ウィキリークスは秘密を暴露し公開するサイトである。本年4月米軍ヘリコプターがイラク市民を銃撃し殺傷する事件の動画を公表し反響を呼んだ。更にウィキリークスは25万件の米国外交文書を入手し、11月その内の一部を公表した。
この中には米国外交官がサルコジ仏大統領を「怒りっぽい権威主義者」、イタリア首相を「無能で空っぽ」ドイツ首相を「創造性に乏しい」、ロシアを「事実上のマフィア国家」、金正日総書記を「脳卒中の結果、トラウマを負った」等酷評を行ったことが紹介された。更にクリントン国務長官が国連事務総長等の身辺調査をするよう指示したことやサウジ国王が米政府にイラン攻撃をするよう求めたことが紹介された。
日本関係も幾つかある。国連原子力機関は国際機関で中立が求められる。この中、天野事務局長が米国大使に「高官人事からイランの核兵器開発疑惑まで、あらゆる戦略的な重要決定に、断固として米側に立つ」と述べたと報じられた。またキャンベル国務次官補が本年2月韓国を訪問した際、韓国側に「民主党は自民とは完全に異なる」「岡田外相、菅財務大臣と直接接する必要がある」と述べたことが報道された。米国が反鳩山、反小沢に動いたことを示唆している。
重要情報が次々暴露されたことに衝撃が走った。この暴露事件をどう評価したらよいのか。
通常外交文書は25年ないし30年後に公開される。今回の暴露には本年のものも含まれる。ウィキリークスは豪州人アサンジの創設であるが、時代の産物と言える。今日、外交・安全保障上の情報はほとんど電子化されている。電子化された情報を盗み出す技術は向上する。阻止するため法制度を強化しても、第二、第三のウィキリークスが現れるのを止められない。
これは外交の在り方を大きく変える。外交交渉がある。表向きの議論がなされる。その裏で、表で言えないが、本当はこう思っているという本音ベースを常に探ってきた。本音ベースのやり取りが外交交渉の成果を左右してきた。しかし、この本音ベースのやり取りは公開を前提としていない。今回のように、発言内容がいつ公表されるか解らない事態になれば、本音ベースのやり取りは激減する。従来の外交的成果も減少する。一見マイナスのように思える。
しかし、よく考えてみると、公表できないことを話し、それを基礎に出来る外交成果が望ましい事態だろうか。
公表を前提にすることは、各人、各国の言動に説明責任を求めることである。対外的に充分に説明責任を果たしうる言動を基礎に国際関係を構築していく、この流れは基本的に好ましいことなのではないか。
長年、外交は秘密裡に行うものとみられてきた。そして今その基盤が崩れようとしている。多くの人は戸惑い抵抗する。
今日、国内政治、企業経営など説明責任が求められている。一時抵抗があった。しかし、結果として社会にプラスを招いた。同じ風が国際政治にも出てきている。
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