中国ビジネスの行方 香港からの視点
東アジアにおける米中覇権争い
2018/12/1
湾仔
日本経済研究センターがまとめた2018年1~6月期の東南アジア主要5ヶ国の製造業生産指数は前年同期比6.2%上昇し、減少傾向にある中国の伸びに迫った。中国から東南アジアに生産を移すチャイナ・プラスワンの動きが広がりつつある。米中の貿易戦争の行方次第では東南アジアが逆転する可能性もある。インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン、シンガポールの生産指数を加重平均し、算出した。東南アジア5ヶ国の生産指数は15年以降右肩上がりが続いている。1~6月期の上昇率は17年暦年の4.5%から拡大したが特にフィリピンの拡大が著しい。東南アジアでは人件費の上昇する中国から生産が移るチャイナ・プラスワンの動きが進みつつある。ドイツのBMWは一部の車種をタイで生産するとのことだが、同じような動きは自動車メーカーをはじめとしていろいろな業種に広がりつつある。
一方米国でウォルマートやメーシーズなど小売り大手に衣料品や家庭用品を供給している利豊の場合、中国からの商品調達率は2016年の54%から49%に低下している。衣料品はバングラデシュ、ベトナム、インド、パキスタン、フィリピンなどから、靴はベトナム、インド、インドネシアなどから調達、生産移転の動きはハイテク関連業界でも先行している。台湾の台達電子(アップルなどに部品供給)はインド、東欧のスロバキアに加えタイでも生産拠点の確保に動いている。台湾のアパレル大手エクラ・テキスタイルは16年に中国から完全撤退し生産をカンボジア、ベトナムに移転、貿易戦争のリスクを避けたい顧客からの引き合いが増えている。また香港の物流大手のケリーグループは生産拠点を中国から移す動きのおかげで今年前半の利益は20%増と過去最大を記録した。移転の動きは電子機器、衣料品、家庭用品、玩具などの企業で顕著だという。
海運でも中国最大の海運会社コスコは中国と米国を結ぶ航路の一つを停止した。関税の上昇で貨物量が10%は減少するであろうと見ている。
農産物、豚肉など米国産品は中国への輸出が減少したが、日本向けは増えるなど、明暗がある。(豚コレラはその後も猛威を振るっており、中国全土に広がりつつある、共産党政府も今年度の豚肉値上がりは
やむなしとしたのかすべてを豚コレラに結び付けている)
IT機器をはじめ世界の生産の担い手であった台湾企業もここに来て生産地の分散や事業の集中などの変革が急務となっている。
台湾企業の場合世界中の多くの企業から生産を受託し、安価な労働力が得られた中国に進出し多くの工場を構え巨大な受託ビジネスを作り上げてきた。但し中国の人件費も過去5年間で5倍以上に急騰し貿易摩擦の影響もあり苦戦している。ただし、台湾企業はいずれも危機と淘汰は想定内と強気だ。既に各社とも東南アジアへの転換に乗り出しており、更に日本の技術も加えて新たな転換を図ろうとしている。
話は少しそれるが習政権の目下の最大の問題は地方政府を含め地方の債務の膨張だ。最近地方政府が資金繰り救済の名目で企業買収に乗り出した。地方政府の官僚も習政権の下で何とか延命しようとの画策の一つであろうが、実際には技術を狙ったものと思われる。本件の元は企業の過剰債務から派生した問題だが各方面から懸念の声が上がっている。この関係で狙い撃ちされているのが大連の万達集団(ワンダグループ)だ。同社は中国経済の急成長の時期にマンションなどの不動産売買で財をなしその後、映画館、商業施設などで多角化をおこない、海外でもNYなどで有名ホテルを買収するなど派手な話題の投資も行い、トップの王健林董事長は総資産が3兆円を超えアジアトップの大富豪となった。2016年頃から中国のディズニーをめざしテーマパーク、ホテル、商業施設などを組み合わせた大型複合施設運営会社などを設立したが、中央政府との関係は悪く、経営危機を喧伝され昨年夏にはホテルなど約1兆円の資産を売却させられた。更に今回中国に13ケ所あるテーマパークの運営権を同業他社に売却すると発表があった。売却額は約1000億円で中国のディズニーの夢も2年あまりで潰えることとなった。
一方、深センなどに進出している米国系企業などは同地での工場拡張などは止めて直接東南アジア各国に進出する動きがある。当初はIT関連企業かとみていたが、殆どすべての企業が同じ動きをしている。米中貿易摩擦の影響とみてもよいが、何しろ素早い。暫くは東南アジア各国の動きを注意深く見守る必要がある。
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