が起きたがその原因は中国勢の供給過剰であった。人件費と安い鋼材のため韓国を抜き世界トップに躍り出た。中国政府も従来、優遇融資などを行ってきたが、ここに来て中小造船所の淘汰に乗り出したが、そう簡単ではない。造船不況はしばらく続くとみるべきであろう。
6.供給過剰は簡単には解決しない―――以下商品別に市況を見てみよう。
a.アルミ地金:昨年秋口にはトン28万8000円と1割ほど上昇した。ロンドン金属取引所(LME)の先物価格はトン2130ドルで昨年8月の安値に比べ1割高となった。世界最大の生産国中国で環境規制や過剰生産の抑制のため、アルミ製練工場に能力削減の指示が出ている模様だ。ところが今年の4月にはLMEの3ヶ月先物はトン2140ドル台と更に上昇した。米国がロシアへの追加制裁を発表。ロシアのアルミ大手ルサールが対象となり同社株が急落し、同社の経営不安が買い戻しを呼んでいる。
同社のアルミ生産量は年間400万トンと見られているが、米国向けは50~60万トンで中国以外では生産量が最も多い。実需筋はロシア以外のメーカーへの切り替えをtryしているがすでにほとんどの生産者はフル稼働で生産余力はない。従って当面需給が逼迫するとの見方が多い。
b.製鋼原料
中国からの過剰な鋼材輸出に歯止めがかかり2018年3月期の新日鉄住金の連結経常利益が前期比72%増の3000億円との発表があった。製鉄原料の高騰を販売価格引き上げでcoverしたとしている。今年の2月には製鋼原料の国際価格が高止まりと言われていたが、他の国際商品と比べ値動きはやはり中国需要に引きずられている。北京政府は大気汚染の防止策として中国の製鉄所に減産を強制している、鋼材価格の高止まりも原料価格を支えているが、鉄鋼石は鉄分の多い輸入品の調達が増えている。豪州産のspot価格は鉄鋼石でトン80ドル前後と2月から9%あがっている。更に原料炭も230ドルと8%上がっている。鉄鋼石の今年1月の輸入量は1億トンと前年同期比9%も多い。原料炭も同じようなものだ。減産、減産と言いながら鉄鋼の需要は中国内で道路、鉄道など北京政府が景気下支えとして強化しているインフラ整備に鉄鋼は必要だ。冬場の大気汚染対策としての減産が終われば、国内の鉄鋼価格の上昇も避けられないとの見方もあるが、中国の内需は意外に強いかもしれない。要するに中国の場合一社が増産に走れば他社がすべて同じ方向に走るので、簡単に一斉減産と言う訳にはゆかない。米国の鉄鋼・アルミの輸入制限で
アジア各国は行き場を失った製品の流入に神経をとがらせている。特にインドでは中国の安い鉄鋼製品によって国内企業の経営が圧迫されている。インドの粗鋼生産量は中国、日本に次ぐ3位だが安い中国品に押され国内企業の業績は悪化している。インド政府はすでに対抗措置を執っているが、同じ動きが、タイ、インドネシアでも起こっている。
c.中国は鉄スクラップの輸出国に
中国は鉄スクラップを溶かして作る地条鋼を品質問題、環境問題、から生産設備を廃棄した。その結果、年間約6800万トンの鉄スクラップの行き場がなくなったとの見方がある。直接の競合は日本だが、問題はアジア市場での競合だ。
d.2018年6月 製鋼原料下落
鉄鋼石の7~9月期価格はトン59.6ドルと前期より11%安となった。豪州産の2〜3月の高値の修正ともみられている。原料炭も1~3月期に比べ17%安い。2017年から中国政府主導の鉄鋼生産制限・拡大といわゆる”鉄冷え“に世界中が踊らされてきたが、景気対策の軌道修正など今後も世界中が北京政府の動向に振り回されるのであろうか。
e.英豪資源大手リオ・テイントは発電用一般炭を生産する豪子会社を中国系に売却。
f.中国海航集団:共同創業者で会長の王健氏が出張先のフランスで死去したとの発表があった。仏南部のプロヴァンスで転落による急死であった。同社は海外企業買収で巨額の負債を抱えているが株主を巡る疑惑も指摘されている。習近平が最も頼りにしている王岐山の一族が大株主であるとの疑惑で独・スイス当局が調査に着手したとの報道もある。この海航集団の最大株主であるファンドのトップにドイツのレスラー元副首相が就任した。過去に発行した債券の一部を買い戻し更に買い戻しを継続すると発表しているが債券も巨額なため財務状態の健全性には疑問視がついている。
g.銅
