知財問屋 片岡秀太郎商店  会員登録(無料)
  chizai-tank.com お問い合わせ
HOME 右脳インタビュー 法考古学と税考古学の広場 孫崎享のPower Briefing 原田靖博の内外金融雑感 特設コーナー about us  
 

孫崎享のPower Briefing

私は今、日本の戦後史を見直している

2012/2/26
 

孫崎 享
(twitter)

  私は今、日本の戦後史を見直している。

 見直す契機は普天間問題である。鳩山首相が普天間基地を「最低でも県外移転」を目指すとしたのは決して間違っていない。普天間基地が住宅密集地にあること、日本で沖縄が圧倒的に多くの基地を抱えていることを考えれば、当然の提案である。この当然の提案が日本の立場にならず、外務省、防衛省は首相に協力しないばかりか、足を引っ張り、マスコミは叩き、米国に媚びをうる政治家は米国と違う方向で協議するという淋しい状況が出た。

 でも、こうした現象は日米関係の歴史では特異でない。しばしば発生している。まず、歴史を見極めようと、今、日米関係を「対米従属」と「自主」の視点で問い直している。

 戦後日本は大変な経済困難に陥る。この中、米国が食料支援をした。従って「日本は米国に救われた」という見方がある。しかし実態は異なる。日本政府は莫大な占領経費を負担している。一般会計歳出に占める割合を見て見たい。1946年―32%、1947年―31%、1948年―23%である。国家予算の二割から三割、占領軍の経費に払っている。

 この状況に日本人はどう対応したうか。2つのタイプがでる。

 「占領下だから言ってもしょうがない。なまじっか正論を吐いて米国に睨まれたら大変だ」と思う人がいる。吉田茂である。他方、「自分の方が正論である。従って言うべきことは言う」という人がいる。石橋湛山(注1)である。その当時石橋は大蔵大臣である。

 結局、石橋湛山はGHQによって、1947年5月16日公職追放される。

 石橋湛山の側近石田博英(注2)は『石橋政権・七十一日』の中で次のように記述している。

 「石橋蔵相が力を入れた問題に戦後処理費の削減がある。当時は国民の中に餓死者が出るという窮乏の時代にもかかわらず、進駐軍の請求の中に、ゴルフ場、特別列車の運転、はては花や金魚の注文書まで含まれていた。総額は60億ドルになると記憶しているが、石橋蔵相はあらゆる手を尽くして、それを削減した。“私が終戦処理費の削減を強力に主張したので、それが司令部の憎むところになり、追放をうけたと風説するものがある。しかしそれは誤りだ”と石橋先生はこう否定しているが、この終戦処理費削減問題こそ、石橋追放の原因と信じている。実際昭和21年秋頃になると、GHQの石橋蔵相に対する反感は著しいものになっていた。石橋先生自身でさえ、日記に“GHQにて予に対する反感甚だしと伝ふ”と書いているのである。終戦処理費削減などの問題で日本の立場を堂々と主張してGHQの反感をかったこと、そしてそのようにGHQに反抗する石橋蔵相に国民的人気が集まり、自由党内で重きをなすにいたったことにGHQが危惧を抱いた点にあると私は考えている。」

 また、石田博英は「石橋先生の女婿で外交官の千葉皓氏がある席でケーディス民政局次長(注3)に会ったところ、ケーディス氏が、あの当時、石橋があるシンボル(自主、反米)になろうとしたので、我々としても思い切った措置に出ざるをえなかったと述べた」と記述している。

 この時の石橋氏の言葉が重要である。

「あとにつづいて出て来る大蔵大臣が、おれと同じような態度をとるんだな。そうするとまた追放になるかもしれないが、まあ、それを、2,3年続ければ、GHQ当局もいつか反省するだろう」

 でも、日本ではそうはならない。むしろ逆である。警告が出ると、我先にその警告を自分の行動の指針にする。

  石田氏は更に続ける。

「石橋追放の噂が強まったころ、私たち石橋先生に世話になった議員が集まり作戦を練ることになり、37,8名の同志が顔をみせた。しかし事態が急転し、追放が決定した。驚いて再び同志に召集をかけたところ、集まったのは自分を含め3人でしかなかった」

 「こうした態度が国益になるのか」を問う日本の風土が作れるか、そこが最大の課題と思う。
 

注1

http://ja.wikipedia.org/wiki/石橋湛山:最終検索2012年3月1日
 

注2

http://ja.wikipedia.org/wiki/石田博英:最終検索2012年3月1日
 

注3

http://ja.wikipedia.org/wiki/チャールズ・L・ケーディス:最終検索2012年3月1日
 

 

 

 

chizai-tank.com

  © 2006 知財問屋 片岡秀太郎商店

更新日:2012/09/15