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大塚正民の考古学と考古学の広場

97回 信託その18:信託と税務(日米比較その13: simple trust)

2014/9/1

大塚 正民

大塚正民 法律会計事務所
 

今回から数回にわたって、信託の税務の日米比較の対象として、アメリカ連邦所得税上の “simple trust,” “complex trust,” および “grantor trust” ならびにアメリカ遺産税上の “incidents of ownership” を取り上げます。
Simple Trust (単純信託)
アメリカ連邦所得税上のsimple trust(単純信託)とは、complex trust(複雑信託)との 対比での呼び名です。Simple trustは、その信託の条項上、その信託の当期収益の全額をその受益者に当期に分配すべきものとされる信託です。これに対してcomplex trustは、その信託の条項上、その信託の当期収益の全額をその受益者に分配する必要がなく、その当期収益の全額または一部を信託内に留保することが出来る一方、その信託の元本を取崩してその信託の受益者に分配することも出来る信託です。
信託設定者(Settlor S)が受託者(Trustee T)に現金20萬ドルを移転し、Tはこの現金を銀行預金にして毎年5%(1萬ドル)の利子を受領し、毎年この1萬ドルの信託収益を受益者(Beneficiary B)に分配するものとする信託はsimple trust(単純信託)です。この信託というtaxable entity(納税主体:納税義務者)は、毎年1萬ドルの当期収益がありますが、内国歳入法典§651(a)注1に従って、Bに分配する1萬ドルが控除されますから、結局は課税所得ゼロとなります。受益者Bは、内国歳入法典§652(a)注2に従って、分配された1萬ドルが課税所得になります。 
かりに毎年この1萬ドルの信託収益の受益者をBでなくCにするとか、または、BとCの双方に適宜分配するとか、その分配の仕方がTの裁量に委ねられていたとしても、その信託の条項上、その信託の当期収益の全額をその受益者に当期に分配すべきものとされていれば、その信託は単純信託です。従って、連邦所得税上の結果は変わりません。つまり、納税主体としての信託は課税所得ゼロで、受益者BまたはCは実際に分配を受けた金額が課税所得となります。
これがcomplex trust(複雑信託)となりますと、まさに事態はcomplex(複雑)になります。上記のように、その信託の条項上のTの受託者としての役割が、その信託の当期収益の全額をその受益者に当期に分配すべきものとされていれば、その信託は単純信託です。ところが、その信託の条項上のTの受託者としての役割が、その当期収益の全額または一部を信託内に留保することが出来る一方、その信託の元本を取崩してその信託の受益者に分配することも出来るものとされていれば、その信託は複雑信託です。たとえば、その信託の条項上の権限に基づいてTはBに対して1萬5,000ドルを分配したとします。当期収益1萬ドルを超過するこの5,000ドルは元本の取崩しになります。この複雑信託の連邦所得税上の結果はどうなるでしょうか?次回(第98回)で検討しましょう。

 

脚注
 
注1

Sec.651(a): (a)Deduction – In the case of any trust the terms of which –
(1) provide that all of its income is required to be distributed currently, and
(2) do not provide that any amounts are to be paid, permanently set aside, or used for the purposes specified in section 642(c) ・・・
there shall be allowed in computing the taxable income of the trust the amount of the income for the taxable year which is required to be distributed currently. ・・・

注2

Sec.652(a): (a)Inclusion- Subject to subsection (b), the amount of income for the taxable year required to be distributed currently by a trust described in section 651 shall be included in the gross income of the beneficiaries to whom the income is required to be distributed, whether distributed or not.・・・

   
   


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更新日:2014/09/30