中国が世界経済の中心となるとの考えは米国にも見られる。2011年1月20日ニューヨーク・タイムズ紙は「中国の勃興を受け入れて(Accepting
the Rise of China)(注5)でイメルトGE社会長が「2007年まで米国は世界経済の牽引車であった。しかし今後25年世界経済のエンジンは米国消費者でなく、アジアの中流である。ゲームは中国で展開される」として、今後は中国市場に如何に取組むかが課題であるとしている。
この中、中国はTPPに対して「参加するかしないかは研究段階である」「中国も日本も韓国も似た面がある。ずばり農業だ。いったん市場を開放したらどうなるのか」(2010年11月9日
日本経済新聞「中国、TPPに関心。程永華大使」)とし、やや消極的態度を示している。
TPP加盟候補の中で圧倒的比重の高いのは米国、日本である。米国に関しては関税率(貿易量加重平均)は全品目で2.0%、非農業分野で1.9%で(2011年3月12日付東洋経済)、為替の変動など考慮すれば、今やほとんど貿易阻害要因ではない
対米輸出に関しては例えば自動車産業など日本からの輸出には限界があるとして米国国内での生産に移行している
TPP内に日本と同種の貿易構成を持つ国があまりなく、入らなければ競争力が低くなる現象はほとんど出ない
最大の問題はTPPに入る利点が比較的小規模と見られるに比して、日本は大幅の社会変革を求められていることである。すでに日本医師会は12月1日「医療分野に関してはTPPへの参加によって、日本の医療に市場原理主義が持ち込まれ、最終的には国民皆保険制度の崩壊につながりかねない面もあることが懸念される。具体的な懸念事項として日本での混合診療の全面解禁(事後チェックの問題を含む)による公的医療保険の給付範囲の縮小等」を指摘した(注6)。
農業、政府調達(海外の事業者と国内事業者との区別をしないこと)、労働(人の移動の自由化)、各種サービス分野の規定によって日本人の雇用環境が悪化することが考えられる。米国、欧州始め多くの国の経済政策の最重要点が雇用である。この中雇用環境につながる経済政策をとることは、社会環境の悪化につながり、米国における治安分野への大幅出費に見られるように、他部門へのマイナスを助長する
経済効率を追求する名目の下に、雇用・医療等生存に直結する分野で日本社会での弱者層への圧迫が深化する。
様々な論点を述べたが、日本の貿易政策で今一番重要なのは対米貿易環境ではない。中国を始めとする東アジアへの貿易環境である。TPPはそれと直接関係がない。少なくとも現時点では中国は消極的である。今考えるべきは中国とも貿易環境がどうあるべきかである。日・中・韓3ヶ国で言えば、各々が農業問題を除外して貿易環境を整備することに関心がある。