2017年はいろいろな原料価格が上昇したが特に銅の国際価格が上昇した。銅やアルミニウムは中国の旺盛な需要で2016年末に比べ30%高い。国際商品の価格は世界の景気拡大とともに大きく上がった。国際商品の中でもインフラや建材機械に使う非鉄の伸びは大きい。世界の半分を消費する中国経済の底堅さもあり2016年末に比べ32%高い。LMEの2017年秋の取引でトン6900ドルをつけたが、5月の安値から20%以上上昇している。問題は中国経済だ。PMIなど政府発表の数字は堅調だが、2017年秋には習近平政権の命運をかけた党大会があり、そのためにも景気浮揚が必要であった。中国の実需については懐疑的な見方も多い。アルミニウムも35%高だ。2017年は銅やアルミなどの非鉄金属の高値が続いた。9月中旬までの上昇基調はいったん落ち着いたものの依然として投機的な動きは目立つ。国際的批判を受けている中国の環境規制強化がある。過剰な製鉄、精錬設備の廃棄とかスクラップの輸入規制など従来の成長優先の政策から環境にも配慮する政策転換を行っているとみるべきであろう。香港紙によるとアルミや銅などの非鉄スクラップの輸入を今年末までに制限するよう通達が出たとのこと。中国は地金不足を補うためスクラップを含む資源ゴミを輸入していた。スクラップの減少により地金の需要増を予測、LMEの銅価格は17年夏から急伸9月にはトン6900ドルを超え3年ぶりの高値をつけた。
需要は国際エネルギー機関によると2017年の需要は前年を2%上回るとみている。 h.中国の政策転換
従来は経済成長がすべてに優先する政策を追っていたがここに来て環境にも配慮するという軌道修正を行いつつある。2017年は非鉄金属の高値が続いたがこの背景には国際的批判を受けた中国の環境規制の強化がある。環境に対する世論の高まりもあり過剰な製鋼、精錬設備の停止命令やスクラップ輸入の規制などが出た。成長優先政策から環境に配慮する政策の転換が行われている。銅やアルミは道路やビルの建設に必要な資源だが、従来はスクラップを含む資源ごみを輸入していた。但しこれにより非鉄以外の廃棄物が混ざりごみ処理の負担が増えさらに環境汚染を招くとの判断から金属以外のごみが多く混じる低品位のスクラップの規制に政府も踏み切ったようだ。この規制によって中国で地金の需要が高まるとみてLMEの銅価格は2017年7月から急伸、9月にはトン6900ドルを超え3年ぶりの高値を付けた。アルミ地金も環境政策を材料にLME価格は年初から上昇し9月にはトン2145ドルと4年半ぶりの高値となった。世界のアルミ生産の半分以上を占める中国で2017年初め河北省、山東省など4省のアルミの生産能力を年末までに30%削減するとの北京政府の発表があり、8月には山東省当局が改めて省内のアルミ精錬会社に能力削減を命じた。アルミの場合は大量の電気を消費し、火力発電による大気汚染など環境への悪影響が指摘されている。中国ではすでに排煙、排水対策が製造業の問題となっている。2017年のすべての施策は党大会を控え習指導部に対する忠誠もあり、これらの規制が強化されてきたがこれが非鉄価格の下支えとなったことは皮肉だ。一方、2018年6月には非鉄の国際価格が軒並み下落している。LMEの3ヶ月先物は銅と亜鉛が5%安となっている。メデイアは米中貿易戦争の影響をはやすが実際には非鉄全般が上げすぎであったことも事実だ
さらに中国で建築など固定資産投資は党大会も終わり、大幅な減少に地方政府も対処すべく取り組んでいる。 i.中国の政策次第となった資源株
2017年は党大会のために資源価格が上昇したがLNGが急騰したのは中国が大気汚染対策で石炭からLNGへの切り替えを急いでいるためだ。一方国策で電気自動車の導入を進めレアメタルも価格が上昇している。鋼材の強度を高めるレアメタルだがパナジウムは9年ぶりにモリブデンは3年ぶりの高値となった。中国では地方政府が引き続き経済成長最重点施策をすすめており、インフラ投資は相変わらず活発だ。
香港紙の紹介を中心に本稿を書いたが7月23日の日経に香港紙以上のインパクトのある記事がのった。一面の春秋欄だが、3年前に地球温暖化対策としてフロン類規制の実行を勧めていたが、残念ながら進展がなく更に温暖化が進んでしまった。米海洋大気局の研究者が科学誌ネイチャーに発表した分析ではフロン類の中でもオゾンを破壊するCFC11の大半は中国に由来している。CFC11の大気中への放出量が2012年から増加している。主に東アジアから出ていると考えられる。国際的な環境保護団体である環境調査Agencyの報告では増えたCFC11の大半は中国に由来していると。違法と知りながら断熱材の原材料として使う企業が山東省、河北省などで後を絶たない。そのような企業向けにCFC11を生産するヤミの工場も多いようだ。美しい中国を2035年までに実現するとの目標を習近平は掲げたが、そう簡単ではない。CFC11の増加は地球の未来を左右しかねない。習指導部はどのような解決策を持っているのだろうか。
本稿を書いているうちに商品市況のようになってしまった。中国が目下狙っているのは各商品とも中国の消費動向によって左右されること即ち中国の影響を商品市況に直接反映させることだが、これだけ中国の動向によって相場が左右されると商品市況そのものが果たして信用でできる物なのか疑問を持たざるを得ない。
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