2010年私はNHKの討論会等で普天間基地の県外移転を主張した。その時何としても辺野古へ移転すべきであると主張していた人が次のように発言した。「日本は北方領土、竹島、尖閣列島を抱えている。これらを守るためにも強固な日米関係が必要である」。従って普天間移設問題を議論する時、「日本は領土問題を抱えている。米軍の存在が領土問題で日本の立場を守ってくれる」という論がどこまで正しいかを正確に理解する必要がある。
米軍が日本を守る義務を決めているが日米安保条約である。条約第5条は「日本国の施政の下の領域に対する武力攻撃があった時は、両国は自国の憲法に従って行動する」と決めている。この条項で重要なのは「日本国の施政の下の領域に対する武力攻撃」である。この記述をよく見ると、米国が日本の島を守る義務はほとんどないことが明確になる。北方領土、竹島は日本の管轄外ないので安保条約の対象外である。だから、「日本は北方領土、竹島、尖閣列島を抱えている。これらを守るためにも強固な日米関係が必要である」の台詞の内、北方領土、竹島は該当しない。
では尖閣諸島はどうなるか。これは巧妙な構図になっている。結論からいうと米軍は出ない。この問題点を最初に示したのがモンデール駐日大使で、1996年9月15日ニューヨーク・タイムズ紙は「モンデール大使は“米国は(尖閣)諸島の領有問題にいずれの側にもつかない。米軍は(日米安保)条約によって介入を強制されるものではない”と述べたと報じた(注1)。
その後、米国の基本的立場は次のとおりとなる。
・1972年の沖縄返還以来、尖閣諸島は日本の管轄権の下にある。1960年安保条約第五条は日本の管轄地に適用されると述べており従って第五条は尖閣諸島に適用される。
・尖閣の主権は係争中である。米国は最終的な主権問題に立場をとらない。
これで多くの人は米軍は尖閣諸島に出ると判断している。見事な誘導である。しかし一つの仕掛けがある。2005年10月、米国側の国務長官と国防長官と日本側の外務大臣と防衛庁長官の間で署名された「日米同盟 未来のための変革と再編」(注2)では互いの役割・任務が規定され、日本の役割として「島嶼部への侵攻への対応」がある。つまり尖閣諸島へ中国が攻めてきた時は日本の自衛隊が対処する。ここで自衛隊が守れば問題ない。しかし守りきれなければ、管轄地は中国に渡る。
その時にはもう安保条約の対象でなくなる。つまり米軍には尖閣諸島で戦う条約上の義務はない。この点を明らかにしたのがアーミテージ元国務省副長官である。彼は著書『日米同盟vs.中国・北朝鮮』で「日本が自ら尖閣を守らなければ(日本の施政下ではなくなり)我々も尖閣を守ることが出来なくなるのですよ」と述べている。
条約は別として米軍が軍事的に出ることはどこまで可能か。2010年10月3日付産経ニュースは次の報道をした。第1段階では、日米両軍で制空権、制海権を瞬時に確保後、尖閣諸島を包囲し中国軍の上陸部隊の補給路を断つ。第2段階は、陸上自衛隊の空挺部隊が尖閣諸島に降下し、投降しない中国軍を殲滅する。実はこれは実施困難である。2010年11月4日付ワシントン・タイムズ紙は「中国のミサイルは米軍基地を破壊できる」の標題で「480の中・短弾道弾、350のクルーズ・ミサイルで在日米軍基地(嘉手納、横田、三沢)を破壊できる」と報じた(注3)。如何に優秀な戦闘機を持っていても基地の滑走路が破壊されれば、戦闘機は機能しない。
私達は極めて安易に米軍は日本を守るために何でもしてくれると思っている。実態は違う。我々は米軍が具体的に如何なる貢献をするかを冷静に見つめ、米軍基地の存在の意義を論ずる必要がある。