私は、最近の日本の尖閣問題の処理の仕方について危惧を持っている。日本国内は、拿捕は当然だという考えを持っているが、この考えは本当に正しいのであろうか。10月2日毎日新聞社の世論調査では「中国船長の逮捕は適切」が83%である。拿捕直後、朝日、読売、日経、毎日の各紙は社説で「拿捕」当然と記述した。それでいいのか、私は少し異なる考えを持っている。
日本国民は「尖閣諸島が日本領」に何の疑問もない。では中国はどう思っているか。この点は意外に日本では知られていない。1996年北京週報第34は「明、清朝時代の文献は、尖閣は中国の領土として扱かっている。中国が国連加盟し国際社会に復帰してから中国領と主張している」と記している。では日本の同盟国米国は尖閣諸島をどう扱っているか。多くの人には意外であると思うが、国務省報道官は「尖閣には日中で異なる考えがある。領有権で米国はいずれの側にもつかない」と述べている。米国情報機関CIAのFACT
BOOK(注1)は、尖閣を係争地としている。
管政権誕生の初閣議で管首相は「尖閣諸島をめぐり、解決すべき領有権の問題はそもそも存在しない」という答弁書に署名した。従って日本国内では、日本の国内法に基づき粛々と進めることが正しいとの世論となっている。
しかし、米国を含め国際世論がこの地を係争地として扱うとなると事態は変わる。係争地での公権力の発動は容易に武力衝突に発展する。私が外務省に入りモスクワ大学に留学中の1969年、ウスリー川(注2)の小島の帰属を巡り中ソ両軍が衝突した。双方約40名の死者を出した。
中国が尖閣列島を自国の領土と主張し、米国等は中立の立場であると「粛々と国内法」の適用が最善か不明になる。中国も自国法で粛々と行動することとなる。衝突は不可避となる。
この状況を脱するため中国は棚上げを提示した。1990年、斉中国外交部副部長は橋本駐中国大使に対して「釣魚島は昔から中国の領土。中国は主権を持つ。他方日本は見解を異にしている。中日国交正常化交渉の時、双方は問題を後日に棚上げすることに同意した。中国側はこの了解は非常に重要と認識している」と述べた。
日中双方が領有を主張する中、「棚上げ」方式は日本に有利な方式である。棚上げでは日本の実効支配を認める。実効支配が長期化すれば次第に領有権が認められる。日中国交回復の時に周恩来首相が「小異を残し大同につく」と述べたのはこれを意味する。この方針はその後、ケ小平副首相に引き継がれた。
この姿勢に今中国では異論が出ている。最近でも9月27日付香港商報報道によれば羅援少将が「ケ小平は“論争を棚上げし、共同開発する”という方針であったが、主権は棚上げできない。主権は明確にしなければならない」と強調している。
双方が主権を主張し合えば緊張がでる。中ソ国境衝突のような事態は容易に起こりうる。1978年には中国の約100隻の漁船が尖閣諸島周辺に出て、約10隻が12海里の中で操業し、二週間留まった。
国際社会で出来れば自分の主張を貫きたい。しかし時として代償が伴う。「主権は双方主張、解決は棚上げ、共同開発模索」が最善の策と思う。