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6月21日付けのフィナンシャルタイムズ紙(以下、FT)は、“経済引締めにみる毛沢東時代の余韻”との大きな見出しの下、天安門上の毛沢東の肖像と五星紅旗の写真とともに、“中央銀行が流動性供給の要請を拒否した背景には、政治的考慮の疑い”というリード付きで、以下のような記事を掲載。
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季節的・一時的要因による金利の急上昇に直面し、金融市場調節機能の発動を期待する声に対して、人民銀行は習主席の打ち出した新大衆路線運動の徹底を命じた。さらに、中銀内部の共産党員は、習主席の指導する四つの悪習―形式主義・官僚主義・享楽主義・華美な気風―に対し、攻勢を強めるよう命令された。香港中文大学の経済専門家は、中央銀行の政策がこうした運動に強く影響されていると懸念している。今回のインターバンク金利の急上昇は、市場からの資金調達を基に与信規模の拡大を図っている銀行に対する中央銀行からの懲罰であり、習主席と個人的に親しい関係にある周人民銀行総裁(二人とも革命時共産党幹部の子弟である太子党)が、定年を過ぎて総裁に再任されたことと無関係ではない。
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もっとも、FTは、6月21日付の“習は、毛沢東を手本”という記事を掲げ、表面的言動からのみで、習主席の路線を判断することの危険性を次のとおり指摘している。
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習主席は、6月18日に行った重要演説で、共産党としては、消滅を回避していくためには、毛沢東に見倣い大衆路線(共産党は、絶えず人民を理解し人民の身近にいなければならないとの考え方)を推進していく必要があると強調し、汚職と官僚制の打破に取組んでいくとの意向を表明した。
また、同主席は共産党幹部の資産公開および一人一票制の民主的選挙制度の導入等の政治改革は、近い将来に導入することは不可能であると考えている。
習主席は、経済改革の推進を主張するグループと保守派との間でうまくバランスを取っている。
海外の中国専門家は、習主席は毛沢東と同じような表現を使っているが、経済のグローバル化と多様な選択肢を持つ社会が求められていることは十分理解しており、毛体制のような経済混乱と政治不安は起きないと信じている。
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6月20日付ニューヨークタイムズ紙(以下NYT)では、“中央銀行の強硬路線により、中国は金融引締めに”の見出しで人民銀行と李首相の関係につき、以下のように報じている。
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李首相は、低利の信用供与に依存して急速な成長を実現することを止め、より安定的な経済成長を追求することを目論んでおり、6月19日の国務院会合でも、その旨決定したと新華社通信は伝えている。中国人民銀行は、他の中央銀行と異なり独立性がないため、経済が停滞状況にあるにも拘らず、この国務院決定に基づき、インターバンク市場への流動性供給を行わなかった。こうした中央銀行の行動は、株式市場を不安心理に陥れ、その結果株価は急落した。多くの市場参加者は、この金融的瀬戸際政策が長引けば、金融市場と実体経済を混乱に陥ると見ている。
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6月21日付のNYTでは、“中国のインターバンク金利はなお高水準にあるが、中国四大国有商業銀行の一つである中国銀行(Bank
of
China)がインターバンク取引で支払不能に陥ったとの地方紙報道を否定する声明を同行がウェブサイトで発表したことから、市場取引自体は何とか継続している。しかし中央政府は、こうした市場混乱に関して何の正式発表も行っていないし、中央銀行が市場に流動性を供給したかどうかも不明確である”と報道している。
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6月24日付米国経済誌“Forbes”電子版は、“インターバンク市場の混乱は、中国における政治闘争の一端が顕現化したものか”と題して次のような穿った見方を伝えている。
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インターバンク金利の急上昇に対して何もしないとの中国人民銀行の姿勢は、中国の株式市場のみならず、米国株式市場にも影響を与えている。
JPMorganの中国専門家は、Shibor金利の急上昇は、金利自由化や人民元市場の対外開放等の金融制度改革を主張している習・李新指導部に対して、中国人民銀行と四大商業銀行が仕組んだ見世物(show)であるとみている。
今回のインターバンク金利急上昇は新指導部に対して、金利を自由化した場合の恐ろしさを知らしめるために、仕組まれたようだ。これら四大商業銀行と三つの政策金融機関は、金融制度改革が進展した場合に最も大きな損害を受ける既得権益層である。
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6月22日付South China Morning
Post紙−南華早報(香港で発行されている伝統ある英字紙〔1903年創刊〕)は、“インターバンク市場金利が急騰したにもかかわらず、人民銀行の介入がなかったことは、信用膨張を抑止する方向に動き出したことを意味する”との見出しを掲げ、次のように報道している。
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最高指導部は、2008年の世界的な金融危機に対応して実施した4兆元の経済刺激策が、資産バブルを招き、結果として銀行の不良債権を増大させたことを踏まえて、信用膨張を抑え経済のバランスを回復することを望んでいる。
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一方、外銀のアナリストは、政府のやり方は長期的には、正しいとしても、短期的には、市場金利の高騰とインターバンク市場の機能麻痺を招き、理財商品を多く扱い金融市場依存度の高い中堅銀行を破綻させるリスクを内包していると指摘。
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6月22日付のエコノミスト誌は、“インターバンク市場金利高騰のショック”と題して、人民銀行の行動について次のように論評している。
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本来規制当局が防止すべきであった銀行の迂回的融資行動に対して、中央銀行が金融政策を使って、罰を与えることには違和感を強く覚える。
いくつかの銀行は債権不履行に陥るリスクを軽くみており、そうした状況下で資金繰りを締め上げることは、信用膨張を抑制する手段としては非常に下手な方法である。
より成熟した国では、こうした場合、中央銀行は市場政策金利を明確でかつ十分に計算された幅で引上げることにより、自らの役割を果たそうとするものだ。
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さらに、エコノミスト誌は、6月29日付記事で、“中国指導部が改革に積極的であることは歓迎するが、その不器用な手法には要警戒”とのタイトルで、次の記事を掲載している。
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地方政府の過度の借入依存体質を是正するためには、現行の財政・金融制度を抜本的に作り変えねばならないが、地方政府を納得させるうまい方策が思いつかないと、政府当局者は告白している。彼らは、正統的な手法ではないと知りつつ、この目的で中央銀行の金融調節能力を利用したことになる。
多くの中央銀行は、金融パニックに陥った際に最後の貸手として流動性を供給することにより銀行組織を救うための機関として設立された。中国人民銀行は、1948年に設立以降1979年までの間、国家の管理下で政府資金を割り振る唯一の貸手として機能してきた。1979年以降、徐々に中央銀行としての機能に特化していったが、こうした歴史的経緯から、同行の市場の動揺に対する感度は、相対的に鈍いと言える。したがって、6月下旬の短期金融市場の混乱は、資金不足に陥った銀行と同様、中国人民銀行にとっても再教育の場であったと捉えるべきであろう。
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6月30日付Global
Times紙−環球時報(共産党機関紙人民日報の国際版)は、インターバンク市場が6月初から月末にかけて急上昇した状況を、中央銀行の対応と共に淡々と記述。米国FRBの量的緩和見直しの噂を受けての中国からの資本流出が見られたことも金利急上昇の原因の一つであることを強調した点が特徴。