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中国ビジネスの行方 香港からの視点
 

中国は民営企業を育成できるのだろうか  

2019/4/1

湾仔

中国石油加工(シノペック)の貿易部門の子会社が原油取引に絡み70億元以上の損失を出した。このため停職処分を受けた人物には企業内の共産党組織のトップである書記もいた。社内の党組織は経営に深く関与しないのが通例で彼の場合は処分を受ける程の地位にあったとみられている。習近平が党を指導すると宣言したので少数株主などの利益を顧みる余地はない。中国最大の民営投資会社――中国民生投資が債務不履行を起こした。3,000億元もの総資産を持つ超大企業が30億元の社債の手当に躓いた。同社は中国北西部でメガソーラ、カンボジアで工業団地の造成などを手がけていた。習政権の一帯一路や貧困撲滅の実行部隊として活動してきた。債務不履行の背景は不明だが地銀に当たる農村商業銀行の一行が貸しはがしに動いたと噂さされている。農村商業銀行が単独で動くとは思えないので中央から何らかの指示があったとみるべきであろう。更に民生投資は上海の一等地を手放した。政府主導で準備が進むハイテクベンチュアー向けの新市場では地方政府系の投資ファンドが上場候補企業に投資するケースがある。中国の株式市場は国有企業の資金調達が目的だが今年にはいり、世界有数の上昇率となりながら市場では中国株の長期保有を勧める声は聞こえてこない。全人代を控え党の党による党のための市場という実態が表に出るのはまずいのだろう。
 従来から中国では民営企業の経済面における活動が無視できない規模に成長しつつあり此の扱いに習政権も苦労している。一方で習政権は共産党指導の下での経済成長を共産党の指導によってこのような奇跡的経済成長があったと中華思想を信奉する国民に喧伝しさらなる経済成長をと宣伝している。中国の民営企業にとり政府の過剰債務の圧縮の動きと米中貿易摩擦による資金調達の面で打撃となっている。ところが習近平自身が昨年暮れに民営企業の経営者を集め「資金調達難を解決する」と皆に宣言した。この点は独裁政権の場合、すべてを独裁者に相談するので、習自身も経済に強い訳でもなく成り行きでこのようなことになったと思われる。これを可能にするためには政府は中国の通信最大手の中国移動(チャイナモバイル)や石油大手の中国石油天然気(ペトロチャイナ)などの巨大国営企業の株式を売却することだ。此により社会福祉などに必要な財源が確保され税負担も軽くなり民営への助けともなるであろう。中国の民営企業は国有企業との不公正な競争に直面している。中国の一部の企業家はトランプ米大統領の強硬な貿易戦術を応援している。彼らは米政府が国内の公正な条件への扉を開けてくれることを期待している。民営企業は地元の役人たちによる日常的な嫌がらせも受けている。役人は民営企業に賄賂を支払わせている。中国政府の上記の支援表明は肯定すべきだが同時に政府のより実質的改革を促して行かねばならない。
 筆者は民営企業の成功例として従来から大連万達集団を見守ってきた。同社は商業、文化、インターネット、金融の4大企業によって立ち上げられその後、不動産、映画制作、映画館運営、sportsなどの事業を展開している。もともと人民解放軍の軍人王健林が不動産事業から始めたもので大型shopping mall,高級ホテル、マンション販売で成功し、全米、欧州で世界最大の映画館運営会社とした。この結果彼はアジア一の富豪となった。興味深いのはマンハッタンの国連の近所にあるWaldorf Astoria Hotelを彼の部下が買収に成功したが、(外部から見ているとこのホテル買収はきわめて大きな権益をもたらすとみられていた。)本件に絡む汚職で彼の部下も摘発されてしまった。同ホテルは盗聴器が仕掛けられているとか疑惑もあり、国連US代表部は利用していない。一方王健林はよほど共産党幹部と折り合いが悪かったのか一部事業を手放さざるを得なくなっている。民営企業にも共産党は根を張り各企業には共産党の出先があり経営内容を監視している。最近の例では、百貨店事業を家電量販最大手の蘇寧集団に売却せざるを得なくなった(一説にはすくなくとも1300億元以上と言われている)。万達は商業施設「万達広場」の核テナントとして約100店の小売り店を運営したが景気減速やネット通販の影響で赤字に苦しんでいた。万達は1988年の創業だが中国経済の高度成長にのって業容も拡大した。政府の海外に打って出るとの方針にのり米映画館チエーンの買収とか映画制作会社、トライアスロン、サッカーチームなどを買収、更に従来からの商業用不動産会社も好調であった。一方買収資金の大半を金融機関からの調達に頼り、有利子負債は一時2千億元ともいわれた。ところが一昨年夏頃から中国当局が資金流出を懸念し、海外M&Aにストップをかけた。特に万達については金融機関に融資の制限を通達、万達は突如資金源の道をたたれた。 本稿でも以前に書いたがホテルやテーマパークなどの資産を同業に切り売りし、売却で得た資金を元に有利子負債は30%も減ったと言う。中国の場合国有銀行が大きな影響力を持ち、共産党の意向を受け資金の蛇口を閉めれば万達のようになってしまう。同様の事例は海航集団、復星集団、などでもあり、定款に「党の指導を重視する」などと加筆する例が多い。  

           

 

 

 

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更新日:31/03/01