仲裁といえば、普通は、私人と私人との間の紛争を解決する制度と考えられていますが、例外として、国家と国家との間の紛争を解決する制度としての仲裁もあることは、前回(第58回)の租税(条約)仲裁で述べました。さらに例外として、私人と国家との間の紛争を解決する制度としての仲裁もあります。ただし、このような仲裁には2種類のものがあります。たとえば、投資協定仲裁は、投資家としての私人とその投資先である外国の国家との間の紛争を解決する制度ですが、税務仲裁は、納税者である私人と税務当局としての国家との間の紛争を解決する制度です。今回(第59回)は、前者の投資協定仲裁を取り上げ、次回(第60回)は、後者の税務仲裁を取り上げることにします。
たとえば、2003年(平成15年)1月1日に発効した日韓投資協定(注1)を見ましょう。国家(日本国)と国家(韓国)との間の紛争処理に関しては、協定第14条が適用されます。要約すると、「締約国は、協定の解釈等について協議を行う。円満な解決が図れない場合、拘束力を有する決定を得るため、一方の締約国の要請に基づき、仲裁裁判所へ付託される」ことになっています。さらに、私人(日本または韓国の投資家)と国家(韓国または日本)との間の紛争処理に関しては、協定第15条が適用されることになっています。要約すると、「当該紛争が生じた場合、可能な限り協議または交渉によって処理されなければならない。処理されない場合、投資家は(1)国際投資紛争解決センター(注2)、または(2)国連国際商取引法委員会仲裁規則等(注3)に基づく紛争解決方法に訴えることができる」ことになっています。