昨年12月17日、金正日総書記は心筋梗塞で死去した。12月28日平壌で告別式が行われた。
この動きは二つを意味する。一つは金正日体制の終わりである。金正日は1997年以来、14年北朝鮮に君臨した。今一つは新政権の誕生である。金正日の三男金正恩が次期指導者であることを明確にした。
金正日の遺体を載せた霊柩車がゆっくり動き、その右側先頭が金正恩、その後に故金正日の妹婿である張成沢国防委員会副委員長、左側先頭に李英鎬軍総参謀長が立った。この位置取りは極めて明確なメッセージを国民に発信した。金正恩を支えるには二つのグループがある。一つは軍、今一つは金正恩の姻戚グループである。
北朝鮮は今「先軍政治」と呼ばれる体制を取っている。軍が全てに優先する。葬儀の中で、軍人の隊列の多さが目を引く。北朝鮮で今後軍事を最優先する
体制が敷かれることは間違いない。北朝鮮の祖国平和統一委員会は1月5日、「抑止力は革命遺産。貴重な遺産を支援と取引できると考えるのは愚かな誤算に過ぎない」と表明したのも、この流れの中にある。
次いで金正恩の姻戚グループである。その代表者が金正日の妹、金敬姫とその夫、張成沢である。このグループはまだ党内基盤が確固としていない。葬儀の数日前に葬儀委員リストが発表されたが、両名の順位は各々一四番目、一九番目程度である。それが葬儀で張成沢は李英鎬軍総参謀長と共に金正恩を支える最重要人物と扱われている。
張成沢の地位は単に個人の問題ではない。北朝鮮がどの方向にいくかを示す鍵となる。張成沢は2002年10月、労働党組織指導部第1副部長の肩書きの下、韓国を訪問している。ここでサムスン電子等を視察し、韓国経済の発展に深い関心を見せた。北朝鮮の将来は軍を中心として厳しい社会体制をとるか、自国の経済・社会の開放政策をとるかの岐路にある。後者の場合、張成沢が中心になる。
北朝鮮の動向には中国が相当の影響を与える。中国は共産党等の連盟で「朝鮮人民が、金正恩同志の指導の下で、社会主義国家の建設と朝鮮半島の恒久平和のため前進しつづけると信じている」として、金正恩を支持することを鮮明に打ち出している。 同時に北朝鮮が改革路線に行くのを期待している。北朝鮮軍部は中国が改革路線にひきずりこむのを警戒している。
では韓国はどうか。軍は一時警戒を高めた。かつ葬儀に公式代表団を送っていない。他方、元韓国大統領の李姫鎬夫人と現代グループの玄貞恩会長が北朝鮮を訪問した。
北朝鮮は日本の脅威である。それを前提として、如何に北朝鮮との間の敵対的雰囲気を和らげるかが我が国にとって極めて重要である。特に新しい政権は過去と決別する機会を持っている。まさに「北風と太陽」である。日本が北朝鮮に対して「北風」でのみ対応する政策でいいかを考える時期にきている。
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