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大塚正民の考古学と考古学の広場

89回 信託その10:信託と税務(日米比較その5)

2014/1/1

大塚 正民

大塚正民 法律会計事務所
 

アメリカでは「撤回不能生命保険信託(Irrevocable Life Insurance Trust: ILITと略称されます。)」という保険商品があります。極端に簡略化した例は、つぎのようなものです。父親Fが信託を設定します。設定者は父親F、受託者はX、受益者は息子Sです。設定者Fは受託者Xに1万ドルを預けます。受託者Xは、Fを被保険者とし、保険金受取人をXとする生命保険金100万ドルの生命保険契約をY保険会社と締結し、最初の保険料として上記の設定者Fから預かった1万ドルをY保険会社に支払います。爾後、設定者Fは毎年1万ドルを受託者Xに預け、Xは爾後の保険料として毎年1万ドルをY保険会社に支払います。Fの死亡によりY保険会社からXに支払われる100万ドルはSに分配されます。何故このような保険商品が売れるのでしょうか?
最大の理由は、この死亡保険金100万ドルが全く無税になることです。保険金を受け取ったXはもちろん分配を受けたSにも所得税課税はありません。内国歳入法典§101(a)が「生命保険契約に基づき受け取った死亡保険金は非課税所得とする。」と規定しているからです。加えて、被保険者Fの遺産としての遺産税課税もありません。内国歳入法典§2042が「生命保険契約に基づき受け取った死亡保険金は、(1)死者の遺言執行者が受け取った場合には、死者の遺産に含まれるが、(2)死者の遺言執行者以外の者が受け取った場合には、その死者がincidents of ownershipなどの一定の特別権限を有していた場合に限って、死者の遺産に含まれる。」と規定しているからです。つまり、死者Fの遺言執行者以外の者であるXが死亡保険金を受け取った場合には、原則として、Fの遺産には含まれないので、被保険者Fの遺産としての遺産税課税もないのです。
付加的な理由として、設定者Fは毎年1万ドルを受託者Xに預け、Xは爾後の保険料として毎年1万ドルをY保険会社に支払うことになっていますが、この1万ドルが全く無税になることです。前回(第88回)で述べましたCrummey trustが利用されます。つまり、受託者Xは受益者Sに対して、つぎのような通知をします。

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本件信託に定期的に信託財産が追加されることのお知らせ
受託者Xより受益者Sさんへ
20xx年xx月xx日に、本件信託に対し10,000ドルの信託財産の追加がありました。次回以降のお知らせがあるまで、毎年xx月xx日頃に、本件信託に対し10,000ドルの信託財産の追加がある予定です。(i)このお知らせを受領された日、または、(ii)信託財産の追加があった日、のいずれか遅い日から起算して30日を経過する日までに、受益者であるSさんは、これら信託財産の追加分を本件信託契約上の条項に従って引き出す権利を有しています。この権利を行使したいとのお考えであれば、直ちに私にご連絡ください。あなたから反対の意思表示がない限り、私は、あなたはこの権利を行使したくない、そして、このようなお知らせは今後不要である、とのお考えであるとの前提で行動致します。

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このような「猿芝居的」通知によって、贈与者Fは受贈者Sに対し毎年10,000ドルの現在権の贈与を行ったものとみなされるのが、Crummey trustというアメリカの信託実務です。贈与税控除限度額11,000ドル以下の現在権の贈与ですから、贈与税の納税義務者であるFには贈与税の課税がないのです。


 

   
   
   




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更新日:2013/12/31